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シャーロットの仮説  作者: ariya
代理の打ち合わせ

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4.

「じゃぁ、私はせっかくだから新作のケーキでも食べようかな♪」


 呑気なケリー令嬢はエリオットが座っていた椅子の隣に座りメニューを開いた。


「あなたって随分と図太いのね」


 向かい側のオルガは呆れてため息をついた。


「せめてもの老婆心で言ってあげるわ。エリオットさんと別れた方がいいわよ。あの男は女ぐせが悪くて……昔っから面倒ごとを起こしていたから。私と婚約する前はひどかったわ。婚約したときに恋人が妊娠したと嘘を言って本当にたいへんだった」

「えー、エリオット様がどんな過去を背負おうと私は今を一緒に行きたいのです」

「婚約者を裏切る男はまた裏切るわよ」


 何を話しているか聞き取れないが、周りは例の婚約解消劇を見ているため興味津々であった。


「オ、オルガ様!」


 青ざめた弁護士が戻ってきた。


「エリオット様がたいへんです」

「あの男が大変じゃなかった時なんてあったかしら」


「エリオット様が死んでいます!」


 彼女は怪訝そうに立ち上がり、トイレへと向かった。


「エリオット様の悪戯がまた始まったのね。あの人は死んだふりがうまいから」


 呑気にメニューを眺めいるアイラは動こうとしない。


 しばらくしてオルガは戻ってきてケリー令嬢の腕を掴んだ。


「あなたもきなさい」

「?」


 弁護士の叫びに周りは騒然としていた。

 こういう場合はどうしたらいいのか。

 警察が来るまで待機されるのだろうか。


「シャーロットさん」


 立ち上がったシャーロットはオルガたちの後を追う。

 さすがに野次馬はよくないと彼女を引き止めようとしたが、シャーロットは思いの外すばしっこく捕まえることができなかった。


 喫茶店のトイレは一度建物から出る必要がある。裏の出入り口から外に出るとトイレ用の建物へつながる。小さな小屋にも見える作りである。


「いやああああっ!」


 トイレから令嬢の叫び声が響く。


「エリオット様! エリオットさまぁ!!」


 ケリー令嬢は倒れているエリオットにしがみつき泣いていた。

 あまりの悲痛な叫びに耳を覆いたくなる。


 トイレの中の状況をみてシャーロットは呆然とした。顔色が悪い。白磁の肌が一層白く見えた。


「シャーロットさん!」


 ルイスが肩を掴み声をかけて、シャーロットは目を揺らした。何か動揺しているように見える。


 大きく息を吸い吐く。

 少し落ち着きを取り戻してケリー令嬢に近づいた。


「令嬢、少し離れたまえ」

「いやよ! エリオット様が死んじゃう!!」

「ルイスさん、令嬢を抑えてくれ」


 シャーロットに言われてルイスはケリー令嬢をエリオットから引き離した。


 シャーロットは首筋を触れ、胸の動きを観察した。

 エリオットを仰向けにしたと思えば、胸に手を当てて押さえつけた。何をしているのだとオルガは首を傾げていた。


 胸骨圧迫。


 心肺停止者をみたら行う救命処置である。

 まだ一般に広まってはいないが、ルイスも軍隊に入る際に学ばされた。


「はぁ、はぁ……」


 何分かする頃にシャーロットは息を切らせていた。


「すみません。彼女を頼みます」


 ルイスはケリー令嬢をオルガたちに預けてシャーロットの方へ近づく。


「シャーロットさん、代わります」


 自分の方が体力がある。

 シャーロットに声をかけて、すぐに彼女は頷いた。


「1、2、3!」


 シャーロットが声かけをして、3が終わるところでルイスは交代した。


 エリオットの顔色は悪く、冷汗で濡れていた。手に触れた布の感触がヒヤリとして冷たい。

 唇には血の気がなく、急激な体調変化があったことが分かる。


 脈はない。呼吸はしていない。

 だが、先程まで生きていた男である。

 シャーロットはひと匙の希望を捨てずに救命処置を開始した。


「変わる!」


 時間が経過してシャーロットが声をかけた。

 また同様に交代する。


「人工呼吸します」

「いや、感染、毒の可能性がある」


 シャーロットは胸骨圧迫しながら叫んだ。

 確かにエリオットは持病がなさそうな健康体だ。

 救命処置では救助者が毒や感染の曝露を回避するように改定されたばかりなのを思い出した。


 ――医者としてはあまりに未熟、医者には向かなかった。


 そう言っていたというが、彼女の行動は医者の動きそのものに見えた。


 ◆◆◆


「シャーロットさん、もう30分経過した」


 時計をみてルイスは胸骨圧迫をしていたシャーロットに声をかけた。あれから何度か交代して、エリオットの状態をみたが脈拍が戻る気配もなかった。


 病院へ連れて行っても厳しいだろう。


 ようやくシャーロットは手を止めた。白いブラウスは汗だくで、わずかに下着が透けて見えた。

 ルイスは慌てて上着を彼女に着せた。


「け、警察の方がきました」


 店員が警察をトイレへと案内した。

 警察がシャーロットの顔をみて、ぴたりと彼は表情がこわばった。


「はぁ、君は何をしているのだね」


 どうやら顔見知りのようだ。


「見てわからないか。救命処置だ。脈は戻らずにおみとりになるが」


 残念なことだと警察はエリオットの体に触れた。

 しばらく考えてシャーロットに声をかけた。


「シャーロット・ベルエイデン医師、死亡確認を頼めないか?」


 今向かっている監察医を待たずに死亡確認して検死をしたいと言ってきた。

 シャーロットは警察からペンライトを受け取り瞳孔を確認する。脈に触れて、胸の動きを確認。


「自発呼吸もなし、午後2時34分に死亡確認だ」


 シャーロットがいうと警察はメモを取る。


 これから始まるのは長い長い検死である。


 店の中にいる客も店員も事件関係者として警察の監視下に置かれた。

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