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  夫を躾直します。お話をさせましょう。②

 会話って言葉を投げかけて、それに対して言葉を投げ返し、いかに楽しむかっていうある意味知的な運動だと思うんですよね。


 それをこっちが全力で投げかけた言葉を吸収して受け止めて終ってしまわれると、こちらとしては、投げ続けるしか手段がなくなってしまいます。

 しかも相手の懐の深さと言ったら底なし沼級に深く、弾き返してくることすら無いとなると、息切れを起こしていさぎよく諦めたくなってきました。


 まぁ、夫は喋らないだけでこちらの話を聞こうとする姿勢はありますので、まだ救いがありますが。これで聞いてさえ貰えなかったらさすがの私も匙を投げていたことでしょう。

 数日、食事の際にこの不毛で一方的な全力投球を続けていたのですが、今日はもっと直球で勝負してみたいと思います。


 勝負の時は、夕食後のひととき。

 もし惨敗してもすぐにふて寝出来る素晴らしい時間帯です。これぞ計画的犯行! 惨敗を予測して逃げ道を作っておく辺りが私らしいです。

 さぁ、夫がゆっくりと晩酌しているところを急襲します!


「旦那さまはどうしてあまりしゃべらないのですか!?」


 超直球勝負!!

 さぁ、どう出る!?

 首を傾げるか、無言で流すか、無反応で無視するか。

 夫は無表情のまま、お酒を一口飲むとじっとこちらを見つめてきます。これは無反応で無視する方向ですね!? そうはさせません!


「話をしないと、お互いに分からないことが沢山あって、誤解とかすれ違いとかが起きてしまうと思うんです! だから、お話しませんか!?」


 夫は多分外でも無口な人だと思うので、このままではご近所付き合いもままならなくなってしまう可能性があります。多分、夫の知っている街角情報よりも、私が友人から仕入れているものの方が多いに違いありません。


 情報って大事ですよ。知らないで危険にさらされていることだってあるんです。滅多にない素晴らしい機会だって知らなかったらあっという間に通り過ぎてしまいます。情報交換の基本は会話ですから、夫にはもっと会話に積極的になってもらいたいんです。


 もちろん夫婦仲にも著しく影響しますから、次なる奥様のためにも会話には慣れていただきたいところ。


 固唾を飲んで夫の反応を伺って、少し驚きました。

 夫が少し複雑そうな表情をしています。無表情が基本の夫の表情筋が活動している! 珍しい!


「・・・何を誤解していると?」


 夫がしゃべった!!


 あの無い無い尽くしの夫がしゃべりました! しかも、会話らしい会話を投げ返してきてくれたのです!!

 私は感動で思わず夫を凝視してしまいました。


 挨拶以外で言葉を交わすのっていつぐらいぶりでしょうか!?


 少なくとも三月以上前なのは間違いありません。ゆっくりとした低音の声に多少不機嫌さがあったとしても、この感動には代え難く・・・って、あれ? え? 不機嫌?


 さらに驚いて夫の顔を見つめると、眉間にシワが寄って、とても不機嫌そうです。

 こんなに不機嫌そうな顔は、初めて見ました。夫の基本は無表情で、時々感情がチラッと横切る程度ですから、こんなにはっきりと感情を表に出すことはこれまでありませんでした。

 良いことだと思うのですが、クマさんみたいな夫が不機嫌な顔をすると、こんなに怖いものなんですね。これならいつもの無表情のままでいて欲しかったかも、なんて思ってしまった私はまだ覚悟が足りません。


 いけない、脱線してしまいました。

 今の話題は誤解、誤解についてでしたね。今している誤解と言えば。


「えーと、例えばですけど、私、奥側で寝なくても寝床から落ちたりしませんから、旦那さまは奥側で寝ていいんです。奥側の方が好きですよね?」


 とっさに思いついたのは、これでした。

 夫はいつも必ず私を寝床の奥側に寝かせるのですが、どうやら私を外側にすると、寝ている間に落っこちると思っているようなんです。一緒に暮らすようになってから、そんな失敗はしていないはずですし、最初の頃は普通に外側で寝ていたような気がします。保護者が密告したのでしょうか? でも保護者のところでも寝床から落ちるなんて、一度しかやっていないのですが。


 それに、夫はいつも私が起きた後の短い時間で二度寝をしているようなのですが、そのとき寝室をのぞくと、いつも私が居た奥側で寝ているんですね。ということは、やっぱり奥の方が好きってことですよね?

 私は寝床から落ちたりしませんし、どちら側でも気にしません。


 勢い込んで言うと、夫はもう不機嫌な顔はしていませんでした。ただ、最近よく見るようになったちょっと驚いたような表情を浮かべて片手で顔を押さえるとうつむいてしまいました。


 ・・・どうしたんでしょうか?




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