表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/47

13  限りある時間を有効に使いましょう。②

 例えば。


 夫の基本が無表情だとするならば。

 私の天敵である教師の基本は微笑みです。


 こげ茶色の瞳で感情と心情を雄弁に語るのが夫とするなら。

 教師の水色の瞳は、決して何も気取らせません。


 要するに、教師は腹黒なのです。真っ黒けです!

 微笑みを浮かべていながら、本当はちっとも笑っていなくて、その表情のまま、心に突き刺さるような嫌味を次々といってくるんですから、間違いなしですよっ!


 今もありがたい黒のリーフェリアとしての心得を説いているのですが、それらは全て、巧みに裏の意味が込められています。非常に頭の良い方なんでしょうが、そんなところで頭を使って特技を披露しても、それってなんの自慢にもならないと思うんですよね、本当に。


 奥方さまから教えていただいたのですが、教師は私がこちらに渡って来てしまうずっと以前から、黒のリーフェリアを捜す名目で、それとは真逆の動きをしている人なのだそうです。


 私たち5人は全員、保護者によって保護されていますが、この教師と保護者は師弟関係にあるのだそうです。

 奥方さまと保護者が出会う前から自由にお館に出入りしていて、私たちのような「訪れし者」と呼ばれる渡り人に、次々と縁談話を持ち込んでいたのだとか。


 まぁ、そういう意味では、私と夫が出会うきっかけを作ってくれた一人だとも、いえなくはないんですけどね。うん、そう思うと、なんだかちょっと感謝したくなってしまうかも・・・。


 いえ! 夫と引き合わせてくれたことと、今回のこの件は別問題です!


 とにかく、今年は黒のリーフェリアがいないと思って安心していたところに私がしゃしゃり出てきてしまったので、非常に怒っているようです。

 でも、私だって目的があってここまで来ているわけですから、絶対に黒のリーフェリアを降りたりしませんとも!


「・・・黒のリーフェリア。私の話を、聞いていませんね?」


 あ、まずい。決意を新たにしていて全く聞いていないのが、ばれました。


「あなたは。本当に。」

「フローイン教師、そのくらいにしてあげなさい」


 氷よりもなお冷たい声で、本格的に嫌味の槍が降って来る予感に首をすくめていると、教師と同じ真っ白な、でも豪奢な神官服に身を包んだ男性が割って入ってきました。


 ・・・この神殿の、神官次長です。

 神官長の次に偉いから神官次長。そのままですね。

 教師と同じく、ぱっと見はとても優しげな表情をしています。


「せっかく立候補してくれた黒のリーフェリアを、そういじめるものではないよ」


 たしなめながら、神官次長は、私の手を取りました。


「祭りまであまり日はないが、焦らず、ひとつひとつ覚えていけばいい。なに、前夜祭までに覚えられなければ覚書をこっそり用意したっていいのだからね」


 にこり、と笑いながらちゃめっけを発揮するのは、私が緊張していると思い、それを解きほぐそうとしてくれているからでしょう。私は、不自然にならないようにそっと手を取り返すと、長い袖の中に隠しました。


「・・・ありがとうございます、デールイ神官次長さま」

「本当は本祭の方もぜひ一度見てもらいたかったが、君は前夜祭で帰還することになるからね。せめて、それまでの間に街を見てまわるといい」


 結婚後に夫と友人の目を盗んで一人で街に買い物に出ていた私に、リーフェリア祭の前夜祭こそが、自分の家に、世界に帰還するための儀式だと教えたのは、この神官次長でした。


「それでは、一度見てみたい場所があるのですが、お許しいただけますか?」

「おや。それは、神殿の中かな?」


 そして、その儀式に参加したものは、みな無事に帰還を果たしている、とも。

 とても優しげな声で、そう、いいました。


「はい。前夜祭の儀式の会場が見てみたいんです。全然知らない場所だと、緊張してしまって、手順も何も忘れてしまいそうなので・・・」

「もちろん構わないとも。そうだな、私はこの後フローイン教師と話があるから、この者を案内につけよう」


 その日から、私の中に、ひとつの推測が生まれました。


「ありがとうございます」


 お礼を言ってから、一応、教師にも頭を下げて挨拶すると、神官次長の後ろに控えていた少年が一歩先を歩き出し、その後ろをゆっくりとついていきます。


 教師の鋭い視線が、私の背に突き刺さっているような気がしましたが、気のせいだと思うことにしました。


 黒のリーフェリアの衣装が、袖の長い黒衣でよかったです。


 ・・・白くなるほど握り締めた、震えるこぶしを隠すのに、ぴったりでした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ