13 限りある時間を有効に使いましょう。①
それからの日々は怒涛のごとく、でした。
夫の家を出たその足でまずは友人宅に向かい、何も聞かずに部屋を用意してくれた友人に付き添ってもらって、保護者宅へ報告へ向かいました。
ここでかなり体力と精神力を消耗するひと悶着がありましたよ。結局、どうにか夫と離縁したことを理解してもらうのに、一昼夜かかってしまいましたし。
・・・その間に、みるみるうちに保護者がやつれて行ったような気がするのですが、たぶん、気のせいですよね?
その日は、時間も遅いから、とそのまま泊めていただくことになったのですが、保護者と奥方さまが入れ替わり立ち代り、思い直すように説得してきました。
友人には先に帰っていてもらっていたので、完全な2対1です。
やっぱり、一筋縄ではいきませんね、保護者夫妻は。
対峙しているだけで、10歳は老け込んだ気分になりました。そして、二人とも引きません。引いているように見せて、がんがん押してくるタイプの二人です。似たもの夫婦ですね。
でも、このままの状態では離縁したという報告だけで終わってしまいます。
今日、というか、昨日保護者夫妻の元へ来たのは、報告だけが目的ではありません。
黒のリーフェリア就任のため、保護者に推薦状を書いてもらいにここへきたのです。
が、それどころじゃない感じになってきてしまっています。
・・・こうなったら、奥の手を使いましょう。
私は、奥方さまにこちらの事情の一部を正直に話し、協力を仰ぎました。
奥方さまは、私の話を聞くや否や、とてもいい笑顔で席を外すと、しばらくして保護者に推薦状を書いてもらってきてくださいました。
保護者はよっぽどのことでない限り、奥方さまの意見を最優先にしていることは周知の事実でしたので、奥方さまが私の味方についてくれたのは、本当に心強い限りです。
ただ、その後に保護者と遭遇したら、気のせいだったらどんなに良いか、と思わずにいられないほど、やつれ切っていました。
・・・保護者の身に、いったい、なにがあったのでしょうか?
気になって奥方さまに聞いてみたのですが、とっても素敵な笑顔で、気にしなくていいのよ、とおっしゃっていました。その笑顔に、なんだか背筋に悪寒が走ったのですが、あえて追求しないでおくことにします。触らぬ神に祟りなし、って言いますしね。
出来たてほやほやの推薦状を持って、神殿に行き、正式に黒のリーフェリアに立候補して、審査と厳しい口頭質疑試験の末に任命を受けるまで、さらに丸2日。
もちろんその合間にも、同時進行で必要なことを学んだり、調べたりもしていました。
・・・ときどき、夫は今なにをしているかな、とか。
ちゃんと朝起きれているかな、とか、ご飯食べているかな、とか。
ふとした瞬間にそんなことを考えたりもしながら、過ごし。
そして、夫の家を出て5日目。
リーフェリア祭まで、あと二十日ほどを残して、私は正式に「黒のリーフェリア」に就任しました!
それにしても、この5日は、長かった。異様に、長かったです。
こんなに活動したのは、こちらに来て初めてかもしれません。
完全に睡眠不足続きですが、八つ当たりできる相手もいませんので、すきを見つけて仮眠をとるようにしています。ですが、夢見が悪くて、しょっちゅう起きてしまうので、あまり休めていない状態です。クマさんの抱き枕でゆっくり寝た・・・いえ、なんでもありません。
もうお肌がボロボロですが、仕方ありませんよね!
リーフェリア祭では、「神の花嫁」とも言われる、二人のリーフェリアが表と裏の舞台をつかさどる巫子として選出されます。
裏の舞台と呼ばれる夜の部をつかさどる巫子が黒のリーフェリア、私が勤める役柄です。
今年、黒のリーフェリアになる資格があるのは、「賢妻の勉強会」に参加していた、私たち5人だけなんですよね。
さらにその5人の中で、本当の意味で黒のリーフェリアになる資格をもつのは、こちらの世界に渡ってきてから一年未満で、夫と離縁し、一応未婚者となった私だけでした。
もし私が立候補しなければ、今年は該当者なし、ということで、黒のリーフェリア抜きで祭が行われる予定だったのだとか。
つまり、当選確実の自己推薦枠ってことですね!
それでも、通常は数ヶ月前には申請と認定が行われ、祭事について日々事細かに学ぶものなので、ぎりぎりでの立候補に一部の神官から難色を示されましたが、そこは強引に突き進ませていただきました。
表舞台で活躍するリーフェリア役は、この領内の年頃の美しい娘さんが選ばれるのだそうです。黒の方は老若男女問わず、ということになっているそうですが、表は必ず女性がやるのだとか。
そういえば、リーフェリアって女性の名前ですもんね。男性がやるとやっぱりちょっと違和感があるのでしょうか。
先ほど、私と対になる表のリーフェリアと挨拶させていただいたのですが、隙のない美女! というのがピッタリな、背の高い身のこなしのしなやかな女性でした。白いリーフェリアの衣装が良く似合っています。
私は背が低いので、全然対になっていません。残念です。
眼福を喜んでいると、ここが神殿である以上、居てあたりまえの天敵とも遭遇してしまいました。
フローイン教師が、まっすぐにこちらに向かってきます。
この人と接触する機会を減らすために、ギリギリまで立候補しないつもりだったのですが、仕方ありません。
いくら天敵といえども、今の私は神の花嫁である、黒のリーフェリアですから、びくびくする必要はないはずです!
ここは堂々と、逃げましょう!
「黒のリーフェリア。どこへ行く気ですか?」
・・・そういえば私、鈍足でした。