第1話「期待と変装」③
「昼間の話だけど」
帰宅したセナ君の言葉に、思わずドキリとする。
もちろん、セナ君が言っている昼間の話は、あのディズニーのこと。
期待し過ぎない……期待し過ぎない……
心の中で呪文のように唱える。
「お前、平日いつなら行けそうなの?」
「えっと。再来週の月曜なら、文化祭の代休で学校がお休みなの」
「じゃ、丸1日は難しいと思うけど、その日に合わせて八神さんにスケジュール合わせてもらうわ」
え……本当に本当???
「だ、大丈夫なの?その、騒ぎになったりしない?」
「ユーリとか、ちょいちょい行ってるからな……ま、なんとかなんだろ」
そんな軽いノリで……逆に不安になってしまう。
また、心の中で『期待し過ぎない』と呪文を唱える。
「ってかさ、お前、文化祭あんの?」
「あ、そうなの……!だから、その週末は来れないの……」
セナ君が手を顎に置きながら、少し拗ねたようにポツリと呟く。
「……やっぱ、行ったらマズイよな……」
「……絶対ダメ……」
「絶対?」
そのままの姿勢で、私の顔を上目遣いで覗き込んでくる。
でもダメなものはダメ。大騒ぎになっちゃうのはもちろんだけど……
そんなおねだりするような視線を向けられると、許可してしまいそうになり、思わず顔を背けてしまう。
「だって……絶対に女子全員セナ君を好きになっちゃう……」
「こんな可愛い彼女いて、余所見する余裕なんて無いんだけど?」
その言葉に、心臓がドクンと跳ねる。
いつもそう。私が不安そうなことを口にすると、すぐにちゃんと言葉で気持ちを伝えてくれる。
そうやって……いつでもセナ君は、甘い言葉で私の心を掻き乱してくるんだ。
ディズニーに行く約束の日。
午前中はみんなYouTubeの撮影だけらしく、指定されたスタジオに向かう。
大きな一軒家を貸切ったスタイリッシュなスタジオ。
外から見たら本当に普通の家なのに。中では色々な撮影が行われているなんて少し前の私なら想像もできなかった。
遊里君からは、事前に『スッピンで来てね〜』と個別でLINEで指定があったけど……
何のことか聞いても『当日のお楽しみ♪』とはぐらかされたまま。
「奏こっちこっちー」
遊里君に呼ばれると、広いリビングに入るなり、有名なファストファッションのロゴが大きく書かれた紙袋を渡される。
「ボクのだけど〜、新品だからあげる!あっちでこれに着替えてきて!」
「え、いいの?」
「もちろん!今日は『奏君』に変身してもらうから!軽く変装して、あとメイクもしてあげちゃう」
え???え???奏君て???
勢いに押されるように、促されるまま別室へ。
紙袋の中をそっと覗き込む。
中には、くすんだグレージュのオーバーサイズのパーカー、細身の黒スキニー、そして小さなタグがまだついたままのニット帽に、小ぶりなナイロン素材のカバンまで。
「……本当に、これ私が着ても大丈夫かな?」
パーカーは、今まであまり選んだことのないルーズなサイズ感。
パンツもぴたっとしていて、どこか『女の子』っぽさを削ぎ落とすようなシルエット。
でも、手に取ると生地は柔らかくて、遊里君がちゃんと考えて選んでくれたんだなってわかる。
そっと服を身につけて、鏡の前に立つ。
……あれ、思ったより悪くない、かも?
不思議と、すっと肩の力が抜けて、背筋が少しだけ伸びる気がした。
着替えを終えて部屋を出ると、遊里君が目を輝かせて駆け寄ってきた。
「わ~~!いい感じじゃん!……じゃ、座って?次は髪の毛まとめちゃおう」
椅子に腰を下ろすと、遊里君がテキパキと手を動かし始める。
高めの位置でまとめられた髪が、ふわっと浮いてお団子にされ、アメピンでしっかり固定されていく。
「ちょっとでも見えたら『女子感』出ちゃうからね。帽子で隠れるように、うまく収めるよ~」
遊里君の声はいつも明るくて安心できる。
でも今は、その手の動きにどこか『プロ』の集中力が宿っていて、思わずドキドキしてしまう。
「はい、じゃあメイクいきまーす」
ビューラーでまつ毛を軽く持ち上げ、アイラインは引かずに影を少しだけ。
眉はいつもより少し太めに、眉頭を濃く描かれて……
口元にはリップではなく、ほんのり色を消すようなベージュのパウダーをポンポンと乗せられる。
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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