少女と鵺①
「おい、寝んな、仕事中じゃ」
「・・・・・あ」
私が目を覚ますと、そこは私の職場だった。
あまり言いたくは無いが、医大の精神科だった。
「何か酷く疲れた顔してんのう。『寝て疲れる』って究極を極めたなお主」
私が黙っていると、医者がカカッ、などと笑いながらそんなことを言ってきた。
「・・・・・・はい。少し、嫌な夢を見ましてね」
「・・・・・・・ほう」
ズイ、と顔を近づける医者。
この人は言うまでも無く精神科医なのだが、一度この人が診てもらったほうがいいような気もする。
決して尊敬などしていないと言っては嘘になるが、しかしここで言う『助手』は私しかいない為に、この医者と常日頃二人っきりになってしまう。
この医者は『黙ってると死ぬ病』に罹ったらしく(本人が言うんだから間違いない)、やはり私にいろんなことを教えてくれる。それは時に心に響き、時に性欲を膨らませ、時に無性に眠りたくなる、そんな程度の話であった。
「こりゃぁ、傑作じゃな。精神科医の助手がそんなことを言っている場合か。ボールに対して一心不乱に恐怖の念が渦巻くピッチャーのようなものじゃ」
「喩えが長すぎます。もう少し手短に頼みます」
私が言うと、
「精神病に罹った精神科の助手とか?」
・・・・・なんだかこの医者、患者にストレスばっか与えて自殺させてるような気がする。
「もっとリラックスせんかい。そんなんじゃぁ人生損するぞ」
「もしもその結果が貴方のような人間だった場合にも損しかしていない気がしますが」
「酷い事をオッシャル」
「・・・・・なんで精神科医になんかなったんですか」
「頭が良かったから。キ〇ガイを見るのが好きだったから。カニバリズム(※食人、人肉愛好家)だから」
「最後はいらんでしょう!」
モップを両手に距離を取る私だった。
「嘘じゃよ、嘘。」
ニィ、と笑う医者。
犬歯にこれほどまでに恐怖を抱いた事は無い。
「それより、最近変な病が流行っているそうじゃ」
「変な病?」
「そ。変な病。」
アンタがその『変な病』に罹っているんじゃないのか、と言いそうになったが口を塞いだ。
「・・・・・はたしてどんな」
「考えた物、想像、妄想が幻覚になって出てくるという病。」
「貴方が第一発症者なんですね、お察しします。さぁ、そうと決まったらさっさとこの病院の精神化に行きましょう」
「・・・・・お主、何故そんなにイライラしている。残念だが男に生理は来ないぞ」
妄想で妊娠でもしたのか、と医者。
「相手は誰じゃ」
「やめてください」
話を戻す。
「つかそれ、明らかに私達の分野じゃないですか」
「想像妊娠が?」
「違がいますよ。その『妄想病』ですよ」
「当たり前じゃ。ジャぁないと情報が回ってこないでしょう」
「患者が来たんですか?」
「来たわけじゃない。ただ、もう日本の裏側ではそんな病が流行ってる。あえて国名は出さないけど、ヒントはチリとかアメリカとかブラジルとか北京とか」
「・・・・自分の言った事に対して責任を持て!」
危うくスルーしそうになった。
「何が?」
「あからさまに国名言ってんじゃないですか」
「え?県庁所在地言っただけだけど」
「日本は広いな!」
せめて『首都』って言ってくれ。
アメリカって。
チリって。
ブラジルって。
随分片寄ったな、日本。
「しかし、凄い病気ですね」
「『凄い』っていうより夢のような病気だよねぇ。死んだ妻を思ったらきっと私は目の前に居る君を妻と認識するんだろうねぇ」
うんうん、と医者。
ガチで嫌だった。
「とりあえず、そんな病。」
「ほう」
「が日本に来るかもしれない」
医者はつまらなさそうに、そんな事を言った。