【コミカライズ発売記念SS】その後のベイジル8歳
※独立した短編ではありません。
「婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?」https://ncode.syosetu.com/n2678jq/ に付随した後日談です。
すべてが唐突だった。
未来の僕が《王家の禁術》を使ったらしく、ある朝目覚めたら、八歳の僕は十年後の世界──。
"十八歳の僕"の身体の中にいた。
周りにいる侍従たちも知らぬ者ばかりで、突然の出来事に混乱し、騒ぎに騒いで呼んで貰ったのが、幼馴染のセシィこと、セシリア・リッテル公爵令嬢。
十八歳になった僕の婚約者は、女神のように美しかった。
急にお姉さんになったセシィに戸惑いつつも、仕草も表情も僕の知るセシィのままで安心し、僕は十年後の未来を楽しむことにした。
青年になった僕は、セシィよりうんと背が伸びていて。
声も低くなってて、その声でセシィを呼ぶと、彼女が頬を赤く染めて動揺するのが、とてつもなく可愛い。
慣れ親しんだ王子宮ではなく、王宮で政務に携わってて、これはもういつでもセシィと結婚出来そうな気がする。
ただ気がかりは、セシィの元気がないこと。
隠すように振舞ってるけど、いつも彼女を見ていた僕にはわかってしまうわけで。
彼女との散歩中、悩みを聞き出そうとしていたら、無礼な女がいきなり湧いて出た。
見たこともない令嬢が、一方的にきゃんきゃん叫ぶ。
貴族とは思えないほど下品な女が暴露したのは、そいつがセシィを呪っているという事実。
さらに相手がセシィ目掛けて特大の呪いを発動させようとした──ところで、僕は"子どもの僕"に戻っていた。
(うわぁぁぁ、なんで? どうしてあんな場面で? 僕はあの後ちゃんと、セシィを守り切れたのか!?)
気が気じゃなく動転していた僕は、「勝手に王子宮を抜け出した」という身に覚えのない説教が耳に入るはずもなく。
こんこんと叱られる理不尽さに唇を噛みしめつつも、ただセシィの安否だけを案じ続けた。
長い説教から解放されて自室に戻ると、置き手紙が目に入る。
禁術の発動者、"十八歳の僕"から、僕に宛てた手紙だった。
「未来の話だから、詳しく語ることは出来ないが」との前置き通り、情報不足が過ぎて、すっごく消化不良な内容だったけれど。
要約すると、"十八の僕"はセシィの呪いを解くため過去に戻り、僕の身体を使って事件を解決したらしい。
未来の僕がセシィを泣かせてた理由も、その呪いが原因だったとか。
けど僕は未来でもセシィひと筋のようで(当然だ!)、"セシィのため"と言われれば、強引に身体を奪われた件も、なんとか許してやるしかない。相手、僕自身だし。
(……うん。振り回されて、いろいろと言いたいことはあるけど、ここは僕がオトナにならなきゃ)
手紙を読み終えた僕は、ふうっと深い息を吐き、侍女が用意してくれたお茶とお茶請けの菓子を口に運ぶ。
(ん? 手紙、二枚目があるな)
ぱらり、と紙をめくると「追記」があった。
"なお、今回の礼として、話しても障りのないことを伝えておく"
(なんだ?)
"これは過去に体験した話だが。茶菓子のフロランタンには気を付けろ。グラついてた乳歯が抜けて、建国祭でセシリアと会う時、間抜け面を晒すことになるぞ"
「んっ?」
思った時には遅かった。
菓子を噛んだ僕は、口中に違和感を覚え、ついで抜けかけだった上の前歯がポロリと落ちる。
「……え……?」
建国祭は明後日だ。
僕の、前歯……? え……?
「情報が、何の役にも立ってないっ! 次に会ったら許さないからな──!」
僕は。未来の僕に向かって咆哮したのだった!!
建国祭のセシィも眩しいくらいに可愛かった。
前歯を隠すために、あまり喋れなかったけどね! ぐすん。
《ベイジル八歳、その後》完
お読みいただき有難うございます!
こちら、アルファポリス様で「婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?」と一緒に公開していたのですが、商業化に伴い、作品を引き下げました。
このままお蔵入りも寂しいので、コミカライズ発売記念として投稿。
単独で成り立たないお話で恐縮ですが、前作とあわせてお楽しみいただけましたら嬉しいです♪
なお、子どもの歯は8歳頃に上の前歯が生え変わります(笑)
どうぞよろしくお願い申し上げます!ヾ(*´∀`*)ノ





