妻と夫のハロウィンパーティー ③
遂に完成しました!
8人分の衣装を完璧に作り上げてやりましたよ! 友人の最後のチェックにはかなり緊張したのですが、太鼓判をもらいました。うん、自分頑張りました。
あとは当日を楽しむだけです。
なんだかんだで、ずっと見守ってくれていた影の功労者である夫にも完成の報告をしよう、と外に出ると、ちょうど元夫とご同僚と話をしているところでした。
おお、背の高い三人が並んで立つと、なかなか壮観ですね。さらにこれに店主さまを追加して、それぞれに女性陣を加えて、さっき出来上がったばかりの衣装を想像のなかで着せてみました。
・・・素晴らしい!
それぞれの印象にぴったりなテーマを選びだしデザインした友人の審美眼に間違いありません。
これは当日が非常に楽しみですっ!
自分の想像に夢中になっていたら、夫が不思議そうにこっちを見ていました。あ。話の邪魔をしてしまいましたね。とりあえず私は夫がのそばによって、2人のお客さまに挨拶をしました。
それから夫に完成の報告です!
「完成です、旦那さま!」
夫は無表情のまま小さく頷くと、頭に手を置いてぐりぐり撫でてくれました。これは褒めてくれているんですね! 相変わらず大雑把な動きなのに力加減が絶妙で、気持ちいいです。
「衣装担当は君だったのか」
元夫のつぶやきで、そういえばお客さまの前だった、と気づいたのですが、夫のぐりぐりは止まりません。旦那さま、人前ですよ!
「でも、デザインはレインですよ。全体の準備と進行担当ですから」
それから、夫の手が止まったのを見計らって、ご同僚の2人の方を見ました。
「ゲームってどんなことをやるんですか? 会場の飾り付けってどんな感じなんですか?」
「それは当日のお楽しみ。今知っちゃったら、つまらないだろう?」
うーむ、そうなんですけど、せめてヒントだけでも!
でもご同僚は教えてくれませんでした。ちぇー。
「君はずいぶん楽しみにしているようだな」
何故か元夫も不思議そうに聞いてきました。どうしてそんなに不思議そうなんでしょう? お祭りが楽しみなのは当たり前だと思うんですが。あ、そうだ、と思いついてひとついい事を教えてあげる事にしました。
「楽しみですよ! レインも私もお祭好きですから。それに、いかに万全に準備出来るかでその人の評価が変わってくるんですよ!」
だから抜かりなく準備すれば、友人の評価も上がるかもしれませんよ、頑張ってくださいね! という意味を込めていえば、元夫の顔つきが変わりました。
うんうん、いい感じです。うまく行けば、当日友人と元夫が仲良くおしゃべりをしているところが見れるかもしれません。頑張れ、元夫!
ご同僚がやけにいい笑顔なのも気になるのですが、それよりも。
あのー、旦那さま?
・・・どうしてあなたまでやる気満々になっているんでしょうか?
―――
やる気になった旦那さまと元夫コンビは連日遅くまで作業をしているようです。でも会場の飾り付けって、そんなに何日もかかるものなのでしょうか? 物置部屋からいろんな荷物を運び出しているのを見たのですが、いったいどんな飾り付けをしているのか、非常に気になります。
会場は保護者夫妻の別宅だそうですが、様子を見に行きたくても完成まで立入禁止にしているのだとか。すごく気になります。
気になるといえば、ある日、友人が衣装の飾りの一部を取りにきたのですが、ひどくつかれた様子だったのも気になります。
「元夫がやけに張り切っているんだけど、もしかして、君、何か言ったのかな?」
言ったといえば、言ったような・・・いえ、言いましたね、思いっきりいろいろ含ませて言いました。
えへっと笑って誤魔化せば、友人は胡乱げに私を見たあとに大きくため息をつきました。
「なるほどね、あんな才能があるとは思わなかったが、これは良かったのか悪かったのか。まぁハロウィンの雰囲気は出るけれど」
友人はつぶやくように言うと、チラリとわたしの方を見て困ったように笑いました。
「彼らのやる気が君のせいで良かった。自己責任ってことで、苦情は受け付けないよ」
え、苦情を言いたくなる様な飾り付けになっているんですか!?
と言うか、苦情を言いたくなる様な飾り付けって、どんなものなんでしょうか? 想像がつきません。友人はそれっきり話題を変えてそうそうに帰って行ってしまったので、詳細は全く聞けませんでした。
ど、どうしましょう。私、ものすごく余計なことを言ってしまったのかもしれません。
不安になって、帰宅した夫にも聞いてみたのですが、無言のまま、ヒントのひとつもくれませんでした。
でもまぁ、パーティですし、どんな飾り付け方であってもそれは話題のひとつになりますよね。
この時の私は飾り付けを非常に気にしながらも、楽観視していました。
そして迎えたハロウィン当日。
・・・元夫と夫を焚き付けたことを、心底後悔する羽目になりました。