第6話「誕生日と卒業式」③
「え?誰?」
「……え?え?」
「卒業おめでと」
そう言いながらサングラスを外す仕草は、もうドラマのワンシーンみたい。
「え?本物?」
「奏……?え?何で?彼氏って本当だったの?」
「やば……顔面エグイんだけど……」
「スタイル二次元過ぎん……?」
あんなに来ちゃダメ。って言ったのに……友達以外の目もあるし……
仕事だっていっぱいなのに、それなのに調整して来てくれた気持ちが嬉しくて、思わず笑みが零れる。
「びっくりしたけど……嬉しい。ありがとう」
「奏、タクシー待たせてるから」
「え、あ……うん。あ、あの……みんなまたねっ!」
「奏と仲良くしてくれて、ありがとな」
足早にタクシーに乗り込むと、セナ君が運転手さんに行き先を告げる。
私のLINEには友達からのメッセージが一気に増える……
仲の良い子はもちろん、とりあえず連絡先を交換しただけの子からも。
「もう。来ちゃダメって言ったのに……」
「制服、見納めって思ったらさ」
なんて説明したら良いんだろう。なんて、返信に悩んでいる間にもどんどん通知が増え続ける。
「ガチ恋じゃないって証明できたろ?」
できた……できたけど。もうっ、そんな決め顔したって……もうっ!
セナ君の顔を見たら、怒る気なんて失せてしまう。
「ん。でさ、部屋取ってあるんだけど、どうする?」
部屋……って、このままタクシーで自宅に送ってくれるだけでは終わらないかも……
なんて、ちょっとは思っていたけど……
「お前、試験これからだし、またの機会でも……」
前回会えたのはセナ君のお誕生日で……1カ月ぶりで……
スーツのセナ君にもうずっとどきどきしてしまっていて。
早く抱きしめて欲しい。二人きりになりたい。
なんて、とてもじゃないけど口には出せず。
「行きたい」
……それだけ伝えるのが精いっぱいだった。
セナ君は私の態度で察してくれたのか、ふっと笑みを浮かべると、頭を軽く撫でてくれる。
その手が優し過ぎて、胸のどきどきが更に加速してしまう。
タクシーが静かにホテルの前に滑り込むと、ガラス張りのエントランスから、都会の喧騒とは別世界の静けさが流れ込んできた。
足を踏み入れた瞬間、ほのかに香るお香のような香りに、息が深くなる。
「……ここ、ホテル?」
「ずっと来てみたかったんだよな。ここ」
ロビーは天井が高く、黒と木目を基調にした和モダン。
柔らかな照明が落ち着きをつくり、静かな水音だけが響いている。
チェックインを終えると、スタッフが客室まで案内してくれた。
エレベーターが最上階付近で止まり、扉が開く。
柔らかなカーペットと間接照明が、非日常の空気を漂わせていた。
カードキーが差し込まれ、扉が開く……
「……ひろ……っ」
思わず声が裏返る。
一面の大きな窓の向こうに、東京のビル群と皇居の緑が広がる。
障子のような引き戸を開ければ、黒い石造りのビューバスがあって、その向こうにも同じ景色。
ベッドは私の部屋の倍はある大きさで、リビングは雑誌に出てくるみたい。
「すご……」
靴を脱ぐ間もなく、窓際へ歩き、景色を見て、ソファに腰を下ろしてみて、ベッドに手をついて、またバスルームを覗いて……
ソファに座ったセナ君に笑いながら呼び止められる。
「お前、そばいろよ」
「え、あ……ごめん!」
慌てて戻ろうとするけど、また別のドアが目に入り、つい足がそっちに向いてしまう。
伸びてきた手に捕まり、そのまま引き寄せられ、ソファの隣に座らされる。
「……おい」
「広すぎて落ち着かない……」
「じゃあ、ずっとここいろ」
逃げ道を塞ぐみたいに、腕を回され、ソファに並んで腰を落ち着けたる。
ノックの音と共に、スタッフがワゴンを押して入ってきた。
白いクロスの上には、小さく盛られた前菜、温かいスープ、色鮮やかな魚料理と肉料理。
次々に並べられるお料理に、グラスに注がれたスパークリングウォーターの気泡が、静かに弾けていた。
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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