第28話 これくらい、女の子同士でも普通にするよ?
「………………、はあああ…………」
チェリエの『リリーさんが心配なんです』という言葉に、サリュートが大きくため息を吐く。
ついでに、吐きながらずるずるとチェリエの右肩にもたれかかるようにして頭を乗せてくると、
「……わかった。チェリエがそう言うなら、僕はチェリエの意志を尊重するよ」
もともとそのつもりだったしね――と。
そう言いながら、もぞりとチェリエの体を擦り寄せてくるサリュートは、なんだか自分に甘えてきているようにも感じられてなぜだかチェリエはそれを少しだけ懐かしく思った。
――なぜ懐かしく思ったのかの、理由はわからなかったけれど。
「……ありがとうございます。サリュート様」
「うん」
うん、と答えながら、サリュートは握り拳の上から包み込んでいたチェリエの手をゆっくり解くと、指と指の間に滑り込むように自分の指を絡める。
「……でも僕、今日結構頑張ったからご褒美は欲しいな」
チェリエの肩に頭をもたせかけたまま、もたせかけた方の左手でチェリエの右手を弄ぶ手つきになんとも言えない気持ちになったチェリエは、
「ご褒美、ですか?」
と、胸の内の動揺を悟られないよう意識しながら言葉を返す。
「うん。チェリエの花茶が飲みたい」
――なんだ、そんなことか。
とチェリエは思う。
同時に、なるほど確かに、とも。
(確かに今日は、予想外のアクシデントでボスキャラをサリュート様に倒してもらったし。花魔法も使ったから疲れているわよね)
そう考えると、礼として花茶を求められるのは至極妥当だ。
いや、むしろそれじゃあ全然足りないくらいかもしれない。
というか足りない。
「わたくしの花茶でよければ、いくらでも入れて差し上げますが……。でもそれではサリュート様に助けてもらったお礼として見合わないのでは」
「じゃあ、僕の屋敷に着くまでこの体勢でいさせて。今日は頑張りすぎて疲れちゃったし」
「………………」
そう言って、チェリエにもたれかかったままおねだりしてくるサリュートに、チェリエは少し戸惑った。
なぜなら――、この体勢は果たして、”友人”と呼ぶにふさわしいものか、判断しかねたからだ。
しかし、サリュートはそんなチェリエの戸惑いを正確に把握していたようで、
「これくらい、女の子同士でも普通にするよ」
とケロリと曰うので。
(…………。そうなのかしら……?)
と思いながらも、ここで変に意固地になると妙に意識しているように見られると思ったチェリエは断ることもできず、「……じゃあ……」と言ってサリュートの要望を受け入れた。
――チェリエの角度からは、見えない。
チェリエにもたれかかり、その手を弄ぶサリュートが、どれだけ嬉しそうに、けれど切なく顔を緩ませていたかを。
チェリエがすぐ隣のサリュートから伝わってくる体温と香りを心地よいと思っていたように、サリュートもチェリエから伝わる熱と良い香りに、胸をかきむしりたくなるほどの愛しさで苦しんでいたかを。
チェリエが知ることなく、ただひたすらに、馬車は二人を乗せて走って行った。
◇◆◇
チェリエの心配が的中した――と言うべきか否か。
あれから、瞬く間に花継ぎの乙女リリーの評判はガタ落ちになって行った。
誰が吹聴したのかは知らないが、リリーが花継ぎの乙女としての仕事をちゃんとやっていないという噂が流れ始めたのだ。
曰く――、
『男漁りにばかり夢中で、仕事はいつも適当にやっている』
『花魔法の授業の成績も悪く、花継ぎの乙女としての実力も疑わしい』
『媚を売るのだけが得意で、中身は何もない薄っぺら人間』
その噂を聞いて――、リリーを慰める者、逆に疑わしげに距離を置くようになった者。
慰めている者でさえ、そうは言いながらもまるっきりリリーを信じているというわけではなさそうだった。
いつも天真爛漫を気取っていたリリーも、さすがに学園中に噂が広まってしまっては罰が悪かったのか、どこか居心地が悪そうにしていた。
――そんなある日。
その出来事は起こった。




