第8話「SUGAR GAME」③
夜、セナ君が大きな紙袋を抱えて帰宅する。
「合格おめでと」
「ありがとう」
「ん。合格祝い」
「…合格祝い…?」
袋を受け取って中をのぞく。
銀色のリンゴマークが、ライトに反射してきらりと光った。
「……え、これって?」
「ん。MacBook Pro」
「ちょっと待って!私、自宅にあるよ!?パパからもらったやつ!」
「知ってる。でもこれはうち用」
混乱する私なんて意にも介さず、上着を脱いでソファに座る。
「これでいつでもここで作業できんだろ?」
「……でも、絶対高いでしょ?」
「お前が来る回数増えるなら実質無料」
メチャクチャどや顔してるけど……
本気なのか冗談なのか分からないけれど、その満足げな笑顔を見ていると、何も言い返せなくなってしまう。
「かけます!」
聴いてもらう前から、胸の奥がふわっと弾んでいるのがわかる。
みんなに、スターライトパレードに歌って欲しいキャッチーな曲。
耳に残って、一度聴いたら口ずさみたくなる曲。
覚えやすくて、忘れられないようなメロディーや歌詞。
絶対に失敗できない。私が失敗なんてさせない。
スターライトパレードに歌ってほしい曲……
タイトルは『SUGAR GAME』
とびっくり甘くて、聴いたファンのみんなが笑顔になれるような。
イントロの軽やかなカッティングで部屋が明るくなる。
スネアが小気味よく跳ね、ベースラインが楽しげに転がる。
「おっ、なんかもう楽しい」
真央君がリズムに合わせて肩を揺らす。
Aメロが始まると、蓮君もつられて足でリズムを刻みながら口ずさみ始めた。
Bメロでは二人で視線を交わしてニヤッと笑い、「これ絶対サビで跳ぶやつじゃん」と小声で盛り上がっている。
そして……サビ。
真央君が「ほら来た!」と言わんばかりに立ち上がり、蓮君も一緒に両手を上げてステップを踏む。
「お前ら、まだ振り付け決まってねーから」
セナ君が笑いながらも、足先で軽くビートを刻んでいるのを私は見逃さなかった。
その様子に、振付担当が笑いながら言った。
「サビ頭でその動き入れるのアリだな。これ、客席が勝手に踊り出すやつ」
信さんが笑い、遊里君が
「ボクもう覚えちゃった~~」
と言って小さく踊ってみせる。
曲が終わる前から、部屋の空気は完全に『やる気モード』だった。
マーケティング担当がにやっとして、「これ、MVでお菓子持たせたい!」と早くも案を出す。
曲が止まった瞬間、セナ君がぽつりと口にする。
「これ、やる側も楽しいやつだな」
その顔は、完全に次のライブを想像している顔だった。
プロデューサーも笑いながら頷く。
「うん、これで行こう。イメージぴったりだ」
「ありがとうございます!嬉しいです」
『SUGAR GAME』の余韻がまだ空気に残る中、私は……この曲がステージでどう輝くのか、想像するだけで胸が高鳴っていた。
曲がOKになり、PCでEQを詰める。
ソファに座ったセナ君は、片耳だけイヤホンをつけて曲に合わせて口ずさんでいる。
メロディに合わせて軽く指先でリズムを刻みながら、何度もサビを繰り返していた。
少し鼻歌のような……そんな歌声を聴きながら……
「……攻略なんてできやしない、思うほど遠ざかる」
そこまで歌ったところで、ふっと笑い声がする。
「この、歌詞、オレのこと?」
「えっ……な、なにが?」
わざとらしく首を傾げて、私を抱えるように椅子に座る。
「全力でも敵わないとかさ。オレ以外いなくない?」
「……知らない」
再び画面に視線を戻すけれど、耳まで熱くなるのは止められなかった。
「ふーん」
短く言って、また曲に合わせて歌い始めるセナ君。
その声が、仮歌よりもしっくり曲に溶けていく。
「敵わないのは……オレの方」
私の肩にセナ君が顔をうずめて、少し……声を震わせるように続ける。
「……親のこととか。奏にオレは相応しくないんじゃないか、って考えたりした」
そんなの。むしろ私がいつも思っていることなのに……
こんなに格好良い人が、なんで私なんだろうって。でも、それでもそばにいたくて仕方なくて……
いっぱい遠回りもしちゃったけれど。
「……だって、出会っちゃったんだもん。恋……しちゃうよ」
顔を上げたセナ君と、少しだけ……目が合ってキスをする。
「うん。何度でも恋して。オレも何度でも好きになるから」
それは……まるで永遠を約束してるみたいで。
絡めた指を離すことも、キスを止めることもできなくて。
明日も明後日も、この先ずっと。
何度でもこの人に恋してしまう気がした。
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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