第3話「イブと報告」①
テーブルの上に置かれたアルバムに手を伸ばす。
付箋には『奏へ』と書かれた、セナ君の字。
「付箋外すの……もったいないな」
『Echo』に収録されている、私が作った曲は……
『夏灯花火』
『Éternité』
『Only』
『Prisoner』
今日、そのアルバムが発売された。
どの曲も思い出深くて、私の大切な宝物。
セナ君と出会ったあの日。
こんなふうに自分の曲が手元に届く日が来るなんて想像もできなかった。
いつか、この1枚を全部、自分の曲で埋めてみたい……
そんな夢みたいなことを思いながら、膝を抱えてアルバムを見つめていると、さっきまでバラエティ番組だったのに、いつの間にかMステのスペシャルが始まっていた。
「……!」
画面に映る『スターライトパレード』の文字。
思わず息を呑む。
見慣れた7人の姿。
《スターライトパレード 最新アルバム発売記念スペシャルメドレー》
……1曲目は『Only』。
センターは怜央さん。
久しぶりに見るパフォーマンス。
普段は冷静で、どこか抑えた表情の彼が、まっすぐ、たった一人に向けるように歌う。
言葉じゃなく、感情で、伝えてくる。
Only you, Only one……
音が、刺さる。
歌が、震える。
こんなふうに歌ってくれるなんて……
彼のセンターで良かったと、心から思った。
続く2曲目は『Éternité』。
今度はセナ君がセンター。
白いライトに包まれて、まるで夢の中のような光景。
軽やかで、美しくて、ちょっとだけ意地悪そうな笑み。
それだけで、全部持っていかれる。
わかってる。
ずるいって思っても、目が離せない。
……私がいちばん、彼のファンだから。
アルバムをぎゅっと抱きしめる手に力が込められる。
この手の中の1枚と、画面の向こうの煌めきが同じだと思うと、胸が締め付けられる。
余韻に浸りたくて、アルバムを抱きしめながらソファに横たわる。
今は学校と受験を頑張るって決めた。
……けれど、たくさんのメロディーが頭の中に浮かんできて、やるせない気持ちになることがある。
「……何泣いてんだよ」
「えっ、あ……おかえりなさい……!」
低い声が響いて振り返ると、マスクを外しかけたセナ君が、驚いたように立っていた。
玄関の開く音に気が付かないくらい浸っていたなんて……
「まさか、泣くほど刺さってたとは思わなかったわ……」
「な、泣いてないもん……っ」
「『Only』じゃなくて、『Éternité』で泣くのも謎だし」
「いぢわる!なんなら、どっちでも泣けるけど!?」
呆れたように笑いながら、すぐ隣に来て、ソファに座ったままの私の頭をくしゃっと撫でられる。
それだけで、さっきまでの不安が軽くなってくる。
「TV観た?」
「……うん。すてきだった。すっごく」
髪に触れた手は、そのまま。
ゆっくり滑るように、毛先を撫でられる。
「そっか。……じゃあもう一回見よっか。オレんとこだけ」
「えぇ!?そこだけ!?!」
「当然じゃん。自分のとこ褒められたいやつ」
どこまでも自信満々で、子どもみたいな笑顔。
なのに、画面の中の彼はあんなにアイドルとして完璧だった。
……そのギャップが、ずるい。
でも、きっと今日いちばん安心できた顔。
夜がふたりを包むように、柔らかく静かに更けていく。
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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