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  お別れです。③



 目が覚めたのは、朝日が昇る少し前でした。

 夫は既に出かけた後だったようで、家の中はしん、と静まりかえっています。


 私が気絶してしまったあと、夫は寝ていなかったのでしょうか。それとも、根性で早起きしたのでしょうか。


 無意識で自分の唇に手を当てていることに気づいて、一気に顔に熱が集まってきました。


 どんどん熱を持ってくる頬を慌てて両手で叩き、寝台から起きました。

 とにかく、水でも飲んで落ち着きましょう。


 水を取りに台所に向かう途中、食卓に用意しておいた夫の夕飯が、少し残っているのに気づきました。

 夫の分しか用意していなかったのですが、大きめのお皿に少しずつ取り分けられたそれは、ちょうど私がいつも座る席に寄せられています。


 私の分、とっておいてくれたんですね。

 

 くすぐったいような、鼻の奥がツン、と痛むような不思議な気分を味わいながら、夫が残しておいてくれた夕飯を朝食代わりにいただきました。


 もっと、ちゃんと、お別れしたかったです。

 結局、話したい、と思っていたことの100分の1も話せませんでしたね。

 これまでのことも、これからのことも、夫に知っていてほしいと思ったことの全てが、全く伝えられませんでした。

 でも、これでよかったのかもしれません。

 面と向かって話をしたら、きっとまた何も話せないか、余計なことまで話してしまいそうな気がしますし。


 よくよく考えると、私たちって、本当に変った夫婦でした。初めて会ったその日に結婚が決まって、一緒に暮らして。お互いのことをまったく知らないまま、手探りの日々。会話が無くなっていることに気づいたときは焦りましたが、今となってはいい思い出です。


 お皿を片付けるついでに、せっかく時間があるので、家全体を念入りに掃除することにしました。

 次の奥さまのためにも、私がいた痕跡は可能な限り消してしまおうと思ったのですが。


 ・・・私こんな所に私物隠してましたっけ?

 やけにあちこちから私物が出て来るんですが。なくしたと思っていた櫛と髪を結うための紐が台所から出てきた時には驚きました。もともと、物持ちが良すぎていろんな物をしまっておく癖はありますが、さすがにこれは無いような気がします。しかも全く記憶にないって。うん、反省しましょう。


 ついでに、夫の箪笥の中から、馬に取られた鞄が出てきた時も、驚きました。何でこんなものがこんなところに?


 その後は、それほど時間もかからずに家全体をこざっぱりと片付けることができました。整理したつもりでも、意外と私の居た痕跡があちこちに残っているものなんですね。片付ける時間があってよかったです。


 なんとなく、家全体を見回します。こちらへ渡って来てから、一年ちょっと。その内のほとんどの時間をここで過ごしました。


 去りがたい気持ちが無い訳ではありませんが、旅立ちの時です。


 玄関から外に出て、扉をしっかりと閉めて鍵を掛け、厩舎の影に置いて置きました。何かあった時の鍵置き場として二人で決めていた場所です。厩舎を覗いてみたのですが、利口で薄情者な馬も夫と出かけていました。


 ひとしきり家と厩舎を眺めた私は、こみ上げてくる何かをぐっと抑え、ひとつ頭を下げて、家に背を向けて歩き出しました。


 まっすぐに前を睨みつけて、気持ちを切り替えます。


 当初の目標通り、夫の無い無い尽くしを改善することが出来ました。

 そして、リーフェリア祭の前に離縁しました。それどころか予定よりも、ひと月ほど余裕があります。


 うん。どれも目標達成できたうえに、時間的な余裕があるなんて、幸先いいじゃないですか! このままの勢いで、ほかの目標も全て達成させてしまいましょう。


 運気の流れはそのままに、気持ちは切り替えて頑張りますよ!

 これから待つ、私の一世一代の大舞台、見事演じきってみせましょう!


 ・・・次なる目標は、黒のリーフェリア、『神の伴侶』就任です!



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