第8話「SUGAR GAME」②
夢中でキーボードに向かっていたら、LINEの着信で現実に引き戻される。
「はい、もしもし」
『……もしもし』
あれ、ちょっと不機嫌?
『ピアノ弾きたいって急いで帰ったから、オレんちかと思ったらいねーんだけど?』
「あ、うん。やっぱりアレンジとかもってなると自宅かな、って」
『やっぱ機材一式こっちにも買うか』
「えっ!?ダメだよ!」
バラエティ番組で見た、機材一式の金額が200万くらいだったと紹介されたのを思い出す。
何も言わないと、なんだか色々なところにお金を使わせてしまって、申し訳なくなる……
『わかった。ノートPCだけにする』
「……それ、何もわかってなくない??」
作曲に没頭していて、考えないようにしていた合格発表の日……
前日から1人でソワソワしている私を心配したセナ君が、家に呼んでくれた…けど…全然ソワソワは治まらない…
大丈夫、大丈夫……
白岩先生もあんなふうに褒めてくれたし、二次試験のあの拍手だって……あれは間違いなく私のためだった。
ママからは「受からなかったら、それは試験官が無能だと思いなさい」とまで言われて……
それでも……やっぱり怖い。
ママの声が頭をよぎる。
「不合格は許さないわ。その時は、今度こそフランスに行くのよ」
海外行きが嫌なわけじゃない。
でも、今はまだ、ここでやりたいことがある。
この場所で、音を作りたい。
だから、受からなきゃ。
発表5分前。
スマホを握る手のひらが、じんわり汗ばんでいく。
何度も更新ボタンを押しては、画面を閉じる。
あと数分で結果が出る、それだけのことなのに、時計の針がやけに重たい。
落ちた時の顔なんて、想像したくない。
でも、頭の片隅で勝手に浮かんでしまって、慌てて首を振る。
……大丈夫。やれることは全部やった。
そう言い聞かせながらも、胸の鼓動だけはどうにも制御できなかった。
発表まで、あと3分。
スマホを握る手のひらがじんわりと熱くなっていく。
さっきまで普通に会話していたのに、今は時計の秒針だけがやけに大きく響く。
「……緊張してんの?」
「……してない、つもり」
「つもり、ね」
セナ君は笑ってソファに深くもたれたまま、何気ない顔で視線はずっと私の手元を見ている。
……9:59。
数字がひとつ進むたび、胸の奥がぎゅっと縮まる。
秒針の音なんて聞こえないはずなのに、耳の奥でやけに響いている気がする。
……10:00。
深呼吸をひとつ。
指先で更新ボタンを押す。
読み込み中の丸いアイコンが、いつもより何倍もゆっくり回っているように見えた。
画面が切り替わり、並んだ数字の列。
あった。
受験番号が、はっきりとそこにある。
胸がきゅっと縮まった瞬間、隣で低く笑う声。
「おめでと」
「……ありがとう」
指先が小さく震えて、スマホを落としそうになる。
頭の中が真っ白になったあと、熱いものが一気に胸の奥からこみ上げてきた。
「よし、これで気兼ねなくうち来れるな」
「……え?」
「なんでもない」
口元だけで笑って、セナ君そのまま立ち上がって、ジャケットを羽織りながら、
「夜には帰るから、その時お祝いな」
ドアが閉まる音が響いたあと、残された私は、まだ胸の奥が温かいままソファに沈み込んだ。
合格の実感と、今夜のことを思って……また鼓動が少しだけ早くなる。
ママとパパ。学校と友達にも、合格の連絡をしないといけないのに。
安堵からか気が抜けてしまう。
これで、やっと心からスターライトパレードの曲に取り組めるんだ。
みんなの祝福の返事に、徐々に合格の実感が湧いて、胸がいっぱいになる。
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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