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第24話 チェリエはまたどうせ行くんだよね



「……で、チェリエはまたどうせ行くんだよね」


 その日の放課後。

 授業を終えて帰る準備をしていたチェリエに向かって、学園ではいまだリュートの格好を保ったままのサリュートが脈絡もなくそう告げてきた。


「……どうしてわかるんですか……?」

「わからないわけないでしょ」


 チェリエが半ば途方に暮れながらそう告げると、サリュートは当然と言った様子で返してくる。

 サリュートの言った『またどうせ行くんだよね』というのは、『リリーの尻拭きをしに行くんだよね』という意味だ。

 なぜならば今日、リリーが花継ぎの乙女の任務で西の森に発生した瘴気を浄化しに行くという話をサリュートも聞いていたからだ。


 先日の奉花台の手直し以外にも、チェリエは以前から人知れず彼女の業務の様々なフォローをひっそりと行っていた。

 最初のうちはリリーがちゃんと責務を全うできるよう、さりげなく忠告をするだけにとどめていたのだが。


『ひどいですっ! チェリエ様は、婚約者のレイス様を私に取られたから、私に嫉妬してわざとそんなことを言ってるんじゃないですかっ!?』


 と、ある日リリーから逆上されたことで、あまり表立って忠告することもできなくなってしまったのだ。


 その後も花魔法の知識を一向に覚えようとせず、めちゃくちゃな仕事で花継ぎの仕事をこなそうとしていたリリーに、とうとうチェリエは忠告することを諦めてさりげなくフォローをする、という手段を取るようになった。


 それはそれで、後からバレたらまたリリーから『嫌がらせですかっ!? コソコソフォローしながら馬鹿にするとか、卑怯じゃないですかっ!?』などと言われるかも知れないと思ったが、だからといって放置するわけにもいかない。


 こうしてチェリエは、誰に告げることなくリリーの仕事の尻拭いに日々奔走しているわけである。


「――僕も行くよ」


 そう言い出したサリュートに、チェリエは予感が的中してしまったことに表情を曇らせた。


(『どうせまた行くんだよね』と言われた時から、そんな予感はしていたけれど)


 チェリエがリリーの浄化の後始末をしに行くと知ったら、十中八九『僕も行く』とサリュートが言い出すだろうなと思っていた。


 だからこそ今日は本当は、用事があるという理由を言い訳にして、一人で帰ろうと思っていたのに。


「リュート様。お気持ちはありがたいのですが。瘴気の浄化は奉花とは違って、危険がないとも言い切れませんし……」


 一国の王子を連れていって、危険にさらすわけには――と思うチェリエの言葉を、


「だったらなおさら、女の子一人で行かせられるわけないでしょ」


 とあっさりと制される。


「チェリエは僕が、女の子が一人で危ないところに行くと知って『はいそうですか』っていうような甲斐性なしだと思ってたの?」

「そうではありませんけど……」


 チェリエがサリュートに向かって『解消なし』などと、言えるわけがない。

 レイスから婚約破棄されたところを助けてもらって、なおかつ自分の次の目標と仕事まで与えてくれた彼に、どうしてそんなことを言えるだろう?

 そう思いながらチェリエが困っていると、それを機と見たのかサリュートが畳み掛けるように続けてくる。


「それにどうせ、ほとんどの危険な魔物は花籠の騎士に倒されてる後なんだから、そんなに危険はないんでしょう? だったら僕のことは、雇用主が雇用人の実力を見聞するためについていく上司くらいに思ってくれていいよ」


 ね?

 と、チェリエに念押ししてくるサリュートに、チェリエは結局、断り切ることができなかった。




 ――数時後。


 サリュートを伴ったチェリエは、リリーが浄化しにやってきたはずの西の森を訪れていた。

 森の入り口にたどり着いたチェリエは、注意深く周囲に人の気配がないことを見ると、さっとポケットに手を突っ込み中から小さな小瓶を取り出した。


「リュート様、これを」


 そう言って、小瓶の中の液体をサリュートに口にするように手で示す。

 示した後――、仮にも王子に、中身が何かもわからない怪しげなものを毒味もなしに飲ませるのも失礼かと思って、先に自分で半分ほど口に含んでみせた。


「これは、シャクヤクとスミレのエキスをブレンドしてポーションにしたものです。これを飲むと他の生き物からしばらくの間存在を認識されにくくなります」


 シャクヤクの花言葉は『はじらい』。

 スミレの花言葉は『謙虚』。

 二つの花言葉をブレンドし、ポーションを作ることで、隠密効果のあるエキスができるのだ。


 チェリエはサリュートにそう説明した後、「体に害はないものなので」と言いながらサリュートに差し出す。

 サリュートは、その手渡された小瓶を見つめて、少しの間動きを止めた。

 先ほど――彼女が口をつけたばかりの小瓶の飲み口をまじまじと見て、チェリエをちらりと見る。

 しかし、チェリエが次の準備に夢中で、自分が気にしている事案を気に求めていないということを見て取ると、どこかはじらうような、しかし微かに嬉しそうな表情になって自分もくいっとあおった。


 ――するとその時、ちょうど森の奥の方から誰かがやってくる声が聞こえた。


 女性の声が一つと、男性の声が二つ。

 ちょうど、浄化を終えて戻ってきたリリーたちである。


「リュート様、こっちに」


 リリーたちに気づかれる前に、チェリエはサリュートの腕をひっぱり、近くの茂みに身を隠す。

 そうしてリリーたちから見えない位置に身を潜めると、チェリエは引っ張ったサリュートの片腕を抱き込んだまま、彼女たちが立ち去るのを気配を殺してじっと待った。




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