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  夫を躾直します。お出掛けしましょう。②


 一ヶ月に一度、必ず参加するように義務付けられているその集会は、別名、『賢妻の勉強会』と呼ばれています。あ、賢妻というのは、主催者のことですよ? 決して参加者である私たちのことではありません。男性の参加者もいますしね。


 この会は私たちの保護者のお家で開催されるのですが、今のところ、私を含め5名の男女が勉強と情報交換を行う場として、午前いっぱいをここで過ごします。つまり、私の保護者の奥方さまが賢妻なのです! とても頭の回転が速い方で、いろいろなことをご存知でいらっしゃいます。


 とても素敵な方で、実は私の憧れの女性でもあります。


 その方がこの街に不慣れな私たちが少しでも早くこの街に慣れるようにと、常識や礼儀作法、この国の歴史など、その時々でいろいろなことを教えてくださいます。同じような境遇の仲間もいますので、お互いに情報交換し合い、協力し合うことができるようにと、この場を設けてくださっているわけです。


 本当に素敵です、奥方さまはっ!

 保護者である方ももちろん素晴らしい方なのですが、私としては、やはり同じ女性の奥方さまのほうに憧れを感じます。

 

 夫に送ってもらって、ちょっと早めに到着したと思ったのですが、すでに他のメンバーは揃っていました。やっぱり一月半ぶりで、皆さん張り切っているのでしょうか。


 その中に黒髪黒目を持つ友人の姿を見つけてほっとしました。

 よかった、参加していなかったらどうしようかと。それにしても、相変わらず友人はおしゃれさんですね。

 きちんと折り目の付いたズボンに、友人の細身を引き立てる上着。薄い色合いの茶色でまとめられているのですが、袖や襟の部分にさりげなくあしらったレースが技ありです。

 

 馬車の御者台から降りようとすると、夫が手を貸してくれました。

 うん、会話が増えるようになってから、こういった手助けも増えてきたように思います。進歩していますね!


「あ、あの、今日は午後も友人と過ごしたいので、夕飯は先に食べてくださいね」


 夫が一瞬、とても厳しい視線を友人に向けたような気がしたのですが、主催者である保護者の奥方さまの姿が目に入ると、小さく息をついて頷きました。


「帰りは、馬車を」


 今の視線は一体なんだったのだろうとちょっと考えていたのですが、夫の声に意識を戻しました。

 えーっと、今のは、馬車を使って帰って来いってことですね。了解です!


「はい。いってきますね」


 笑顔で小さく手を振って夫に挨拶をすると、夫はなにを思ったのか、その手を素早く掴んで手のひらに唇を寄せました。

 相変わらずの早業ですね、って・・・・。

 

 っな、なにしちゃっているんですか、このひとぉぉっ!?


 ここ、外ですよ!?

 家の中じゃないんですよっ!?

 保護者の奥方さまや他の参加者たちがこっちを見てます、見られてますよっ!! っていうか、み、見ないでくださいっ!!


 顔から火を噴出しそうな勢いで赤面していたのですが、ふと、夫のほうを見て、硬直してしまいました。


 凄みを利かせた夫の視線が一瞬もそれることなく、私に突き刺さっていて。

 背筋に、冷や汗が。


「必ず、戻れ」


 低い、厳格な声。決して、外れない視線。


 なぜ、今、このときに?


 思わず、本能的に後ずさりそうになったのを、意思の力でぐっとこらえました。

 今の夫に、不審に思われるような動きをしてはいけません。全てを見透かすような瞳に、うろたえてもいけません。


「・・・はい」


 今日は、まだ。


「ちゃんと帰ります」


 ねぇ、旦那さま。

 ・・・私は、ちゃんと笑えていたでしょうか?




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