第6話「誕生日と卒業式」①
2月4日、前日。
玄関を開けた瞬間、腕が伸びてきて、そのまま抱きしめられると、一か月ぶりの温もりに、心地良すぎて、足が地面にくっついたみたいに、玄関から動けなくなってしまう。
「ふふ……」
「なーに?」
「なんか、充電してるみたいだなって」
まだまだ充電が満タンになる気はしなくて、笑ってしまう。
「充電、溜まった?」
「……全然……」
「オレも」
笑い合って、軽く、深く、キスを何度も繰り返す。
「……っ」
「ダメだ。わり、先にベッド行きたい」
「でも……ご飯の用意してくれてたんじゃ……っ」
「こっちの方が大事」
いつまで経っても、この熱に抗える気がしない。
「奏、好きだ……好き……」
「……私も」
会えなかった時間を埋めるように、1ヶ月分の想いに身を任せ、息が苦しくなるくらい抱きしめ合う。
セナ君の誕生日のはずなのに、この時間を過ごせるなら、それだけで私の方が幸せな気がしてしまう。
「お誕生日、おめでとう」
日付が変わる直前、何とか起きてプレゼントを渡す。
「開けていい?」
「もちろん」
昨年と一昨年は曲をプレゼントした。
今年は、ずっと考えて……
「出た。USBメモリ。3個目」
「去年の曲、アレンジも完成させて、詞もちゃんと作ったの」
詞にも関わるようになってからは、草案を作って専門の人にアドバイスをもらいながら共作してきた。
でも、このセナ君のソロ曲だけは、どうしても全部自分で詞を書きたくて。
誕生日に合わせて、まるごと仕上げてきた。
セナ君はメガネをかけ、PCで再生しながら、小さく鼻歌のように口ずさむ。
それだけで、部屋の空気が変わった。
「これ、今歌ってやろうか?」
「え!?いいの!!?」
たとえ別々の空を歩いても
この胸の音は 君に届くよ
願いを繋いだこのメロディが
いつか迷う君の背を押すなら
そのときは 隣で笑っていたい
セナ君の声が、スピーカー越しではなく、目の前で、耳元で響く。
柔らかくて、深くて、少しざらついた感触が、胸の奥にまっすぐ届く。
触れられているみたいで、じんわり熱を持って、離れない。
一言ごとに景色が浮かぶみたいに、声に温度があった。
涙じゃ終われないこの気持ち
痛みさえも 愛せるくらいに
願い続けたこの想い
全部 君に贈るよ
肩に寄り添っていると、その声が、ダイレクトに耳をくすぐるように届いてくる。
「どう?」
「……ちょっとだけ音程外れてた」
「誤魔化せなかったか。お前、耳良過ぎ」
こんなの……独占できちゃうなんて、なんて贅沢なんだろう。
誕生日プレゼントをあげたつもりが、逆にもらってしまったような気になる。
「あ!YouTube!」
「ん?」
「お誕生日動画観たい!!」
「……いや、んなのいいって……」
「良くない!」
急いでスマホを持ってくると、セナ君に寄り添うように座りYoutubeを再生する。
全員:「セナくんお誕生日おめでとうございまーす!!」
柊真央:「23ちゃいになりましたー!」
諏訪セナ:「言い方キメェな、おい」
天野蓮:「可愛いじゃん」
諏訪セナ:「可愛くねぇよ」
井上信:「今日は現場の合間にですね、サプライズでケーキを用意しました」
柊真央:「ろうそく消す前にひと口ちょうだい」
諏訪セナ:「ダメだって!」
豊田遊里:「じゃあ僕が代わりに……」
諏訪セナ:「お前もだめ!」
椿翔平:「じゃあ早くろうそく吹き消して食おうぜ」
天野蓮:「細かいことはいいから、はい、ふー!」
柊真央:「おめでとー!」
豊田遊里:「これで何回目の誕生日を一緒に過ごしたんだっけ~?」
椿翔平:「初対面の時は遊里よりちっちゃかったのになぁ」
御影怜央:「ホントそれ。めちゃくちゃ可愛かったのに、こんなデカくなって……」
椿翔平:「この辺に、ちっちゃいころのセナの写真出しといてもらおうか」
諏訪セナ:「やめろやめろ」
井上信:「というわけで、この動画を見ている皆さん、セナがまた一つ大人になりました。おめでとうコメントよろしく!」
諏訪セナ:「……いやマジでとっくに大人なんだけど。今年も全力で頑張ります。」
全員:「ということで、23歳の諏訪セナをよろしくお願いしまーす!」
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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