第23話 【リリー視点】この状態からトゥルーエンドに行けるの?
「いやいや、名乗るようなほどの者でも」
あははと笑う店主に、リリーは警戒を緩めない。
(……どういうこと? 運営側の人間ってこと? ……でも確かに、街中に何気なくある店とかじゃなく、ステータス画面から突然ここに出現できるってことは、間違いなく運営サイドの人間ってことだわ)
「あなた、私がこの世界にどうして転生させられたかとかも知ってるの?」
「転生? はて、なんのことでしょう? 私はただここで、店番をしているだけのしがない店主ですので」
――なるほど。
リリーの言葉にそらっとぼける様子を見せる店主は、どうやら正直に答えるつもりはないらしい。
――それならそれでいい。
別にリリーも、本当にこの世界に転生させられた理由を知りたくて聞いたわけではなかった。
それよりも、今リリーが必要としているのは、店主も言ったようにどうにかしてトゥルーエンドにたどり着く方法だ。
「どうやったら、この状態からトゥルーエンドに行けるのか、方法を知ってる?」
リリーの店主に対する口調は、いつの間にか相手を敬うものでなく、ゲームシステムとでも会話をするような気安いものに変わっている。
「いや〜……、まあ、普通の状況であれば、このまま選択肢を一度も間違わずにいけばギリギリ到達点に行けるとは思いますが」
――普通の状況であれば。
――選択肢を一度も間違わずにいけば。
単純に聞けば店主の言葉は希望がありそうな発言に聴こえるが、リリーからしてみるとリスクがありまくりの状況だとしか思えなかった。
(それってつまり、選択肢を一度でも間違えればトゥルーエンドにならないし、なんなら普通の状況じゃなくなりかけてる今、どこまで信用できるかわからないってことじゃない)
ノーマルモードだと、チェリエの断罪シーンで普通サリュートが出てくることなどないのだ。
それはすなわち、今が普通の状況ではないと言っているも同然だ。
「……なんか、攻略ブックとかないんです?」
「そういうの、うちでは用意してないんですよねえ」
――まあそもそも、人生に攻略本なんて存在しませんしね、あっはっは。
そう言って人を喰ったように笑う店主に、リリーがヒロインにあるまじき凶悪な顔でぎりりと怒りを募らせると、しかし店主はその後にがらりと表情を変えてまた人の悪そうな笑みを浮かべながらリリーにこう言った。
「だけど、お客さんの役に立ちそうなものなら、まだいくつかご紹介できそうですよ?」
――と。
◇◆◇
リリーが瞬きをして再び目を開くと、そこは元いた花継ぎの正殿の石板の前だった。
(――どうやら、無事に戻ってきたみたいね)
リリーにとっては、少しの間この場から離れていた感覚なのだが、周囲の人間は特にリリーを訝しむ様子もない。
それもそのはず。
周囲の人間からすると、リリーがショップに滞在している間も、ただ彼女がその場に立ってステータス画面に触れているようにしか見えなかったからだ。
しかし、リリーの服のポケットの中には、確かにショップで購入したアイテムが入っていた。
それはまさしく、彼女がこの数秒の間に、ショップでの買い物を果たしたことに他ならない。
ポケットの中身を確認したリリーは間違いなく自分が目的を達成したことに満足すると、石板のステータス画面を閉じて帰路に着くべく花継ぎの正殿を後にした。




