表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/47

  夫を躾直します。計画を実行させましょう。③

 着替えていくらかさっぱりした夫が昼食に連れて行ってくれた場所は、友人が連れて行ってくれるような小洒落たお店ではなく、『質より量! 安くて旨けりゃ文句ねぇだろ!』 と看板に書いてあるお店でした。


 店に入る前から、心臓を打ち抜かれました。

 なんて素敵なお店でしょう。


 そして店内はある意味予想通り雑然としていて、ほとんどが男性で、とにかく一生懸命ご飯をかっ込んでいます。

 おしゃべりを楽しむとか、ゆっくりするとかそういう感じではなく、食べたらすぐに席を空ける! というのが暗黙の決まりごとのようです。


 どこまでも男気にあふれたお店です。

 店主はどんな方なのでしょう? ちょっと見てみたい気がします。

 

 それに、ここなら夫の知り合いがいたとしても、おしゃべりするような環境でもないですし、皆さん脇目も振らずに食べているので、大丈夫でしょう。


 空いている席に隣り合って座り、夫が慣れた様子でいくつかの料理を注文しています。内容を聞くに、私の分も注文してくれているようです。周りを見回して気づいたのですが、皆さん座ってすぐに注文しているところを見ると、常連さんばかりのお店です。


 ということは、夫も常連さん、なわけですよね。

 朝ごはんとお昼ご飯、やっぱり足りなかったのでしょうか?

 家に帰るまでに合間に、ここで腹ごしらえをするのが習慣になっていたのなら、夫の常連のような慣れた感じにも納得がいきます。

 

 夫に実際のところを聞いてみようとする前に、目の前に「どん!」と料理が置かれました。「どん!」です。器を置いた音もさることながら、見た目がもう、「どん!」という感じです。


 すごい。

 私の頭よりも大きな器に、魚や肉、野菜、キノコなど、ざっと数えても20種以上の食材が大胆に煮込まれた料理です。

 繊細さのかけらも無い、男らしい大雑把な料理です。

 夫と二人で食べるにしても食べきれるか不安な量なんですが、さすが、看板に偽りなしですね。


 感心している私の前にも同じようなものがもう一つ、「どんっ!」と置かれました。


 え。ちょっとまってください。どうして私の前にも器があるんですか。

 こんなに食べられませんよ、私!?


 何かの間違いじゃないか、と思って反射的に器を置いたお店の人を見ると、収穫前の小麦のような金髪と金色のヒゲが目に入りました。夫がクマさんなら、この男性は獅子でしょうか。夫以上に厳つい顔を半分以上ヒゲで隠した筋骨隆々な男性が、まっすぐに私を見下ろしています。


 えーと。たぶん、いや、かなりの高確率で、店主、ですよね? そして、その目は、俺のメシが食えねぇのか、ですね?

 いや、でもいくらなんでもこの量を食べるのは物理的に無理というか、私の場合、夫の料理をちょっとつまませてもらえればそれで十分というか・・・はい、その視線は、つべこべ言わずに食えっ! ですね?

 

 私の友人もさることながら、夫の知り合いの方もどうして視線だけで会話するのでしょうか!? 夫が無口なのは、もしかしてそのせいですか?


 動揺して夫を見上げると、夫は予想していたかのように私を見ていて、小さく頷きました。どうやら、無理無理、という私の視線の意味を理解してくれたようです。


「がんばれ」


・・・全然理解していませんでした。


 夫からの声援を受けて、自分の顔よりも大きな器を持てあましながらも、この店のどの男性よりも一生懸命食べました!


「おお、いい喰いっぷりじゃねぇか、なぁ?」


 途中で店主らしき男性が豪快に笑っているのが聞こえた気がしますが、そんなの気にしていられませんとも!


 この「豪快!男の料理!」は見た目の適当さを裏切って、とても味わい深く、かなり食が進んだのですが、それでも奮闘むなしく半分近く残ってしまいました。


 もう一口だって入りません。

 これ、器を借りてお持ち帰りしちゃダメでしょうか? 美味しいだけに、残すのがとってももったいないです。


 未練がましく器をつつきながら、夫の方を見てみると、もうとっくに食べ終わっていたようで、きれいに空になった器越しに、店主らしき男性と話をしていました。

 店内を見回すと、あれほどごった返していた店内が嘘のように人気が少なくなっています。


 夫は私が限界なのを見て取ったのか、残りをきれいに食べてくれました。


 空っぽになった二つの器。

 それを見て、確信しました。


 ・・・普段のご飯、絶対足りてませんよね?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ