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シャーロットの仮説  作者: ariya
呪いの本

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24/27

10.



 アシュラム市立病院。


 ケルトニカ帝国首都の中心街にある病院である。市民の為に設立された大病院であった。

 そこにたどり着いた馬車を外来受付付近の出入り口にとめる。


「ゆっくりと中へ運んでくれ!」


 ルイスとアルバートは協力してアルテミア子爵夫人を担ぎあげた。


 それを後ろにシャーロットは病院受付へと入り、スタッフに声をかけた。


「脳神経外科のランカル医師に伝えてくれ! シャーロット・ベルエイデンが急患を連れてきたと」


 受付スタッフは怪訝な表情で「急患の順番ぬけは医療費割増になりますよ」と言ってきてきた。シャーロットは息をきらしながら返す。


「構わん。急ぎ急患の対応を頼む」


 10代の令嬢が何を生意気なことを言っているのだと受付は院内メッセンジャーをとばした。メッセンジャーとなるスタッフは足早で脳神経外科医がいるエリアの方へ走った。

 十分するかしないかで看護師を引き連れて白衣の男が走ってきた。


「ベルエイデン、その人が昨日電話で言っていた患者だな」


 体格のいい筋肉質の壮年の男でルイスは少し驚いた。医者は文学系のイメージが強くあんなに筋肉質の男は想像したことがなかった。


 彼の話振りではシャーロットは万が一を考えて急患の相談をしていたようだった。


 シャーロットが状況を説明して、彼はアルテミア子爵令嬢をみた。両目をあけて光をあてて、口の動き、四肢の状態を確認した。


「救護室へ案内しすぐに検査をしろ。救護カートも用意しておくんだ。手術室と麻酔科に緊急手術の依頼をする」


 脇にあった指示箋を殴り書きして、連れてきた看護師たちに声をかけた。看護師たちはストレッチャー(移動ベッド)にアルテミア子爵夫人をのせて奥の方へと連れて行った。


 壮年の医師の言う通り、検査の後に緊急手術となった。

 それを確認してシャーロットはふらりと足が崩れていくのを感じた。後ろからルイスが支えた。


「大丈夫ですか?」

「ああ、緊張がとけて……」


 シャーロットはルイスの胸に手をあててもたれかかった。


「すまないが、椅子に座らせてくれ」


 シャーロットは気恥ずかし気にいい、ルイスは側の椅子の方へとシャーロットを運んだ。

 椅子に腰をかけて少し落ちついた様子のシャーロットをみてルイスは隣に座った。


「夫人は助かりますか?」

「わからない。後は専門家に委ねるしかない」


 心細い声にルイスはどうにかしたいと思い彼女の手を握った。シャーロットは無意識にルイスの手を握り返す。

 やはりペンダコと思われる部分が感じられる。それ以外は白くて綺麗な、小さな手でルイスは少しでも彼女を支えたいと握り締めた。


 ◆◆◆


 手術が終わったことを確認したアルバートはシャーロットに報告した。


「後は夫人の体力次第と説明を受けました」


 手術は成功したものの、どれくらいの脳のダメージを受けていたかはまだわからない。後遺症は残る可能性もある。このまま体力がもたずに命を落とす危険はまだあった。


「ベルエイデン令嬢、何とお礼を言っていいか……」


 アルバートは涙声でシャーロットに頭を下げた。


「頭をあげて…‥私はただ可能性を示唆しただけだ」


 実際に助けたのは脳神経外科医である。


「いいえ、私と妹だけではあそこまで対応はできませんでした。医者の元まで繋げられたのはあなたのおかげです」


 アルバートは今にも膝をつかん勢いでさすがにそれはやめてほしいとシャーロットは拒否した。


「それで、ラナはどうなった?」


 あのどさくさで、アルテミア子爵夫人の救命に集中していたため誰も彼女を追うことができなかった。


「もぬけの殻です。しかも、呪いの本がなくなっていたので奴が盗みだしたのでしょう」


 アルバートが言うには、呪いの本を手に入れるきっかけはラナであった。

 呪いに傾倒していたアルテミア子爵夫人は祈祷師を呼びこむことを繰り返しており、アルバートは何とかしたいと思った。だが、無理に言えばアルテミア子爵夫人は激昂してリーベル男爵家と関係を断絶するとまでいいかねない。そうなればますます呪いにだけにすがり孤立してしまうのではないかと誰も何も言えない状態であった。

 少しでもアルバートが出入りして万が一の、ぎりぎりを押しとどめようと考えていたが思うようにできずアルテミア子爵夫人の生活はラナ・モリガンに委ねられていくこととなった。

 そしてラナは呪いの本について夫人に言った。

 アルテミア子爵夫人は興味を持ちそれをオークションで買い取り持ち帰った。

 あまりの美しさにアルテミア子爵夫人は上機嫌でアルバートに自慢していた。確かに美しい美術品だとアルバートが褒めてますます気をよくしていた矢先の転倒であった。

 それから少しずつ彼女の様子が変わっていき、ラナにどんどん依存していっていた。


「転倒が原因……もしかしてラナが夫人を突き飛ばして転倒させたのではっ!」


 アルバートは許せないと拳を震わせた。


「いや、それはわからない。使用人の証言ではラナは外出中だったというし、ただの事故だったとも考えられる」


 実際のところはわからないのだとシャーロットは首を横に振った。思いのほかラナのことを悪く言わないのだなと思いきや、彼女はすぐに厳しい口調で呟いた。


「だが、ラナ・モリガンが呪いや祈祷の話ばかりして夫人を病院から遠ざけた。夫人を危険な状況にしたのは間違いないだろう」


 ほんのわずかに感じられるシャーロットの怒りであった。

 

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