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  夫を躾直します。爽やかにさせましょう。②


 ボサボサだった髪は襟足にかかるくらいに、伸び放題だった髭は綺麗になくなっていました。

 初めて見る、夫の素顔です。


 それにしても、これはいったいどういう魔法でしょうか?


 クマさんっぽさは残しつつも、縫いぐるみのような気安さがなくなって、野生の獣に対峙してしまったような緊張感が生まれます。


 普通、ヒゲとかが無くなったら、爽やかになるはずですよね? 


 それなのにどうして、髪を短くしてヒゲを剃り落とした今のほうが野性味がにじみ出てくるんでしょうか。


 もしかして、ぼさぼさの髪とふわふわのヒゲが緩衝材の役割を果たしていたのかもしれません。ぬいぐるみのようなふわふわ感という視覚的な緩衝材がなくなって、鋭さとか厳しさが浮き彫りになっているような気がします。


 いや、と言うか、これ本当に夫ですよね?


 ちょっと不安になって、少し距離をとりつつ、腕にそーっと手を伸ばしてみます。あ、この感触は間違いなく夫ですね。安心しました。何だか不思議な感じですが、とにかく夫を起こして着替えないことには朝食が作れません。


 そういえば、夫はお夕飯どうしたんでしょう? もしかして、夫も食べていないのでしょうか。だとしたら、非常に申し訳ないです。早く朝食の用意をしてしなければ、と夫をゆり動かそうとして、固まりました。


 野生の獣、いやいや野生のクマ、じゃなくて夫が、じっ、とこちらを見ていました。


 どういうわけか、いきなり頭に血が上って、自分の顔が急に赤くなるのを感じます。

 思わず、夫の腕に置いていた手を素早く引っ込めようとして、それ以上に素早い動きで夫が私の手首を捕まえました。


 相変わらず、寝起きとは思えない反射神経ですね、だから掴んだ手首を不思議そうに見るのはやめてください、何でこんなところに手があるんだろう、って思ってますよね、齧られそうで怖いのでほんとやめてください、って、顔をこすり付けるのもだめです!!


「だ、旦那さま!?」


 手のひらから伝わる熱が、そのまま全部私の顔に移動しているのかも、というくらい、顔が熱くなってきました。

 いつもはひげでふわふわとしている夫の頬が、さらっとしていて直接皮膚に触れている感じがなにやら非常に恥ずかしいのですが、と主張していいものかどうか悩んでいるうちに、夫がそのまま手のひらに唇を当てました。


「おはよう」


 く、唇の動きがぁぁぁぁっ!?


「お、おはようございました!」


 限界ですっ、無理です!

 おかしな挨拶をしてしまったような気がしますが、それどころじゃないんです!


 涙目になりながら夫から手を取り返すべく振り払おうとしたのですが、少しも動かないばかりか、どう掴んでいるのか手首から先に力が全く入りません。

 

 離-しーてーっ!(泣)


 なんだかいろいろな許容量を超えてしまった私は、手のひらに伝わる感触ばかりに気をとられていて、忘れていました。挨拶と一緒にやってくる、あれを。

 手のひらから夫の顔が離れて、ほっ、と息をついた瞬間。


 ちゅ。


 !?


 真っ赤になっているであろう頬に当たった、柔らかくて暖かな感触。

 軽い音を立てて離れていったそれは、逃げる間もなく反対側にも落ちてきて。


 ちゅ。


 !!


 声も出せずに茹でだこ状態で限界を突破した私は、掴まれていないほうの手で自分の頬を押さえて寝具に突っ伏しました。本当は、夫に頭突きしてやりたかったのですが、もういろいろ駄目です。これ以上、夫との接触は無理です。勘弁してください。


 物置部屋の修理、私がやっちゃいましょう。そうしましょう。


 寝具に埋もれてそう決意していると、夫が掴んでいるほうの腕が軽く引っ張られました。寝具の隙間から夫を伺うと、期待に満ちた目でじっと私を見ています。


 なんだか、嫌な既視感が・・・。


 だから、なんですか、その目は。

 なんで、自分の頬を指で叩いているんですか。

 なんで、顔を近づけてくるんですか!?


 ・・・ふわふわクマさんの緩衝材は、視覚的だけじゃ、無かったようです。




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