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シャーロットの仮説  作者: ariya
呪いの本

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18/27

4.


 オークションの日から2ヶ月が経過した頃に探偵ネロの原稿が形になったと連絡があった。

 約束の日時にルイスは喫茶店「ユーファ」へと向かった。


「あっつい」


 雨の季節が終わったと思えば、次に訪れたのは暑い夏の季節である。強い日差しの中、道ゆく人々は風通しのよい衣装と日傘を身につけていた。

 少しでも涼もうと木陰や噴水付近へ寄る人々もいる。


 これでまだ1ヶ月後にはさらなる暑さが待っている。


 靴ずれはすっかりと治っていて会社から歩いても全く問題がなかった。


「いらっしゃいませ」


 店員のマリーがルイスを見てすでに来ているシャーロットのいるブース席へと案内した。


(相変わらず若い令嬢が多いお店だな)


 席まで行く途中にブースから覗く婦女子のドレス、女性の笑い声を耳にして考えた。


「ルイス」


 白いブラウスに赤いスカートを着たシャーロットをみてルイスは少し安心した。

 季節に合わせて生地は肌触りがよさそうな薄手のものだとすぐにわかる。


 あの日にみた衣装よりはずっといい。

 童話のヒロイン風のドレスは愛らしく似合っていたが、不安だった。

 数年前、連続で幼い少女が誘拐される事件があったというし、シャーロットが成人ずみの自分よりも2歳年上の女性だとわかっているが標的にされないかと考えてしまいそうになった。

 やはりシャーロットにはふだんの恰好でいてほしいと願った。


 あとできれば伯爵家令嬢なのだから使用人を同伴させた方がいい。いくらここが義姉の経営しているお店とはいえ、道中何があるかわかったものではない。


「煎茶を頼みます」


 注文を伺いにきたマリーにルイスは言った。

 この店には東洋のお茶も揃えられていて抹茶や煎茶を頼むようにしている。

 会社と自宅にはなく、紅茶やコーヒーばかりを飲んでいるし「ユーファ」の東洋の飲み物が刺激となっていた。


 シャーロットから預けられた原稿に目を通す。会社に戻ってじっくりと吟味すべきであるが、冒頭だけさっと読み気になる箇所を確認した。


「そういえば、今回はオークションのネタは入っていないですね」


 ささっと読んでみてルイスは気になった。


「ああ、今回は前話していたプロットの通りに書いた。あれは後日別の作品で考える予定……だそうだ」

 

 確かに今回のテーマでは取り入れる隙間はなさそうである。


「そうですか。では、このあたりについてですが……」


 ルイスは目に入った気になる箇所に質問をしていく。シャーロットも読み込んでいるようで、チャールズ・イヴァノヴィッチがどんな意向で書いたかすでに確認済みであった。


(本当に代理でここまで打ち合わせをスムーズにできるなんて……シャーロットさんは先生と仲がいいのだな)


 気難しい性格と思われる作家のことを想像した。


 こつこつこつ。


 近づいてくる女性の靴音がする。少し気にしながらもルイスはシャーロットの返答に耳を傾けていた。


「あの……」


 聞き覚えのある声にルイスとシャーロットは近づいてきた女性の方をみた。


「あなたは」


 ルイスが名前をいう前に女性は答えた。


「オルガ・リーベルです。先日はお世話になりました」


 カーテシーを披露する。

 資産家リーベル男爵家の令嬢である。


 そして春の訪れの頃、ルイスがシャーロットに出会ってまもなく発生した毒殺事件の容疑者の1人であった。


「あなたのおかげで私は犯人とならずにすみました」

「それを判断したのは警察だが」

「その警察は一番に私を疑っていましたから」


 さすがに何度も警察から質問責めされて、疑われていることに心穏やかではなかったようだ。

 それでもルイスの目からみると堂々としていた。


「あそこで狼狽えても私の容疑が晴れる訳ではありません」


 とはいえなかなかできることではないだろう。

 20歳をいくつか迎えたとはいえ、自分より年下の令嬢であり大したものである。


「私は仮説を述べただけだ。そして、アイラ・コメット令嬢を追い詰めてしまった。余裕がなかったとはいえ、あの集団の中ですべきではなかった」

「そのアイラのことですが、先日裁判が行われました」


 裁判では、殺されたエリオットの父はアイラを死刑にとおしすすめようとした。

 アイラが雇った弁護士の尽力の甲斐あり死刑は免れた。10年の刑務所いりを言い渡された。もう少し粘りたかったが、これ以上は厳しくアイラも控訴はしない意向を示した。


「そうですか。若いころを刑務所で」


 可憐な令嬢の姿を思い出した。美しい少女であり、20代の大半を塀の中で過ごすのは酷なことだろう。

 エリオットがくずとはいえ、毒殺したことは罪である。彼女はこれから自分を見つめ直して生きていかなければならない。


「意外にうまくやっているみたいよ。あの子はその場に合わせていける特技があるし」


 そういえば立たせたままであったとルイスは気づき、彼女を自分が座っていた椅子へ案内した。

 オルガは促されるまま座り、代わりにルイスはシャーロットの隣へと座った。


「それで今回はお礼と裁判の報告をしてくれたのかい?」

「ええ、ベルエイデン令嬢はアイラのことを気にしていたようだったから」


 オルガはにこりと微笑んだ。メニューをちらりと覗いて、マリーに飲み物を注文する。


「紅茶を……あと、こちらのケーキとアイスの盛り合わせを3つお願いします」


 3つという数字にルイスは首を傾げた。


「せめてものささやかなお礼です」


 気にしないでくださいというがルイスは困った。

 どうやらオルガは自分の分以外にシャーロットとルイスの分のデザートを注文してくれたようだ。

 ルイスはそこまで甘いものは好まない。


「ケーキとアイスの盛り合わせの1つをローストナッツの盛り合わせに変更してもいいか?」


 シャーロットはメニューをみてオルガに聞いた。


「ええ、甘いのは苦手でしたか?」


 オルガは首を傾げた。以前、甘い菓子を食べていた記憶があったようだ。


「いや、私ではなく」


 シャーロットはルイスを示した。


「あら、好みを聞かずにすみません」


 素直に言われてルイスはいえと答えた。

 


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