美しい世界、愛すべき生物
医者に軽く挨拶をし、私は外に出た。
そこには少々の走行車と、曇った灰色の空という日常風景なるものが私の視界に映った。
「・・・・・最後くらい、キレイな景色を見たいもんだ」
だれに言うでもなく、
しかし独り言でもなく。
ただの我儘を、世界へとぶつけてみる。
「・・・・・あと何時間だ?」
私の生涯を終えるまでの時間を少し考えてみたが、すぐに止めた。
「・・・・・まぁ。早まっただけの事だと踏み切るか」
深い深呼吸をした後、静かに目を瞑り、考える。
キレイな景色。
それは、どんな生物から見ても。
色鮮やかな、そして幸福を現実にしたような世界。
私は、目を開いた。
「・・・・・・・・」
すると、そこには先程までとはまるで正反対の色が存在していた。
透き通るような青、綺麗な緑。少々の、私と関わりを持つ黒と灰色の長方形の物体。
色鮮やかな赤、桃色、橙色。
「・・・・・御伽話じゃないんだからさ。」
あろうことか、目の前にはあの大妖怪、鴉天狗が仁王立ちしていた。
「・・・・・中学のころは、妖怪に夢を馳せていた」
少し、笑ってしまった。
すると天狗は、訝しげに私を見ると、何かをこちらへ投げて大空へ飛んでいった。
そしてその『何か』も、私の記憶の中の色より華やかな色となって私の視界に映った。
「これは、提灯か・・・・?」
それは、中々に見覚えのある北海道神宮祭の提灯だった。
「友達と男二人で良く行っては、必ず帰りに酒を飲んだなぁ。あの時はくだらないことばかり話した。
懐かしい記憶にして、幸福な記憶。
今、私の目には『記憶』が映っている。
『妄想』の中にも、『記憶』は入ってくるのか。
「・・・・・・いや」
私は、少し考えてみた。
もしかして、この世界は全て私の妄想、夢なのではないのだろうか。
私が産まれ、知識を身につけていき、そしてあの病院に勤め、この病にかかる。
これらは全て、私の想像した世界なのではないのか。
始めから、終わりまで。
何から何までもが。
私の、記憶が。
全て。
あれもこれも、それもどれも。
嬉しさも悲しさも、憤怒も嫉妬も。
「・・・・・む?」
そんな私を肯定するかのように、鵺に乗った少女が楽しげに空を飛んでいた。
「・・・・・しかし、望んでいない終わりも来るのか」
だが。
それも、俺の妄想の一部なのかもしれない。
「・・・・なんて」
目を瞑り。
目を開く。
・・・・・・思ったよりも小さい、と思ったのは恐らくまだまだ遠いはるか上空にあるからだろう。
あれに、ここらを破壊する威力があるとは思えないのも。
「・・・・・さて」
死んでも、そこは天国でありますように。
死んでも、この病は治りませんように。
どうか。
いつまでも、幸せな世界で。
俺は一回、最後の主人公のようなことを考えたことがある。
人生って・・・・・妄想なんじゃね?(しかも授業中)。
はい。以上です。
『鵺と少女』、読んでくれてありがとうございます