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シャーロットの仮説  作者: ariya
呪いの本

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7.


 馬車を降りたらすぐに出迎える若い紳士がいた。


「ようこそいらっしゃいました」


 アルバート・アルテミアであった。

 オルガの兄である。確かに目元が彼女に似ているように思えた。


「本当は子爵家自慢の庭園を楽しみながらのランチを考えましたが、夫人の状態を鑑みて屋内にいたしました」


 ランチパーティーの会場へと案内してもらった。


 案内された客間へと入る。品のある絵画が飾られ、いたるところの装飾品が美しい。


「これは……東大陸の焼き物ですね」


 飾られている壺をみてルイスは確認した。


「はい。夫人は特に極東の島国の焼き物の色を好んでおりいたるところに飾られています。本日の使用する食器も同じ国の焼き物であり楽しんでいただければ幸いです」


 アルバートはすらすらと焼き物の説明をしてくれた。

 極東の島国、陽和国ひのわくには独特な色合い、文様がエキゾチックで一部の貴族たちに人気であった。

 ルイス自身も陽和国に興味があったが、渡航前に母の病気の連絡が届き急ぎの帰国となった。


「ところでベルエイデン令嬢の御母上も陽和国の方でしたよね?」


 アルバートの問いにシャーロットは頷いた。


「きっとベルエイデン伯爵家も極東の品が豊富でしょう」


 初めて聞いた。ルイスはシャーロットを見つめた。


「まぁ、あるにはあるが……」


 シャーロットは微妙な顔をした。


「私はこういったもののよしあしがよくわらないのだ」


 はっきりと言う彼女の正直さにアルバートは一瞬目を見開くがすぐに表情を戻して席の方へと案内した。


「アルテミア子爵夫人を呼んで参ります」


 アルバートは礼をとり客室を出た。


「大叔母様の今日の機嫌はいいみたい……といっても変なところは相変わらず」


 テーブルにつくとオルガが状況を伝えた。


「ええっと、令嬢に来てもらって申し訳ないのだけど、医者という情報はまだ伝えていないの」

「それでいい。今は働いていないのだし」


 それに医者とわかればへそを曲げて会わないと騒がれるだろう。


「何とかして子爵夫人に取り入り呪いの本をみせてもらいたいな」


 シャーロットはぼそりと呟いた。彼女の本来の目的はそれである。ついでにアルテミア子爵夫人の変な部分を確認する。


「お待たせしました」


 アルバートが声をかけて客室へ入ってきた。彼は車いすを引いて、老婦人を連れてきた。品のよいドレスをきた夫人は静かに会釈をした。その横に別の老女がついてきている。


「あちゃー、ついてきたか」


 オルガは微妙な反応をした。


 シャーロットは立ち上がり、ルイスもそれにならう。


 アルバートに介助してもらいテーブルの方へ近づいた老婦人にシャーロットはカーテシーを披露した。


「夫人、彼女が今日のお客様です」


 アルバートが声かけてシャーロットが口を開く。


「シャーロット・ベルエイデンと申します。そしてこちらは私の付き添いの」

「ルイス・パンドディアです」


 シャーロットの動きに合わせてルイスは自己紹介をした。


「ようこそ、い……」


 アルテミア子爵夫人は口を開くが思うように声を出せないようであった。夫人はちらりと隣の老女に視線を移した。

 黒いドレスを身にまとった老女は前へと出た。


(随分背が高い女性だな)


 ルイスは老女をみて感想を抱いた。腰をまげた老人であるが、足の大きさなどをみると本来身長が高い女性だったように思える。


「ようこそいらっしゃいました、と夫人は仰っています。最近、体調がすぐれず思うように言葉が出ないようなので代わりに私が申し上げます」


 老女が代わりに挨拶口上を述べた。夫人の代わりを任されるということはそれなりに信頼されているようだ。


 老女の紫の瞳はらんらんと輝く。

 どこかで見た色だがルイスはすぐに考えるのをやめた。

 祈祷師に興味を持ち、自身が怪しいものに吸い込まれるのは避けたい。


「私はラナ・モリガン。夫人の相談相手です」


 それを聞きながらアルバートとオルガの反応をみやる。

 すぐに察することができた。


 彼女が例の祈祷師なのだ。

 ここで対面するとは思っていなかったがシャーロットは落ち着いた様子で挨拶をした。


「何とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「お気軽にラナとお呼びください。ベルエイデンのお嬢様」


 ベルエイデンという名前を聞き、アルテミア子爵夫人の眉がきゅっと変化するのを見てしまう。

 少しばかり嫌そうに細めシャーロットを見つめていた。左側の口角を動かして口をへの字に歪ませる。


(これはまずいかな)


 ベルエイデンという名は法医学の権威だとすぐにわかるだろう。アルテミア子爵夫人は子爵代行として社交界にも出入りしていたと思われるし。


「さぁ、食事を持ってこさせましょう。席におかけください」


 アルバートが声をかけて、使用人たちが礼をして準備にとりかかった。

 アルテミア子爵夫人はアルバートに車いすをひいてもらい主人の席へと移動した。

 ここで騒いでシャーロットを追い出すのではという不安があったが、ランチは一緒にしてくれるようだ。

 夫人の後ろの方へ夫人の側に控えるようにラナは立っていた。


「ラナさんも席に座ってください」

「いえいえ、私は夫人の横で夫人の手伝いをしますので。アルバート様は安心して席にお座りください」


 自ら介護役をかってでるというのだ。

 オルガとしては嫌な表情を浮かべていたが、今現在アルテミア子爵夫人の信頼を得ているのはラナの為アルバートも強くは言えなかった。


「シャーロットさん?」


 席に座る気配のないシャーロットにルイスは覗き込む。彼女は神妙な面持ちで夫人をみていた。

 先ほどの睨みつけで怯んでしまったのだろうか。


(いや、シャーロットさんに限ってそれはないか)


「シャーロットさん」


 もう一度声をかけると彼女は頷いてすぐに自身の席へと座った。それを確認してルイスは隣に座る。


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