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シャーロットの仮説  作者: ariya
代理の打ち合わせ

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3/27

2.

「あま」


 思わず声に出してしまうルイスにシャーロットは首を傾げた。


 ルイスがソーサーにおいたのは先程注文した飲み物、抹茶のはずだが。


 ミルクと蜂蜜が入っていてかなり甘いものだった。


「抹茶ラテを選ぶから甘党と思っていたが、違うのか?」

「どちらかと言うと辛党です」


 メニューをみると抹茶の隣に小さくラテと説明がついていた。ちゃんと確認していればよかった。


 注文したものだからちゃんと飲むが、やはり甘すぎる。



「抹茶自体はあまり売り上げが良くなくて甘みをつけて女性に人気が出た代物だ」

「なるほどね。ちなみに抹茶自体を注文できますかね」

「店員に直接言えばいれてもらえるぞ」


 そう言うが、頼んだものを無駄にするわけにはいかない。


 抹茶ラテをもう一口飲んだ後にシャーロットが持ってきた原稿に目を通した。


 チャールズ・イヴァノヴィッチが書いた生の原稿と思うと緊張してしまう。


 母が知れば興奮して質問責めするだろうな。


 仕事の内容を母に言わないからそうはならないが。

 誰の担当をしているかも母は知らない。


「守秘義務でしょ! それくらいわかっているわ」


 物分かりいいのか、母はルイスの仕事内容を詮索しようとしなかった。

 助かるからいいけど。


 区切りの良い部分まで読んでおこうと思ったが、続きがついつい気になってしまう。

 もう少し、もう少しと読み進めてようやく真相が明かされる瞬間。



「待ってくれ! オルガ!」


 横から叫ぶ声に、現実へ引き延ばされる。

 ブースの外で令嬢の腕を握る青年の姿があった。


「おはなしになって。見苦しいわよ」


 オルガと呼ばれた令嬢はいかにも嫌そうな表情を浮かべた。


「あなたがケリー令嬢を愛しているのはわかったわ。どうぞお幸せに」

「だから話を聞いてくれ」

「話はもう聞いたわ。二人の恋話を聞かされてもううんざりなの。婚約解消の準備はしておくわ。後日弁護士を介して行いましょう」


 話を聞く限りは修羅場のようだ。


「だが、そうなれば投資の話は」

「もちろんないに決まっているでしょ! 父には私から言っておきます」

「私の事業はどうなるのだ」


 だいたい想像できてしまう会話に、よくないと思いつつもつい耳を傾けてしまう。

 噂話をする貴族社交界に嫌気がさした身だが、こう目の前で繰り広げられると気になってしまう。


「もう、おやめください! オルガ様!」


 可愛らしい叫び声と共に現れたのは声に相応しい可憐な令嬢である。どうやらケリー令嬢のようだ。


「エリオット様を苦しめないで。投資金を武器にエリオット様を離さないなんて」

「はぁ……」


 オルガは困り果ててため息をついた。


「ケリー令嬢はもう少し社会勉強をしてください。元々投資は私とエリオットさんの結婚が条件に勧められていたの。婚約が解消されれば、投資がなくなるのは当然。慈善業じゃないのよ」

「だから、投資がなくなれば私の事業は……」

「真実の愛があれば何とかなるでしょう」


 オルガは腕を振り払い、ひらひらと手を振って去っていった。


「エリオット様、大丈夫ですか……私、こんなことになるなんて」


 ぐすぐすと涙を浮かべるケリー令嬢。


「泣かないでくれ。アイラ、お前は何も悪くない」


 二人は抱き合い、まるで脚光を浴びた寸劇のようだ。

 婚約破棄されてどうのという恋愛小説があるのは知っていたが、現実に起きるとは思わなかった。


「それで、叔父の小説で気になる点はあるかな」


 寸劇のあらましを見終わったシャーロットは興味を失い、ルイスに質問してきた。


「え、えーと」

「構成が変とか、この会話に違和感があるとか」

「それはないかと……すみません。今の時点では、問題な箇所はないように思いますが、帰って再読させてください」


 ルイスの言葉にシャーロットはこくりと頷いた。


「では、次の打ち合わせは3日後。場所と時間は同じでいいかな」

「あ、はい。大丈夫です」


 3日後のスケジュールは空きがあった。


「それで、その君は旅行記を書いたルイス・パンドディアかな」


 そっと彼女は本を取り出した。

 5年前に出版された本だ。重版がかかった時は嬉しかったな。


「え、そうだけど」

「では、サインをいただけるかな」


 視線を外しながらもシャーロットは照れながらいう。何とも可愛らしい所作だ。初対面のプリンの時も感じたが、ところどころ少女らしい所作がみられる。随分な落ち着いた雰囲気の言葉遣いであるが、まだ大人になりきれていないように思えた。


 不思議な魅力を持った子だな。


 ルイスは思わず頬を緩ませて本にサインをした。しかも初版であり、ますます驚いた。


「もう書かないのか?」

「執筆中です」

「そうか、それは楽しみだ」


 読者に出会うことがこんなにこそばゆいとは思いもしなかった。


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