妄想症
「・・・・・笑い事じゃないんですけど」
焦る私を見て、またも医者は笑った。
「何を言うか。妄想症を治す程度で治るよ、多分」
医者はそう言うと、ポケットからメスを取り出して私の腹部にその刃先を向けた。
「え、ええ!?や、やめてください医者!」
「・・・・ん?」
私が言うと、医者は不可思議な顔をした。
「何を?」
医者が言うと、私の視界にはコーヒーのカップを手に持った医者が映った。
「・・・・・は」
・・・・・・そうか。
連想してしまうのだ。
目の前の老人の言動や、自分の思考を。
現実になってしまうのか。
「・・・・・・ふむ。落ち着きたまえ」
医者は全てを即座に理解したのか、特に不安の表情も無く話した。
「すまなかったな。君は、私の言動を『置き換えて』しまうんだったな。」
ふむ、と医者。
「ならば、私が自殺すればいいのかな?」
医者はまたもやポケットからメスを―って、これも妄想か。
「・・・・・マグカップでどうやって自殺するんですか?医者。」
「おや。君、凄いねぇ。」
医者は暢気に笑った。
「ただ、私もそれにかかったかもしれない。さっきから、君が妻に見えてしょうがない」
・・・・・・。
「やめてください」
「お、戻った」
「・・・・・どうするんですか」
「やばいねぇ。病院内まで来たって事は、もう地上は楽に歩けない」
「・・・・・本当ですよ」
「ふむ。とりあえず、テレビを点けてくれ。」
「・・・・・はい。情報源、情報源っと」
リモコンのスイッチを押しテレビを見ると、そこでは臨時ニュースがやっていた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
そして、私達は少々沈黙した。
「・・・・・医者」
「なんだい」
「これは?」
「・・・・・・君にも見えているなら、どうやら『私の世界』ではないようだ」
そこには。
日本を含む、アジアに無数の核が落とされている映像が映った。