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8 夫を躾直します。お出掛けしましょう。①


 夫の習慣に、寝る前にヒゲを剃るのが追加されました。


 ・・・ほんとに、朝の挨拶は、もう、いいです。


 普段は着替えのためだけに使用している物置部屋を、久しぶりにしっかり点検してみました。以前よりも物が散乱していましたが、特に置いてあるものが湿気っていたり、かびたりしていないようです。念のため、前に雨漏りしていた部分も見てみましたが、特に問題はなさそうです。


 そういえば、雨の日の朝でも水漏れしていませんし、着替えるときに寒いということもありません。

 と言うことは、夫はいつの間にか物置部屋の雨漏りと隙間風を直してくれていたようですね。まだやってないのかと思ってました。疑ってすみません。


 でも、これなら少し片付ければすぐにでも使えますね! 以前あった予備の敷布団は見当たりませんが、あとでゆっくり探してみましょう。多分どこかに埋もれているはずです。


 爽やかに野生のクマさんへと変貌を遂げた夫は、いつも通りの無表情で日々を過ごしているわけなのですが、フワフワの緩衝材がなくなったその表情は三割り増しに緊張感と危機感を煽ります。

 いえ、夫の中身は変わっていないんですけどね、感じ取る側の、つまり私の方に問題があるわけでして。人の見た目ってやっぱり大切ですね。


 見慣れない夫の顔を見ていると、それまで気づかなかった細やかなところに気づくようになりました。


 たとえば、夫は背が高いので私が話そうとするとちょっと屈んでくれていたり、時々視線を在らぬ方向へ向けて何かに注意を払っていたり。

 これまではボサボサの髪が邪魔をしてあまり見えなかった夫の視線の動きがはっきりと見えるようになって、あ、今何の本を読もうか迷ってるな、とか、探し物が見つからなくて困ってるな、とか見て取れるようになりました。


 うん、見た目は大事です。


 ところで今日は、一月に一度、街へ出る日です。

 いつもなら10日程前に行くはずだったのですが、今月はどうやら日程がずれたようですね。これまでもそういうことが何度か有りましたが、今回ほどこの日を首を長くして待っていたことはありません。


 夫との離縁を決意してから初めて街へ出るんです!


 いつもなら週に一度は遊びに来てくれる友人も忙しいらしく、この一月半一度もあっていません。今回の街での集会に友人も参加しますから、その時にいろいろと相談したいと思っているんです。


 そう、私が夫と離縁する期限まで、あと一月半しか残っていないのです。


 出来れば今日中にすべての問題点を解決しておきたいところです。なにしろ、いつ夫が帰ってくるか分からない家の中で離縁の手続きについて相談するわけには行きませんから。


 と言う訳で、朝から気合いが入っている私は、朝食後にはしっかりと余所行き用の服を着て準備万端整えていました。

 そんな私を夫はどこか不機嫌そうに見ています。夫はこの一月一度の集会をあまり快く思っていないようで、出発前は不機嫌になります。

 いつものことなのですが、なにしろ今は野生に帰っていますので、迫力が三割増しで正直ちょっと怖いのでやめてほしいんですが。


 夫は嫌そうな雰囲気を出しながら、着替えるために寝室に入っていきました。扉を閉めないままにしているので、夫が棚を開けているのが見えます。私はちょっとわくわくしながら、後ろを向いて夫が寝室から出てくるのを待ち構えていました。


 機嫌が悪い時の夫は、棚の一番上にある物をそのまま着るのが癖。

 そして部屋から出てきた夫が着ているものをみて、心の中で叫びました。


 よっしゃぁーっ!!

 狙い通りです、ぴったりです!


 夫が着ているのは、黒に近い深灰色のズボンと裾に白い線を入れた薄い青のシャツ。

 私がこの日のために用意しておいた服です。実はあと何種類か用意してあるのですが、そちらはまた次の機会に。もちろん、これも『現妻による、未来の妻のための、夫の再教育計画』の一環ですとも!

 

 そうです。今回は、『夫の出無精改善計画』発動です!


 夫が仕事で外に出ているのは知っているのですが、お休みのときは大体家に居ますし、私を連れてどこかに出かけるのは、この月に一度の集会だけ。

 これでは、倦怠期の原因になりかねませんから、ここは未来の奥さまのためにも、外出に慣れていただこうという計画です。


 といっても、今日は私が忙しいので、ちょっと夫の服装を余所行きっぽくしてみただけで終了ですが。

 今度のお休みのときは、一日外に連れ出してもらう予定です。ええ、私が勝手に決めた予定ですが、何か?


 ついでに別の計画も同時進行ですが、それは次の取って置きの服を夫が着るときに。


 それにしても、我ながら、良く似合っています。

 いい仕事したな、私!


「お似合いですよ!」

 

 嬉しくなって、つい満面の笑顔で夫と私の功績をたたえると、夫が少し瞬きをしました。それから、自分が着ている服を見下ろして、あれ? 少し、動揺していますか?


「・・・いくぞ」


 行きますとも!

 いつもよりも少し早く、お出かけ開始です!


 でも、ちょっと気になることがひとつ。

 ・・・夫の耳が少し、赤くなっていませんか?




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