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第3話 【リリー視点】どうして、チェリエ様がトリギアの王子と?



「チェリエ様、大丈夫でしょうか…………」


 トリギア国の王子を歓待する舞踏会を数分後に控えたリリーは、王宮の控室まで迎えに来たレイスにぽつりとそうこぼす。


「リリーは優しいな。あんなにひどいことをしてきた相手を案じるなんて」


 そんなリリーに、レイスはそう言って苦笑して見せる。


 ちなみに――今リリーが使っているこの控室は、王子であるレイスの()()()のために用意されたものであり、本来ここを使用する権利を持つのはチェリエである。

 それを、レイスが強引に押し切ってリリーのためにとねじ込んだのだ。

 その事実だけでも、自分の方がよほどチェリエに対して酷いことをしているのだが、レイスは平然とチェリエを悪様にののしる。

 リリーはそんなレイスに向けて純真そうな乙女の顔を作りながら、チェリエを労わるような言葉を吐いてみせた。


「……だって、私にはこうしてレイス様が居てくれますけど、チェリエ様にはいなくなってしまったんですよ」

「遅かれ早かれこうなる運命だったんだ。むしろ早い段階で反省するタイミングを得て、彼女のためにもよかっただろう」


 実際、チェリエは反省しなければならないようなことなど何もしていない。

 しかし事実を自分に都合よくすり替えるレイスには、自分の取った行動さえも彼女のためなのだと信じて疑わない。


 そうしてリリーは、そんなレイスに心酔するように瞳を潤ませると、「レイス様っ、優しい……!」と言ってレイスにすり寄った。


「……なに。俺が優しいのだとしたら、それは君のおかげさ」


 そう言って身を寄せるリリーを、レイスがそっと抱きしめる。

 一見して恋人たちがお互いを思いあう一幕に見えるこのシーンだったが――、しかしリリーは、レイスから見えない影の部分で一人ほくそ笑んでいた。


(ふふっ……。ちょろいなあ)


 目の前のレイスもだけれど、先日、衆目の前で()()()()()()にも倒れてしまったチェリエのことを思うと、リリーは口端が上がるのが抑えられなかった。


 ――規律正しく、美しく。


 この国の女性のあるべき姿である一歩控えめな女性のあり方を真っ当していたチェリエは、あまりに模範的であるために周囲から一目置かれていたこと、なおかつ爵位が高すぎて恐れ多すぎるという印象故に、周りに友人と呼べる人物がいなかった。


 だからこそ、逆にリリーは親しみやすさで友人を増やし、それとなくチェリエの良くない噂を流したら、ころりとみんな騙されてくれた。


 この国の王子であるレイスも、そのレイスの騎士であるギークも、隣国の宰相の息子であるティエルも、みんなリリーの言うことを信じ、リリーに首ったけなのだ。


(……ねえ私、今、何もかも順調じゃない? 現状、出てきた3人の()()()()()()は全員落とせたし。()()()()()退()()()()だし)


 そんなことを考えながら、リリーはレイスから見えない角度で、それこそ悪役令嬢のような笑みを浮かべながら悦に浸る。

 

(このままいけば逆ハーエンドも楽勝っぽいし。チェリエ様を蹴落として、王太子ルートで他の攻略対象たちもキープしておけば、完璧な結末だわ)


 そう。

 このリリーというヒロインもまた、チェリエと同じく転生者だった。

 なかなかわかりやすい悪役令嬢ムーブを起こさないチェリエにじれて、濡れ衣を着せまくり、なんとか悪役令嬢ポジションを押し付けようとした張本人。


「チェリエ様、今日は会場にいらっしゃるのかしら」

「…………どうだろうな。あんなことがあった直後だ。誰も彼女のパートナーにはなりたがらないだろう」


 ”あんなこと”を起こした張本人であるレイスが、いけしゃあしゃあとそうのたまう。

 さらに言うなら、婚約者に対してさらし者にするような行動をとった挙句、フォローすることなく正式な婚約者でもない相手に勝手にドレスを送りパートナーに据えているという時点で本来であれば王子失格なのだが。

 そんなことに気付きもしない二人は、同情するような言葉を吐きながらも内心ではチェリエを軽んじているのは問いただすまでもなく明らかだった。


「お二人とも、そろそろお時間です」

「もうそんな時間か」


 使用人の一人が、舞踏会の始まりを告げてくるのに、レイスは懐中時計を見てそうつぶやく。


「レイス様。どうですか? 今日の私の恰好」

「……ああ、素敵だよ、リリー」


 そう言って、頬に軽く口づけてくるレイスに、リリーは満足げにほほ笑む。


(残念ね、チェリエ様。あなたの婚約者は、私にもうメロメロなの)


 リリーは自分に向かって差し出されたレイスの腕をつかむと、本来であればチェリエに贈られるはずだったドレスに身を包み、優雅に身をひるがえす。


(ああ。これでトリギアの王子も()()できれば最高なんだけどなあ)


 原作ゲームをさほどやりこんでいないリリーは、サリュートルートの出し方を知らなかった。

 隠しキャラとしてサリュートがいることを知ってはいたが、どうしたらそのルートを出せるのかがわからず、こうして今まで正規キャラだけを攻略してやってきたのだ。


 それが――、まさかこんな、エピローグ間近のタイミングで出てくるとは。


(……このタイミングで、サリュートも攻略できるのかしら。そしたら、今度はレイスをキープしてサリュートを本命にするんだけど)


 キャラクターのビジュアルもピカイチ。

 そして、この作品の中で一番高い地位にいる人物。

 そんなサリュートを落として、大国トリギアの王妃になれたら――。

 それはきっと、どんなにか気持ちのいいことだろう。

 

 そんなことを考えているうちに舞踏会会場にたどり着いたリリーは、ちゃっかりと本来チェリエが座るべき婚約者の席に座する。

 本来在るべきではない王子のふるまいに、周囲は顔をしかめながらも見て見ぬふり。


(まあいいわ。とりあえず今日は、本物のサリュートの美麗さがどんなものか、まずは確認だけできれば)


 とりあえず、原作本編がエンドを迎える前にご登場してくれてよかった――。

 そう思いながらリリーが、にこやかに微笑んでいた時だ。


「トリギア王国第一王子! サリュート・トリギア様! ならびにマーキュリー侯爵家令嬢、チェリエ・マーキュリー様! お二人のご入場です!」

「え……?」


 賓客の入場を伝えたその内容に、リリーは耳を疑った。


(今……、チェリエ・マーキュリーって言った……?)


 動揺し、隣に座るレイスを見ても、当のレイスもリリーと同じく動揺している様子を見せている。

 そうこうしているうちに、『ぎいぃっ……』と開かれた扉から現れたのは――、リリーから見ても、レイスよりもよほど美麗な相貌の貴公子と。


 リリーよりも、清楚に華やかに、美しく着飾られたチェリエの姿。


(ど……、どうして、チェリエ様がトリギアの王子と――?)


 まるで、仲睦まじい恋人同士のように寄り添いながら現れた二人に、リリーはただ、あんぐりと口を開けることしかできないのだった。


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