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第27話 花継ぎの乙女の末路



「それにしても。チェリエは本当にお人好しすぎるよ。ほっとけばいいじゃないか。あんなゴミカスのことなんて」


 帰りの馬車の中でチェリエの隣に座るサリュートは、不満げな表情を隠そうともせずぷりぷりとそう告げてくる。

 どうやら、サリュートの中でリリーはどうあっても『ゴミ』らしい。

 そんなサリュートに、チェリエは苦笑しながら言葉を返す。


「……お人好し、というより。正すべきものが見えているのに、そのままにしておくことができない性分なのかもしれません。だからきっと、ただの自己満足なんです」


 リリーの奉花を直すのも。

 浄化花をきちんと浄化するのも。


『こうしたら正しくなるのに』というものを目の当たりにして放っておけないだけだ。

 本音を言うと、リリーがもっとちゃんと花継ぎの乙女の役割を果たしてくれるようになってくれれば安心なのだけれど。

 しかし人は、他人の行動を無理には変えられない。

 それをわかっており、なおかつ他人に無理やり言うことを聞かせようとするのが苦手なチェリエは、結局ひっそりとリリーの不手際をフォローしてきたのだ。


「それに……、実のところわたくし、誰にも不幸になってほしくないんです」

「……それって?」


 チェリエがそう呟くと、サリュートが居住まいを正してチェリエの言葉に耳を傾ける姿勢をとってくれたのがわかった。

 それを感じとったチェリエは、訥々《とつとつ》とサリュートに語り出す。


「誰しもが各々《おのおの》、いろんな思惑があって、いろんな願いがあって行動するじゃなありませんか。でも最終的にその願う先はみんな一緒だと思うんです。単に――『幸せになりたい』。みんな、ただそれを願って生きているんです」

「…………うん」


 チェリエの言葉に、サリュートは静かに頷く。


「リリーさんのことは正直……あまり好きではありませんけど。でもだからといって彼女に不幸になってほしいわけではないんです。誰にだって幸せになる権利はありますから。だからわたくしは、その信条を大切にしたいんです」


 リリーからされたことで腹が立つことはたくさんある。

 でもチェリエは、それと真正面からはぶつかりたくないのだ。


「昔から、人とぶつかることが苦手で……。自分のせいで誰かに嫌な思いをさせたくなくて。誰のことも否定したくない。だからこうして、こそこそと陰でやっているんですけど。こういうの、人から見たら小狡こずるいと言う人もいますよね」


 もっと、強くビシバシと、はっきり意見を言って周囲を是正できるような人間だったらよかったのだろう。

 そうは思うけれども、生まれ持った気質はそう簡単には変えられない。

 チェリエがそんな弱い自分を情けなく、歯がゆく感じながら膝の上でこぶしを握り締めうつむくと、サリュートがそのこぶしをそっと優しく包み込んできた。


 チェリエが驚いて顔を上げると、優し気なまなざしとぶつかる。

 それから、ふっと視線を落としたサリュートは、チェリエの手を温かく包み込みながら、


「……それでも。僕は君のそんな優しいところが好きだよ」


 ――と。

 ぽつりとそう言った

 それはチェリエを慰めるために言ったようなものではなく、ただ思ったことをそのまま口にした独り言に近いもので。だからこそ逆にチェリエの心にじんわりと染み入ってくるように思えた。


 自分の意志とは関係なく、ふいに湧き上がってくる想いを押し込めながら、チェリエは続く言葉を口にする。


 「……リリーさんが、心配なんです」


 自分でも、偽善者めいた言葉を口にしていると思う。

 だけどそれは、チェリエの本心からの思いだ。


 チェリエが知っている、原作ゲーム【花継ぎの乙女】の終盤で明らかになる真相。


 それは――花継ぎの乙女は()()()()()()()()()()()()()()()()()であるということだ。






 ――さて。

 ここでもう一度、改めてこの世界の元となった乙女ゲーム【花継ぎの乙女】についてのおさらいをしよう。



 主人公である平民の少女リリーは16歳の誕生日を迎える少し前、花継ぎの石板にその名が浮かび出たことにより花継ぎの乙女として抜擢されることとなる。


 そうして彼女が呼び出されたのは、聖グローシス学園。

 まさに、今チェリエたちが通っているこの学園である。


 この学園は立地としてはデルトムント内にあるにもかかわらず、学園の運営を【花継ぎ教会】という世界樹を主神とした宗教団体が行っている。

 学園周辺の土地も花継ぎ教会の特区となっているという設定である。


 花継ぎの乙女自体は数十年に一度、石板によって決まって16歳の少女が選ばれるのだが、選ばれた少女はその後2年間聖グローシス学園に通い、花継ぎの乙女としての勤めを全うすることとなる。


 ゲームの冒頭で主人公は、『2年の勤めを終えた後は【世界樹の祝福を受けし者】となり、その後お勤めはお役御免、花継ぎ教会の支援のもと、好きに暮らしていい』と言われるのだが――。


 ゲームを進むにつれ、その言葉が偽りだったことが明らかになる。


 偽りの裏に隠された真実。

 それが、花継ぎの乙女の勤めを終えた少女は、世界樹の人柱――生贄にされるという事実だった。


(ゲームをちゃんと順当に進めていれば。最終的に攻略対象者たちとこれまでゲーム中で助けてきた花たちの力を借りて、生贄エンドを回避することができるのだけれど)


 しかし、チェリエの見立てでは、どうにも今のリリーの状態は危なげにしか見えないのだ。


(あんな雑な仕事じゃあ、花たちからの祝福と感謝は得られない。攻略対象者たちからの好感度は悪くはないけど、それでも――)


 リリーが不真面目な花継ぎの乙女をやってきているために、攻略対象者たちの花籠の騎士としての修練度もおそらく低いだろう。


 そう考えると――。

 非常にまずい状況なのでは? とチェリエは思う。


(わたくしを陥れようとした人なんて、放っておけばいいとサリュート様なら言うかもしれないけど)


 それでも、命を奪われるほどのことではないのではないだろうか?

 そう思うから、チェリエは『リリーが心配だ』と口にするのだった。


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