表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/47

    妻と夫のハロウィンパーティー ④


 遂にやって来ました、パーティ当日です!


 正式な開始は日が落ちてからになるそうですが、私たち女性陣は少し早めに友人宅に集まって衣装を着て、男性陣が迎えに来たら一緒に出掛けることになりました。


 女性陣、きゃーきゃー言いながら着替えましたよ。やっぱり女の子同士は楽しいですねっ! ちょっと友人と私の分の衣装について意見を戦わせたりもしましたが、そのほかの衣装については好評でした!


 男子陣の着替えは元夫が責任を持って着せてくれるそうです。


 もちろん、パーティ開始まで衣装はお披露目しませんよ。ちゃんと衣装を隠すための男性陣のマントと女性陣専用の被り物も用意しました!


 被り物に関しては女性陣からとっても不評でしたが。

 おかしいなぁ、私デザインの自信作だったんですが。かわいいと思うんですよね、全身カボチャ。ちゃんと下の衣装に影響が無いように丸みもつけてあるので、本物のカボチャを着ているみたいに見えます。とっても大きなカボチャですけどね!


「おお、こりゃえらく丸っこいな」


 一際大きなマントに身を包んだ店主さまが笑い混じりに言うと、一際小さなカボチャ、子猫さまが可愛らしい頬を膨らませました。あ、まんまるです。


「あとで覚えてなさいよ、吠えづらかかせてやるんだから!」


 怒り心頭といった感じの子猫さまに余裕の店主さまですが、この勝負、結果は見えています。せいぜい男性陣の吠えづら眺めてやりましょう!


 二台の馬車に別れて、会場に向かいました。

 ・・・カボチャの被り物をのせいで、馬車がひどく窮屈だったのは誤算です。



―――



 会場につきました!

 会場では保護者夫妻が出迎えてくれていたのですが、私は思わず隣に立っていた友人にしがみついてしまいました。


 な、なんなんですか、ここ!

 こんな場所だなんて聞いてないでよ!?


 一言でいうと、廃墟、です。

 元はとても荘厳優美なお館だったのだろうと思わせるつくりなのですが、それ故に埃と蜘蛛の巣が積もり、あちこちに壊れた物が散乱していて、寂れた感じがよく出ています。

 しかもさりげなく見えるあの石は、お墓、ですよね!?

 どうして玄関入口前の前庭にお墓があるんですか、どうしてお墓の土が盛り上がって今にも何か出て来そうなんですか!?


「気をしっかり持って。まだまだ序の口だよ。し、しかし、夜にみるとまた、なかなかなか迫力があるね」


 レインさん、平然とした風を装っていますが、なかが一個多いですよ!


「ようこそ、諸君。我が館で存分に楽しんでほしい」

「さぁ、中へどうぞ? グレインたちの力作をぜひ見てくださいな」


 保護者夫妻は、そろいの黒の衣装を身に着け、長い牙が口元からちらちらと覗いています。吸血鬼の夫妻ですね! 青白さを出すために衣装から出ている肌に白粉をはたいています。保護者の裾が波打つようになびく襟の高い外套と、奥方さまの胸元が大きく開いたドレスにふんだんにあしらわれた黒のレースが技ありですね!


 そんな吸血鬼夫妻に再び促されて、恐る恐るお屋敷の中には入ろうとしました。なんだかとんでもないパーティに来てしまったような気がしてなりません。


 ビクビク怯えていたら、後ろからカボチャの被り物が引っ張られました。ビクっと怯えて振り向くと、そこには、無表情にたつ夫。それを見てほっとして息を吐いてから、私もだいぶ夫の無表情に慣れたんだなぁ、しみじみ思いました。


 くいくいと夫が何度もカボチャの被り物を引っ張るので、どうしたのだろう、と見ていると、男性陣がマントを外し、それぞれの小物を装着しています。

 

 うあああっ!! 想像以上です! 似合いすぎですよ、皆さんっ!!


 思わず叫びそうになって、友人と視線を交わし、頷きあいました。

 グッジョブ、私たち!!

 子猫さまも女性団員さまも、ちょっと頬を染めながらそれぞれの夫を見つめていますよ。

 

 店主さまは、その体格を活かして野獣の衣装です。金の髪とヒゲに合わせて、金糸で刺繍を施した上着の袖口には同じ金糸で作ったふさふさの毛と、長い尻尾をつけています。猛獣に無理やり服を着せたら、きっとこんな感じになると思います!


 ご同僚は、折れ曲がった角と黒くて長い尻尾を持つ悪魔です。シャツのボタンはわざと二つ三つ開けたままにしてもらい、引き締まった体を目だたせるために少し絞ったウェストラインをもつ黒のベスト。ご同僚がもともと持つ色気がさらに危険な感じでにじみ出てくる衣装になっています。


 元夫は、銀色の長い刃の大鎌を持つ死神の衣装。わざと裾を破った外套に、長い鎖を腕に巻きつけています。ぼろぼろにしたフードから覗く銀髪と冴えた色を放つ青い瞳がぞくりとした危機感を覚えさせる仕様だとか。他の男性陣より若干動きにくそうな衣装になっているのは、友人デザインの影響です。


 そして、夫はというと。

 高襟を持つ外套に真っ黒の衣装をけだるげに着た、魔王さま、です。私が自分で作っておいてなんなんですが、友人はなんで夫に魔王の衣装をデザインしたりするんですかね!? 似合わないんじゃないんです、似合いすぎなんですよ! 威圧感が半端ないです、普段の1.5倍です!

 

 そんな魔王さまが、無表情のまま、私のカボチャの外套を引っ張っています。何でしょうか・・・・あ、そうか! 女性陣もカボチャ外套を脱げって事ですね。確かにもう会場入りしているので、外套は不要です。自分でカボチャを脱ごうと手を掛けて、


「ヴォルフ、脱がせて! あ、破かないでね」


 危うく咳き込みそうになりましたよ!?

 見ると、カボチャを脱ごうとして上手く脱げなかった子猫さまが店主さまに手伝って貰ってるところでした。うわぁ、子猫さま、それはちょっと危険だと思うのですが!?


「君も脱ぎにくそうだ。さぁ、手を上げて」


 ご同僚と元夫もそれぞれ脱がしにかかっています。衣装を作って何度となく妄想していた私は知っています。うあぁ、みなさんそれは危険ですよ!


 ドキドキしながら見守っていると、私のカボチャにも手がかりました。そうですよね、この流れで行くと、私も夫に手伝ってもらう事になりますよね。でも私はこの衣装の作者ですし、流石に一人で脱げるのですが、と視線で訴えて見たのですが、同じく視線で却下されました。いや、だからせめて言葉にしましょうよ、って私もですが。

 夫が引きそうにも無いのをみて、諦めました。


 背後で、店主さまが息を飲む音が聞こえ、思わず会心の笑みを浮かべる私です。

 ふっふっふっ、店主さまの負けは決定済みなのです。私と友人のタッグの恐ろしさを、トクと思い知るがいい!

 

 被り物を取った女性陣を見て男性陣はそれぞれ予想通りの反応を示していました。

 店主さまは食い入るように子猫さまを見つめ、ご同僚は固まり、元夫は不思議そうにしています。

 夫は無表情のままです。うん、予想通り。


 ふふふ、子猫さまはその可憐さを限界まで引き出す、ちょっといたずら好きそうな妖精さん衣装です。薄い羽は私の会心の作ですよ! ただし可憐なだけではありません。ほんの少しだけ開いた胸元に、少しだけ丈の短いスカート。可憐さの中に混じる、一滴の妖艶さ。それが子猫さまをより魅力的にしているのです!


 女性団員さまは、女性版悪魔です。長身と抜群のプロポーションを活かして、こちらの女性が普段絶対着ないような身体のラインがでる衣装を用意しました。オプションで禍々しく折れ曲がった角付けて貰い、手にはムチ、腰には剣。醸し出される色気の中にピリリとした危険な雰囲気。凛々しさのなかに、妖艶さが滲むっていい仕事してますね!


 そして友人は、いつもの男装ではなく、少し少年っぽい格好をしています。半ズボンです。


「君は、仮装はしないのか?」


 少し残念そうな元夫。

 私は友人と見合わせてにやりと笑いました。

 すかさずカバンにいれていたアイテムを友人に装着させ、ちょちょいと化粧を施します。

 これでどうだ!?


「っ!?」


 元夫は目を見開いて口元に手を当てました。

 さっきまでは少年っぽかった友人は、今やネコ耳と尻尾の生えた使い魔さんです。

 友人は何度も瞬きして潤ませた目で元夫を見上げています。


 ふふふ、少年のような格好にも関わらず、友人は男装の麗人としての動きを捨て去り、か弱げな雰囲気を醸し出しています。それがこのネコ耳マジックと相まって、なぜかいたいけな小動物のように見えてしまうこの不思議さ! 半ズボンの生足がまぶしかろう! ちなみにこの友人の性格を考えて、男装バージョンが出てきたとしても、きりりとした中にもはかなげな雰囲気が混じり、庇護欲をくすぐること間違いなし! 二重三重に仕掛けていますよ!


 男性陣の反応に満足していると、友人が夫に何か耳打ちをしています。

 はっ!しまった! 周りの反応ばかりが気になって自分の事を忘れてました。私は杖を片手に持つ魔女の衣装なんですが、友人のデザインに勝手に手を加えて怒られていたんでした。

 ものすごく嫌な予感がするんですが、一体夫になにを言ったんですかっ!?

 小さく頷いた夫がおもむろに私の外套に手を掛けようとしたので、すかさず避けました。

 ダメですよ、私の衣装はこれで完成なんです!

 思わず杖を構えて威嚇すると、友人が楽しそうに笑いました。


「魔女が魔王に逆らっちゃダメだよ」


 そうです。夫は今、魔王の衣装に身を包んでいます。似合い過ぎて怖いくらいなのですが、いつもの1.5倍の威圧感ですが、負けませんよ! 気分は魔王戦に挑む勇者の仲間です!

 ・・・レベル1の魔女が魔王に勝てるわけありませんでした。



―――



 奮闘虚しく、あっさり夫に黒い外套を取られてしまいました。

 私の今の服装は、真っ黒なミニワンピに白のレースをあしらい、首と手足にレースのバンドを嵌めています。魔女かメイドか微妙なラインなのですが、どっちにしても弱そうなのがポイントだそうです。

 それでも友人に言われた通り、きっ、と夫をまっすぐに睨みました。弱いのに、気が強い。立場的に下だけど、どこか偉そう。それが私の魔女衣装のポイントです。


 夫は私に睨まれても痛くも痒くもないようで、無表情でじっと私を見ています。強い視線でじっと見ています。見ています。まだ見ていま・・・ってちょっと長すぎませんか!?

何か言いたいことがあるなら言って下さい! 黙ってずっと見られていると非常に居た堪れないのですが!?


 つい夫の視線に耐えきれず、視線を外してしまいました。気が強いふりをしていても、結局はふりなので、小心者が改善されるわけではないんですよね。


 というか、どうして友人はそんなに誇らしげに笑っているのでしょうか。その笑みは私と夫ではなく、元夫に向けてあげたらいいと思いますよ!


 チラリ、と夫を見ると、まだ瞬きもせずにこちらを見つめています。そろそろ眼球が乾いてきてしまうのではないでしょうか。


 他の男性陣もそれぞれの妻(と元妻)を食い入る様に見つめていたのですが、不意に示し合わせたように男性陣だけで素早く視線を交わしあっています。何かの結論に至ったのか、やはり同時に頷き合いました。


 ・・・前々からもしやとは思ってはいたんですが、本当に視線だけで会話するんですか、あなた方!? 誤解や視線の意味の取り違えとかの心配はしないんでしょうか。残念ながら私には視線の意味は全く分かりませんでしたが、何故か保護者と奥方さまも男性陣の視線の会話の意味が分かったのか、とってもいい笑顔を浮かべています。

 いったいなんなんでしょうか。

 でもまぁ、はじめて視線だけで会話する場面を目撃出来たのでよしとしましょう!

  滅多に見れないものを見れたので、何かいい事があるかもしれま・・・。


「さぁ、パーティを始めよう」


 ・・・保護者が非常に楽しそうで、とっても嫌な予感がしました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ