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    妻と夫のハロウィンパーティー ⑤

 私の嫌な予感をよそに、パーティは楽しいものでした!


 今にも何かが出てきそうな内装に手抜きは全くなく、夫達の意気込みをひしひしと感じましたし、店主夫妻が用意したグロテスクな見た目を裏切る大胆な味わいのお料理と、目玉や血糊の付いたクッキーやケーキなど、子猫さまも意外と丁寧に細やかな細工をしていました。


 見た目的に食べにくいけど、美味しいから食べちゃうんですよ! 目玉に齧りつく悪魔やら魔女やらってはたからみたら結構怖い光景ですよね。


 男性陣は全く気にせず食べていましたが、最初、奥方さまと友人は手をつけられないようでした。友人の顔が若干引きつってもいます。そういえば、友人はこういうグロテスク系は全然ダメでしたね。二人はあえて盛り付けを崩したものを夫と元夫にもらっていました。

 店主さまも子猫さまも気にしていないようで、むしろ「食べれないほどのものを作った私偉い! あ、ヴォルフもちょっと偉い!」とおっしゃっていました。私と女性団員さまは見た目を楽しみつつ、美味しくいただいています。


「よく食べれるね。確か君はお化け系が苦手だと思ったんだけど」


 パクパク食べている私に、どこか恨めしげな友人が言いました。


「見た目はあれですけど、美味しいことが分かっていますから。さすがに本当に内臓とか使ってたら食べれませんけど」


 内蔵っぽい見た目のスープをはふはふ食べながら言うと、子猫さまがキョトンとした顔をしました。


「それ、本当に内臓を煮込んだスープよ?」


 ピタッ、とスプーンが止まりました。


「本物・・・?」

「喰えるじゃねーか。よかったな」


 店主さまがニヤニヤ笑いながら言いましたが。私は半泣きになりながら、夫にスープの器を押し付けていました。知らなければ食べれても、知った途端に食べられなくなるものもあるんですよ!

 夫は食べかけを渡された事にも特に感想もなく、スープを完食してくれました。頼りになる夫です!

 ・・・内臓スープを飲み干す魔王は、はたからみて迫力満点でした。



―――



「それじゃぁ、お腹も一杯になったところで、お待ちかねの余興と行こうか」

「女性陣は一枚ずつカードを引いてね。まだ中身はみちゃダメよ?」


 デザート後のお茶をいただきながらまったりしていたところで、ご同僚さんと女性団員さまが動き出しました。ゲーム! どんなことをやるのでしょうか? ワクワクしながら回ってきたカードを一枚とると、表に「指令書」と書いてありました。

 ・・・一気に嫌な予感がぶり返してきました。


「これから夫婦で一組ずつここから出発して、まずは厨房に向かったあと、その指令書に書いてある内容を達成してきてもらいます。途中で何が起きるかはお楽しみ」

「リタイアしてもいいけど、その場合は二人一緒に罰ゲームを受けて貰うので、そのつもりで。途中までは皆同じルートをたどるけど、目的地は全部バラバラだからゴールはこの食堂に戻ってくること」


 嫌な予感が増していきます! 何ですか、罰ゲームって。というか、リタイヤしたくなるような何かが起きるゲームなのでしょうか。思わず友人の方を見ると、なぜか友人も若干青ざめています。お祭り好きの友人が青ざめるなんて、もしかして予感的中ですか!?


 手の中の白い封筒の中身を見るのが怖くなってきました。

 で、でも、女性団員さまも一緒に考案しているはずですし、何だかとっても楽しそうにしてらっしゃるので、大丈夫ですよね、うん、きっと大丈夫です! ・・・大丈夫じゃないと困ります。


「厨房ってどこにあるの?」

「俺たちが知ってる。この屋敷の中ならだれも迷わねーわな」


 そうなんでしょうか。夫を見上げると、小さく頷いて見せました。そういえば、飾り付けは夫が担当していた訳ですし、これってちょっと有利なんじゃないでしょうか。やる気が出てきましたよ!


「それじゃ、まずはヴォルフ達から行ってみようか。途中で行き合わないように、少し時間を置いてからグレイン達かな」

「やった! 一番乗りね。行くわよ、ヴォルフ。あ、もちろん前を歩いてね」


 子猫さまはランプ片手に、店主さまという巨大な盾を持って意気揚々と出発して行きました。なるほど、あれなら何が出てきても子猫さまからはあまり見えないし、店主さまが対応してくれますものね! 私もそうしよう、と思っていると、友人がボソッと。


「正面から来るより、後ろから何かがくるほうが怖いと思うんだけど」


 た、たしかにっ!!


 なにが起きるのかわかりませんが、正面から来られれば逃げようが有りますが、後ろから襲われたらアウトです。

 いえ、何か出て来ると決まった訳じゃないんですが、何か出てきそうなんですよ、内装的に!


 結局、友人は後ろに元夫を従えて出発しました。


 いよいよ次は私達の番です!


「だ、旦那さま、な、並んで行きましょう!」


 前も後ろも怖いので、私は夫と並んで歩くことにしました。

 ちょっと首を傾げた夫ですが、頷いてちょっと腕を曲げて差し出してきました。


 えーと、これは腕を組めと?

 でも確かにランプ一個で真っ暗な迫力満点の屋敷の中をあるくのは危険です。主に迷子的な意味で。


 そっと夫の腕に手を掛けると、宥めるように軽くぽんぽん、とたたかれました。

 そうですね、夫が居れば何も怖いことはありません! いざ、出発しましょう!


 勇気を振り絞って出発したのですが。

 ・・・ご同僚さん、悪魔のいい笑顔はとっても不吉な予感しかしませんよ?



―――



 ただ今、数日前に友人が言っていた言葉の意味が身に染みています。

 ・・・内装担当の二人をたきつけるんじゃなかったっ!!

 

 ランプ一個の明かりで映し出される陰影は、さらにこのお屋敷の不気味さをアップさせています。っていうか、これ、会場の飾りつけどころの騒ぎじゃないですよね!? 一部改築してますよね!? どんだけ手の込んだ内装を施しているんですか、そりゃ何日も帰ってくるのが遅いわけですよ!


 時折風が立てる窓のきしみにさえ、びくつきながら、夫の腕を放さないようにしっかり腕を巻きつけたまま進んでいきます。


 夫の案内で何とか厨房までたどり着いたのですが。


 どうしてここ、血まみれなんですか!? これインクですよね!?

 これまでの廊下よりもどこよりも乱雑に物が散らばっていて、まるで空き巣に入られたかのような有様です。厨房なので、包丁とかもあるから余計に怖いですよ! というか、もしフォークとか踏んだらどうするんですか。危ないじゃないですか。これも夫たちの内装なのでしょうか?


 思わず夫に視線を向けると、その意味がわかったのか、夫が小さく首を振りました。


「どちらか、もめたな」


 ・・・それって、店主さまと子猫さまのペアか、友人と元夫ペアがここで喧嘩を繰り広げたって意味ですか? だとすると、たぶん、店主さまペアだと思います。友人はああ見えて意外と怖がりなので、よっぽどのことが無い限り、ここで元夫ともめたりしないんじゃないでしょうか。


 嵐の去った後のような、その有様を呆然と眺めていたのですが、夫に促されて指令書の存在を思い出し、開けてみました。


『指令① 厨房に隠された甘味と次なる指令書を捜せ』


 ・・・いきなり難易度高すぎです。

 いえ、厨房がこの有様でなければ、割と普通の指令だったと思うのですが、一気に難易度が上がっています。

 ランプはひとつしかないですし、どこに危険物が転がっているかわからない状況ですし、そもそも甘味と指令書がまだ存在しているかどうかも怪しいですよね。


 とりあえず、一緒に近くの倒れた棚やら、真っ二つに割れた巨大なまな板のしたやらを捜してみたのですが、見つかりません。


 やっぱりないなぁ、とあきらめかけたとき、インクがばら撒かれた流し台の中に小さなキャンディーボックスをひとつ見つけました!


「ありましたよ、旦那さま!」


 ほっとして振り向くと、夫の手に少しインクで汚れた指令書がありました。あ、指令書も見つかったんですね! それにしても、暗闇の中、廃墟と化した厨房に立つ魔王さまは迫力がありすぎです。

 本当にどうして友人は魔王を選んだんでしょうか、どうせなら熊の着ぐるみとかが良かったです。それなら迫力は10分の1に、安心感は10倍だったと思うんですが。


 そんなことを考えながら夫から受け取った指令書を開いてみると、


『3階左端の部屋』


 とだけ書かれていました。

 その部屋に行ったらまた別の指令書が用意されているのでしょうか?


 それでもひとつの指令が無事終了したことにほっとしていると、視界の隅に何か白いものが動きました。

 なんだろう、と思って見ると、厨房の外の廊下をなにか白い物体がふらふらと行き来しています。

 

 え。あれは、もしや。


 ・・・おばけさん?



―――

 


 し、指令書に書かれた部屋まで、たどり着きました!!

 厨房からここまでの距離、異様に長かったですっ!

 いえ、もしかしたら短い距離だったのかもしれませんが、心理的にはとんでもない長距離のように感じました。


 厨房の外の廊下で見かけたおばけさんは、その一体だけでなく、カボチャやら骸骨やら悪魔やらいろんな姿かたちをしたおばけさんが次々と現れて、姿に似合わない可愛らしい声で、一様にこう叫ぶんです。


「トリック・オア・トリート!(お菓子くれなきゃ、いたずらするぞ!)」


 の、呪われるっ!?


 そういえば、おばけさんたちはお菓子をゆすりにくるんでした。さっきの指令でキャンディボックスを見つけておいて良かったですっ!!


 本当は全速力で駆け抜けたかったのですが、次々と現れるおばけさんたちやわざと驚かそうとする物音などにいちいち悲鳴を上げてしまっていて、なかなか先に進めませんでした。


 おばけさんたちにお菓子をあげないと私も夫も呪われてしまいますし、でも部屋に着くまでにキャンディの数が足りるかどうかがわからなくて、一個ずつ慎重に上げていたから、ものすごく緊張してしまいました。


 ちょうど最後の一個を部屋の入り口前にいたおばけさんに渡して、無事、指令書にあった部屋にたどり着くことが出来ました! ぎりぎり間に合いましたよ!


 やっぱりこの部屋もくもの巣だらけですし、壊れた時計やら、わざと埃まみれにしたような家具や寝具が置かれていましたが、厨房とは比較にならないくらいまともな状態でした。ここでは、喧嘩は起きなかったようですね。


 まだどきどきしている胸に手を当てて、無事にこの危険な局面を切り抜けられた達成感を分かち合おうと夫を振り返ると。


 なぜかいきなり壮絶なまでに気配を変えた、魔王さまがそこにいました。


 燃え上がるような熱を浮かべた焦げ茶色の瞳にまっすぐに射抜かれて、手から空になったキャンディボックスが滑り落ちていきました。

 それと同時に、カシャン、という乾いた音が。


 ・・・あ、あの、ま、魔王さま? どうして今扉に鍵をかけたんでしょうか、どうしてゆっくり近づいてくるんでしょうか?


 ほっとしていたところに何の前触れも無くいきなり訪れた危機に、思わず周囲を見回しますが、逃げ道がみつかりません。というか、あれ? 私たち、仲間ですよね、ゲームを一緒にやっているペアであって、敵同士とかじゃないですよっ!? 

 

 魔王さまは、私の内心の混乱を知ってか知らずか、少しだけ首をかしげ、口元にかすかな笑みを浮かべていて。


「トリック・オア・トリート?」


 ・・・最後のキャンディー、死守するべきでした。



―――



 翌朝。

 それぞれ上機嫌なパートナーに支えられながら、食堂で一同に会した私たち女性陣5名は。


 ・・・この失敗を二度と繰り返すまい、と視線だけで会話しあいました。




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