魔王の死
「何てこと……。皆さん! 勇者ネルケが魔王を討伐したという情報が今入りました!」
「それは本当か?」
「ええ、ギルドマスター。間違いないと思います」
勇者ネルケが魔王を倒した。そのことをヴァイスはギルドで知った。ギルドにいた冒険者たちは皆、喜んでいた。ただ一人、ヴァイスだけがその事実に唖然とした。
「やってくれたか! あの第一勇者が……。俺はやってくれると思ってたよ。これでついに人間の世が来るぞ」
「ようやく平和な世界が来たのね」
自分のことかのように得意げに話す中年や赤子を抱きながら泣いている女性。反応は様々だがギルド内は歓喜の声で溢れていた。
「よかったですね、ヴァイスさん。私たちの役目はもうなくなっちゃいましたけど」
「そうだな……」
「ネルケの奴、やりやがったなぁ。はぁ……もうローゼちゃんと一緒に旅ができなくなるのかー。寂しいなぁ」
「相変わらず気持ちが悪いですね、ベルクさんは」
「酷いなぁ。ローゼちゃん……」
「まあまあ落ち着いて2人とも。このパーティーが誰一人欠けなくて本当によかったですよ。今日はパーッと打ち上げをしましょう」
ローゼ、ベルク、フルスの3人が和やかに話している。3人はヴァイスのパーティーメンバーだ。魔王が打倒されたというとんでもない朗報を聞かされたというのに、やけにあっさりとした反応だとヴァイスは思った。
「いやぁー、魔王をやってくれるのはヴァイスの兄貴だと思ってたんですがね。第一勇者に先を越されてしまいましたな」
ギルドマスターのシュタインが大声で笑いながら話している。
「ネルケは俺よりもずっと強いですからね……」
「兄貴と第一勇者の実力は同じか、兄貴の方が上だと思うんですがねー。そもそも第一勇者とか第二勇者ってなんなんでしょうかね。わたしには順位をつける意味がわかりませんよ……なんか重い空気にしちゃいましたかね。今日はこれ以上ないくらいめでたい日だ。今日だけは何もかも忘れて、盛り上がりましょうや! おい、お前ら、今日は宴だー!!」
冒険者たちの呼応が響き渡る。
そもそも勇者とはなにか――すべてのギルドを取りまとめている組織、『国家ギルド統合機構』。多くの人は『統合ギルド』と言うが、その組織が冒険者の中で並外れて強い5人の剣士を決める。その5人こそが勇者と呼ばれる冒険者だ。選ばれし5人には伝説の宝刀が与えられる。とある鍛冶師が人生をかけて作った5本の宝刀だ。その宝刀でないと魔王を打倒すことはできないと言われている。昔は6本あったらしいが6本目の剣を扱えるものはおらず、今はどこかに隠されているらしい。そして多くの人たちは誰が一番強いか、誰の方が強いのか決めたがる。そうして、いつの間にかヴァイスは第二勇者と言われるようになった。ヴァイスは勇者全員とは会ったことがない。面識があるのは第一勇者であるネルケただ一人だ。
ヴァイスが持つ宝刀は『守護者の刃ガーディアン・エッジ』という名の宝刀である。
「せっかく勇者となってここまで来たというのに……あの……あの憎き魔王を倒すことだけが、俺の生きる意味だった。それがない今、俺はどうすればいいんだ……」
ヴァイスは周りの声が聞こえなくなるほどに追い詰められている。まるで、親のいない子猫のようにうずくまって、怯えているようだった。




