第22話 【リリー視点】ようこそ! 隠しショップへ!
(はああああっ!? 全員の好感度が、めちゃくちゃ落ちてるじゃない……!)
レイス、ギーク、ティエル。
好感度がカンストしてMAXまで行っていた三人の数値が、今や3分の2近くまで下がってしまっている。
(ちょっと! なんでよ! 私別に、そんな変なことしてないじゃない!)
そう思いながら画面を睨みつけていると、その下の方に今までなかった新しい情報が増えていることにリリーは気づいた。
――サリュート・トリギア。好感度、0。
(はあっ!?)
その数字を目にして、リリーは本日2回目の『はあっ!?』を心の中で撃ち放った。
(好感度、0!?!?)
これまで、どの攻略対象者もスタートからこんなにひどい数字だったことはない。
サリュートがステータス画面に上がってきたということは攻略対象としてピックアップされたということで、それはそれで喜ばしいことではあるが、そこに記載された数字にリリーは到底喜ぶことなどできなかった。
――まずい。
サリュートの数字もあり得ないが、それ以外の攻略対象者たちの数字もあり得ない。
(あと2ヶ月でゲームの山場が来るのに。この数字じゃ、ハーレムエンドどころかトゥルーエンドにもならないかも……!)
まずい、とリリーは思った。
実のところ、リリーはこのゲームを前世であまりやりこんでいない。
やりこんでいないどころか、チュートリアルをちょっと過ぎたくらいまでプレイして、その後は実況動画でレイスルートのあらすじをさらったくらいである。
なので、レイスルートのなんとなくの攻略の仕方と、この先ヒロインがどんな展開を迎えるのかは知っている。
リリーがレイスルートを主軸に選んだのもそんな理由で、かつ、レイスルートのみ玉の輿エンドになるというのも理由の一つだった。
ただし、その前にヒロインには一つ、大きな山場が待ち受けているのだが。
――その山場を無事乗り越えられなければ、自分は終わってしまう――。
焦ったリリーは思った。
これはもう、課金アイテムを買って使うしかないと。
【花継ぎの乙女】はスマホゲームではなくコンシューマーゲーム、いわゆるP●Pとか●withとかの据置き本体を使ってやるタイプのゲームなので、本来課金要素というのは存在しない。
しかしリリーはある日、何気なくこのステータス画面をいじっている時に見つけたのだ。
ステータス画面の何もない場所に、隠れるようにひっそりと押せるボタンがあることを。
そしてそこを押すと、毒々しいハートマークと共に、『ようこそ! 隠しショップへ!』というポップアップウィンドウが立ち上がることを。
以前にもこのショップで買い物をしたことがあるリリーは、ここがどんなところかは既に知っている。
リリーは――、迷うことなくそのボタンをポチりと押下した。
課金アイテムを購入して、この局面を打破するために。
◇◆◇
「いらっしゃいませ――、おや」
薄暗い怪しげな店の中、カウンターの中で暇そうに商品らしきものを磨いていた男は、現れた珍客に声を上げた。
そこに姿を現したのは、当然、いわずもがな、花継ぎの乙女リリーである。
リリーは、店内にいる男を目に留めた瞬間、ロクに挨拶もすることなく開口一番クレームを言い放った。
「ちょっと! どうなってるんですかっ!? 前にここで買った好感度アップポーション、効果が無くなっちゃったんですけどっ!」
グレーの紳士帽に真っ黒なサングラス。そして蓄えた髭。
その下に深緑のエプロンをつけた店主は、おそらく40代から50代後半のように見えるが、髭を取ったらもしかしたらもっと若いのかもしれない。
年齢不詳な男は、リリーがブーブーいいながらその空間に現れたのを、驚いた様子もなく慣れた様子で対応した。
「いやいや、お客さま。効果が無くなることなんてあり得ませんよ」
「でも、現に使った相手の好感度が減ってるんですよ!?」
「それは単に、お客さまが相手の好感度を下げる行動を取ったから下がっただけでしょう」
不満げに訴えてくるリリーに、店主はあっさりと答える。
「お客さまに前にお売りした好感度アップポーションは、あくまで好感度の上昇率を高くするだけのもので、永続的に効果を持続するものではありませんから」
「え……ええっ……?」
にこやかに穏やかに伝える店主の言葉に、リリーは眉根を寄せる。
「だ……、だったらそういうことは、買う時に言ってくださいよっ……!」
「言いましたよ? それに、ポーションの瓶にもちゃんと説明書きが載ってます。ちゃんと聞かず、説明書きも読まなかったのはお客さんのほうです」
「…………」
怒るでも不機嫌になるでもなく、淡々と事実を伝える店主に、リリーは二の句がつげなくなる。
確かに――、そう言われてみれば言われたような気もする。
『好感度アップのタイミングの直前に飲ませると効果が高いですよ』と言われ、当時リリーはその通りにしたのだ。
「じゃ……じゃあ、またそのポーションを売ってください」
「いやあそれが……、申し訳ないんですけど、お売りできないんですよ」
「はあっっ!?」
言葉通り、申し訳なさそうに後ろ頭をかきながらリリーにそう告げてくる店主に、リリーは本日3回目の『はあっ!?』を披露した。
「ここ最近、材料不足でですね。こないだお客さんにお売りしたのが最後で、ただいま絶賛品切れ中なんです」
「……ええ、嘘でしょ……?」
目当ての物の取り扱いがないという事実にリリーは絶望する。
どうすればいいというのだ。
リリーに残された時間は後わずかしかないというのに。
それまでにはたして、トゥルーエンドに必要な好感度まで上げられるか――。
「……お嬢さん、時間がなくてお困りなんですか?」
「……ええ、まあ……」
リリーの言葉に、店主は「ふうん……」とにやにやと相槌を打つ。
そんな、他人事を楽しんでいるような店主の様子に苛立ちを感じていたリリーだったが、その感情も、店主から発せられた継ぎの言葉でぴたりと止まった。
「――ちなみに、好感度は今どれくらいなんですか?」
(…………え?)
――好感度?
聞き捨てならない単語が目の前の相手から飛び出てきたことに、リリーは目を見張らせる。
「……3人とも、3分の2くらいですけど……」
「じゃあまだ、頑張ればギリギリなんとかなるんじゃないですか?」
――頑張れば、ギリギリなんとかなる?
あえて問い返さずともそれが、トゥルーエンドに届くか否かのことを言っているのだとリリーは理解する。
理解して――。
「……あなた、何者?」
と。
リリーは店主に尋ねた。




