表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/44

第26話 いけない、サリュート様があまりに格好良すぎて



 空間の裂け目から現れた黒豹くろひょうを見て、チェリエは戦慄せんりつした。


「チェリエ、後ろに」


 黒豹の出現に、チェリエをかばうように片腕に抱いていたサリュートは、そのままチェリエを自分の後ろに下がらせる。


(なんで――? ボスキャラが、倒されていないの?)


 サリュートに庇われながら、チェリエは目まぐるしく思考を回転させる。

 あの黒豹は、花継ぎの乙女が浄化花を咲かせた後、瘴気の残滓ざんしが具現化して生まれるものだ。

 つまり――?

 リリーの浄化が中途半端だったために、彼女たちはボスキャラも倒さずにこの場を撤退したということだ!


(あ……、あまりにも仕事が雑すぎるのでは……!?)


 実際のところ、リリーは自分の浄化が完璧だったと思い、なんなら浄化が完璧すぎてボスモンスターが出ないほどに浄化したのだと満足して帰っていった。

 それが――まさか自分が実力不足で、浄化しきれていないが故にボスが出てこなかった可能性など微塵みじんも考えずに。


 そんな事情を知らないチェリエがこの状況に呆気に取られているなか、サリュートは胸元に手を忍ばせると、そこから出したひと枝をぷすりと地面に突き刺す。


 ――桃の花だ。


 枝先に鮮やかなピンクの花を咲かせた枝を地面に挿したサリュートは、その手元からまばゆい光を溢れさせると、光と共に土の中から一振りの剣を引き抜いた。


(――花創かそう天剣てんけんだわ)


 原作でも、サリュートにしか使うことのできなかったスキル。

 金属で生成された剣に花魔法でバフをかけるのではなく、植物そのものを剣に変える、最強の剣だ。

 枝の名残を思わせる柄には、小さな桃の花が小さく咲いている。


 サリュートが剣を振るうと、周囲の植物を傷つけることなく、瘴気に塗れた黒豹から血飛沫に似た瘴気があふれた。


 桃の花の花言葉は『天下無敵』。


 文字通り、その刃から放たれる斬撃は、地上にあるどの剣よりも鋭く重い。

 チェリエがサリュートの流れるような剣舞に魅了されている間に、あっという間に瘴気花から生まれたボスキャラの黒豹は一刀両断され、無惨にも黒霧となって散ってしまった。


 細くてしなやかな体と、その腕から繰り出される美しい剣技。

 動きに合わせてふわりと舞う金髪。


 ボスキャラを倒したサリュートが儚げな横顔をこちらに向けると、手のひらの剣が天に解き放たれるように花びらに姿を変え、空に溶けるように消えていった。


 サリュートの美麗さと合い混じって、その一連の光景はまるで、映画のワンシーンでも見ているような夢のような一コマだった。


「大丈夫? チェリエ」


 くるりと振り向いたサリュートが、チェリエを案じて近寄ってくる。

 そこでようやく、一瞬サリュートに見とれていたチェリエは、「だ……大丈夫です」と言ってサリュートに答える。


(……い、いけない。サリュート様があまりに格好良すぎて、一瞬呆けてしまったわ……)


 それくらい、チェリエが目にした光景は彼女の心をときめかせるものだった。

 自分の意思とは裏腹に激しく脈打ち出した胸の動悸をチェリエが抑えていると、近づいてきたサリュートが、


「……大丈夫です、じゃないでしょ」


 と言って、むすっとした表情になってチェリエの頬を摘んできた。


「さ……、さりゅーとさま……」

「サリュート様、じゃないでしょ。全然危険じゃん。どうしてこんなとこ、僕をおいて一人でこようとしたの」

「ご……ごめんなさい……」


 今まではこんなことなかったのだ、と説明しようとしたところで、結局今回危険な状況になってしまった以上は何の言い訳にもならない。

 チェリエ自身、むしろ今日サリュートが一緒にいてくれて本当によかったと心底思っていたので、頬を摘んでくるサリュートに、ただ素直に謝ることしかできなかった。


「今度から、あのゴミカスの後始末をしにくるときは、絶対に一人で来ないこと。必ず僕に声をかけること。わかった?」

「わ……、わかりました……」


 チェリエが、つままれたままの頬を離してほしいと両手を掲げながら了承の言葉を告げると、サリュートは「よし」と満足したようにチェリエの頬から手を離した。


 それから、心底ほっとしたように、チェリエをぎゅっと抱きしめる。


「本当によかった――。何事もなくて」


 そう言って抱きしめてくるサリュートからはいやらしさや下心は全く感じられず、チェリエは彼が自分を心底案じてくれていたのだと思った。


 そうやって自分を案じてくれる人がいることに、心がじわりと暖かくなるのを感じながら、チェリエもそっとサリュートの背中に手を伸ばし、


「サリュート様も。怪我がなくてよかったです」


 と互いに労わりあった。

 ――人から抱きしめられたのなんていつぶりだろう?

 久方ぶりに感じた人の温もりに、チェリエは少しだけ、泣きそうな気持ちになった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ