第7話「試験と鐘」③
カシャッ。
スマホのシャッター音が響く。
「ばらしてやる!今撮った写真、週刊誌に売ってやる!!」
「……美鈴。お前も、この人の被害者だ」
「そんなことない!今すぐSNSに載せてやる!」
この人たちは……何も努力せず、セナ君を踏みにじることに躊躇がない。
「美鈴っ!」
「私は構いません」
「はぁ!?これが出回ったら……」
セナ君。私は大丈夫だよ。セナ君と一緒なら、なんだって乗り越えられる。
私に迷うことなんて一つもない。
「そんなのは、セナ君と結婚すれば解決です」
その言葉にを聞いたセナ君が、驚いた顔で私を見つめる。
「セナ君は、嫌?」
「……嫌なわけ、ない」
「じゃぁ、決まりだね」
バシッ。
床にカバンが叩きつけられる音で、セナ君のお母さんの方に目線を向ける
「っっっ!!どいつもこいつも!バカにして!!!」
「バカにしているのはどっちかしら」
振り返ると、ヒールの音を鳴らしながら、近付いてくるママの姿が。
「ママっ……」
「ロビーで待ってたのに……で、その頬は誰にやられたのかしら?」
お母さんを真っ直ぐに見据え、冷たく言い放つ。
「うちの奏に手を挙げて、ただで済むと思ってるの?
今通報されるか、引き下がるか……選びなさい」
「……なっ!?……~~~~!!!」
有無を言わせない声に、お母さんの顔が真っ赤になり、叩きつけた荷物を拾って背を向ける。
「あなた。さっき写真がどうとか言ってたわね。
スマホも寄こしなさい」
セナ君の妹さんは何も言わないお母さんを見て状況を察したのか、震える手でママにスマホを差し出されると、ママは受け取ったスマホをセナ君にそのまま渡し、話を続ける。
「次に目の前に現れたら、どうなるかわかってるわね」
その言葉を聞いて、ビクッとした後セナ君のお母さんは、さっきまでの勢いが嘘みたいな足取りで歩き出し、その後ろを妹さんは遅れるように追いかける。
「……母さん!」
セナ君のお母さんの足が止まり、肩がわずかに揺れた気がした。
セナ君の口から初めて『母さん』という言葉。
それがどんな意味があるのか。私には想像することしか出来なくて、涙が出そうになる
「身体には気を付けて。今までありがとう」
セナ君を子供のころから苦しめていた人でも……やっぱり普通の人で。
それでもセナ君に対する態度も吐いた言葉も、許すことはできなかった。
少しの安堵を感じていると、ママがこちらに向き直り、
「で?結婚がどうとか聞こえたけど、どういうことかしら?」
……ヤバい。ママには、セナ君とのことを何も話していなかった。
ママの目が一層眼光鋭く見える……
何も考えていなくて、黙ってしまう。
「ご無沙汰しています。改めまして、諏訪セナです。
……奏さんと、お付き合いしてます。真剣に、です。また今度、改めてご挨拶させてください」
「……チッ……やっぱり予想が当たったわ」
予想。って……?
頭を下げるセナ君を見て、ママの舌打ちと溜息が聞こえる
「奏が人前で弾けるようになったのは、あんたたちのおかげだそうね」
「それは、奏……さん自身の努力の結果です」
その答えに、ママが少しだけ微笑んだように見えた。
「今日の奏の演奏に免じて見逃すわ。認めたわけじゃないわよ」
ママがロビーへ向かう後ろ姿を見ながら、セナ君が大きく息を吐く。
「セナ君!お仕事は?」
「……いや、それより……お前、頬。マジで……ごめん」
「ううん、少しジンジンするくらい」
「ミミズ腫れになってる。痕残ったら……」
迷っている彼の手をそっと握る。
「大丈夫。だって……結婚、してくれるんでしょ?」
「……!けっ……え?本気……いや、したいけど……」
こんな顔を赤くしてうろたえるセナ君は初めてで……
いつもは格好良い人が、なんだか……凄い可愛いく思えて……
「ふふっ……慌てすぎ、じゃない?」
「奏!医務室に行くわよ」
「あ、はい!」
歩き出すママを追いかけようとした瞬間……
「奏」
振り向いた瞬間、掠めるように唇を奪われる。
「……ありがとな」
そう言って、瞬きをする間もなく……もう一度。
その背中を見送りながら、本当に、今すぐ結婚してもいいと本気で思えた。
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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