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シャーロットの仮説  作者: ariya
呪いの本

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15/27

1.


 いつものように喫茶店「ユーファ」で代理打ち合

わせをしていたときのことだ。


「本日はありがとうございました」


 ルイスは新作のおおまかな内容について確認し終えた。

 シャーロットが持ってきた叔父の小説プロットを彼女に返す。


「ではこのプロットを元に執筆にとりかかる、……ように叔父に言っておこう」


 彼女は立ち上がった。


「ところでシャーロットさん、今日はずいぶんと雰囲気の違うドレスを着ていますね」


 青のフリルがふんだんに使用されているドレスにルイスは思わず疑問を口にした。

 可愛らしくあるのだが、少しいつもより幼い印象にみえる。

 彼女は何かと幼くみられるのはコンプレックスだからこのようなドレスを着ていることが不思議であった。


「少々変装して参加する用事があって義姉に用意してもらった」

「へぇ、どこかのお屋敷で仮装パーティーでもするのですか?」


 まだ春が過ぎた頃、雨の季節に入ろうとしている時期である。ハロウィンはまだまだ早いように思える。


「ふふ、クレト伯爵家主催のオークションだ」


 シャーロットは招待状をルイスに見せた。


「クレト前伯爵のコレクションをオークションに出されると聞いて興味がある品をおとす為に参加してくる」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 ルイスはシャーロットの腕を掴んだ。


「クレト伯爵のオークションて……あの、変人と名高い」

「その通りだ」


 貴族社会を敬遠しているルイスの耳にも入る有名なオークションである。

 クレト伯爵の曽祖父は今となっては異常な変質者であった。錬金術にはまってあらゆる呪いの品、薬、毒薬をかき集めて動物実験をしていた。次第に禁忌に踏み込んだ結果、伯爵は幽閉された。伯爵位は従兄弟へと受け継がれることとなった。


 その、クレト伯爵家のオークションというといわくつきのものが多く、参加者の中には闇の売人もいると噂されている。犯罪者が求めるものを落札した者が帰り道に襲われたという事件が発生していた。


「当然、執事か誰かと一緒ですよね?」


 まさかと思いながらもルイスは尋ねるが、シャーロットは目をよそに向けて答えた。


「もちろんだとも」


 その視線の逸らし方で、ルイスには十分だった。


「シャーロットさん、あんなところにあなたが1人で行くことはおすすめできない」

「大丈夫だ。1年前も問題なく参加できたのだから」


 1年前?

 1年前にもこんな怪しいオークションに参加したのか。それも1人で。


 ルイスは鋭い目でシャーロットを見つめた。


 しかも、こんないかにも愛らしい格好で参加したのか。


「よくそんな格好で誘拐されませんでしたね」

「これは今回はじめてだ。大人っぽい魔女ドレスでいく予定だったが、義姉がこれを着ていくようにと言ってきたのだ」


 どうやらシャーロットの義姉のお手製のようだ。

 なかなかの出来栄えで売り物にしてももうしぶんない程だ。


「このままの格好で君と打ち合わせするのは少し気恥ずかしいと思ったが、着替えに戻る手間を考えたら今着ろと着せられたのだよ」


 なるほど。

 ルイスは今の話でシャーロットの義姉の意図を汲んだ。


 このようなふだんと違う愛らしい格好をしていればルイスは質問してくるだろう。

 シャーロットは例の怪しいオークション参加について話して、ルイスは心配して立ち上がる。


 いまだに出会っていない義姉であるが、ルイスの性格を熟知しているようであった。少し怖いが。


「本当にそんなところに参加しないといけないのですか?」

「ああ、探偵ネロの役に立てそうなものもあるし。……叔父さんのプレゼントにしたいのだよ」


 叔父というのは、シャーロットの叔父である。

 人気小説、探偵ネロシリーズの作者チャールズ・イヴァノヴィッチである。

 ルイスが担当編集している作家であり、本来は彼と打ち合わせをすべきであるが極度の引きこもり、人間嫌いのために代理をたてて打ち合わせ執筆をしていた。社長も部長も了承しており、不思議なくらいスムーズに仕事に支障がでないためこのままの状態になっていた。

 シャーロットはチャールズ・イヴァノヴィッチの姪であり最も彼が心を許した相手のようでありルイスとの打ち合わせを問題なく伝達してくれていた。


「イヴァノヴィッチ先生はこのことは?」

「……知らない。あの人はこういう場所は苦手なのだ。だから私がネタになりそうなものを探しに行くのだ」


 せめて叔父と一緒に参加してくれたらまだよかった。内心まだ会わない担当作家に不満を覚えながらもシャーロットの参加意思を変えることは困難である。


「ちなみにこのオークションは俺が同伴してもいいですか?」


 招待状の中身を確認することを了承してもらう中身をみる。招待客1人につきお付き2名まで可能と記載があった。


「え? 来るのか?」

「シャーロットさんを1人で行かせる訳にはいきません。それにイヴァノヴィッチ先生のネタ探しであれば俺が参加しても構わないでしょう」


 この前の事件の時に感じたがシャーロットはかなり危なっかしい女性であった。危険を顧みず勝手に体が動くのか、ルイスが止めないと流れが早い用水路へ入ろうとして焦った。

 自分が一緒に行った方がいささか安心だろう。

 彼女の義姉もそれを狙っていたようだし。


「構わないが……」


 シャーロットはルイスの格好をみた。


「せめて私の同伴者として怪しまれない格好がいいのだが」


 確かに今のルイスの着ているスーツはかなりくたびれていた。糊付けされていた上着はよれよれで、袖口は黒い墨がほんのりとついている。

 オークションはさまざまな衣装を着た参加者が集う場でありドレスコードは統一されていない。それでもパーティーの形を呈しているためある程度整える必要があった。


「少し待っててください。家に帰って着替えます」


 足早に帰り、母に頼み込んで父が使用していない紳士服を出してもらった。


「もう。だから早く紳士服を用意しましょうと言ったのに」


 母はぶちぶちと文句をいいながらルイスの見栄えを整えてやった。

 実は紳士服は就職が決まる段階で用意しようと言われたがなかなか店へ行く気になれなかった。母に引きずられてようやく購入した。オーダーメイドでありまだまだ手元には届いていなかった。


「いい? ご令嬢をエスコートするなら馬車を拾うのよ!」


 母は何度も口酸っぱくいい、ステッキと帽子をルイスに預けてくれた。母の見立てはよく急拵えで用意したのに様になっていた。

 ルイスは馬車を拾って喫茶店「ユーファ」へ戻った。


 店内には待ってくれたシャーロットがお茶を飲みながら窓の外を眺めていた。


 改めてみるとふだんと異なる印象のシャーロットに少しばかり心がざわめき、ルイスは母に言われたままの足取りで彼女に近づいた。

 遅くもなく、早過ぎでもない余裕のある足取りで。

 靴も父のものなのでサイズが合わずに少し違和感があるが、それを諭されないようにと自身に言い聞かせる。


「シャーロットさん」


 ルイスが声をかけると、紫の瞳が揺れてこちらの方をみる。


「お待たせ。行きましょう」


 そういい手を差し伸べると彼女は照れたように自身の手を添えてくれた。

 まるで今からパーティーを向かう男女のように。

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