夫を躾直します。計画を実行させましょう。④
忙しい時間帯が過ぎたのか、店主は私と夫に飲み物を出して、少しおしゃべりをしました。
男気あふれる素敵な獅子店主は、夫と同じく自警団に所属しているのだそうです。ちらりと見えた厨房には、太い棍棒と、たぶん私には持ち上げられないほど大きな斧が置かれていました。
うん、店主の見た目を裏切らない武器です。
それにしても、この方と夫は、鍛錬所でみた他の自警団の方とはちょっと雰囲気が違うような気が。あえて言えば、友人の元夫と、先ほど鍛錬所で声をかけてきた男性もですが、鍛えている、というか、鍛え抜かれていますよね?
この街はそれほど治安が悪いという話は聞かないのですが、皆さん、実戦経験があるのは間違いなさそうです。
夫の腕や足にいくつか傷跡があるのは気づいていましたし、この店主にしてもヒゲでうまく隠れていますが、頬に傷が走っていますし。
この街の出身ではないのでしょうか?
聞いてみたい気がしましたが、かなり私的な部分にまで踏み込むことになりそうだったので、やめておきました。誰しも、どこかしらに地雷を抱えているといいますしね。
その代わり、料理法や調味料についていろいろ話を聞かせてもらいましたよ。
とくに変った調味料は使っていないのに、あの独特の味わいはどこから来ているのか、ずばり聞いてみると、店主は豪快に笑い、ずばり答えてくれました。
「適当だ!」
・・・素敵すぎです、店主さま!
夫と連れ立って店を出るときには、可愛らしい焼き菓子まで持たせてくれました。
今はのどの辺りまで料理が詰まっている感じがしますが、これなら後でゆっくり食べられますね!
馬車の上でちょっと焼き菓子の包みを解いてみると、可愛らしい猫の形をしていました。よくよく見ると、焼き菓子の包みも薄桃色の紐でリボンが作られています。
意外すぎて固まってしまいました。
あの店主さまの大きな手で、こんな繊細なことができるものなのでしょうか?
「それは、ヴォルフの妻の焼き菓子だ」
「あ、ですよね。今一瞬、すごく微妙な想像しちゃいました」
私がよっぽど微妙な顔をしていたのか、珍しく夫の方から話しかけてきてくれました。
店主さまはヴォルフというお名前なんですね。
重量級の斧が似合う手で、白いレースの前掛けをかけて、小さな焼き菓子の型に悪戦苦闘する獅子店主さま。
想像すると、ちょっと可愛らしいです。
思わず笑ってしまうと、夫が不思議そうにしていたので、たった今した想像を細かく教えてあげました。教えると同時に、とっても嫌そうな顔になりましたが。
「あれ、駄目ですか? なかなか可愛らしいと思うんですが」
「感性がおかしい」
一言の元に、ばっさり切り捨てられました。
普段口数が少ない夫なだけに、その威力はすさまじく、私の胸を見事にえぐります。
半分涙目になりながら、どこがどう可愛らしいのかについて熱弁しましたが、夫の同意はかけらも得られることなく、感性がおかしい判定を覆すどころか、確実なものにしただけでした。
・・・無念です。