第1話「期待と変装」②
週末、セナ君の家で過ごすようになってから、冷蔵庫には常に何種類かのデリのサラダや、カットされたフルーツ、ヨーグルトをセナ君が常備してくれるようになった。
見たこともないような可愛い瓶のドレッシングも、私が飽きないように和洋中……たくさん取り寄せてくれたり。
まさかここまでしてくれるとは思わず、正直戸惑ってしまう。
「お前が笑っていてくれるだけでいいんだって」
と、しょっちゅう言ってくれるけれど、底なしに甘やかされて、本当にその通りになってしまいそうで怖いくらい。
チキンが乗ったサラダを取り、テレビをつける。
確かロケで、セナ君と信さん、蓮君の3人でディズニーに行ったって話していたっけ。
小学生の時、ママとパパと行ったのが最後だったかもしれない。
画面が切り替わり、軽快な音楽とともに「スターライトパレードが行く!秋のハロウィン・ディズニーロケ」のテロップが現れる。
今はちょうどハロウィンのイベント特集で、ヴィランズが出てくるショーや限定のフードが紹介されている。
キャストさんの仮装に迎えられ、パークに足を踏み入れたセナ君たちが映った。
『テンション上がるな、コレ!』
そう言って真っ先に走り出す信さんの後を、蓮君が笑いながら追いかけていく。
セナ君はひとりだけ少し遅れて歩き出し、後ろを振り返るような仕草でカメラに向かって微笑んだ。
その笑顔が、ちょっとだけ私に向けられたような気がして、胸がふわっと温かくなる。
『最初にやって来たのは〜こちらのヴィランズ・パレード!』
レポーターの声が響き、画面はカラフルで不気味かわいいフロートと共に練り歩くキャラクターたちの映像に切り替わる。
夢を形にしたような世界観。
色も音楽も空気も。画面越しに観ているだけなのに、心が弾むようにワクワクさせられてしまう。
セナ君たちは、それぞれ仮装をイメージしたコーディネートで登場していて……
信さんは『アラジン』のジャファー風、蓮君は『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のジャック風、
セナ君はというと……『眠れる森の美女』のマレフィセントをモチーフにした、黒×深紫のジャケットスタイル。
「えぇぇぇ……何そのコーデ……」
思わず呟きながら口元が綻ぶ。
ステージショーの合間、仮装グッズを楽しそうに見たり、キャストと写真を撮ったりしている姿が映し出される。
『見てこれ、耳つけた!オレ似合ってね?』
とカメラに近づくセナ君の姿に、思わず吹き出してしまう。
信さんが「おまえ、似合ってるけどそれ『かわいくなっちゃう』系だぞ」と突っ込むと、
『マジか……じゃあお前もつけろよ』と返しながら、楽しげに笑うセナ君。
お仕事中なのに、こんなに自然に笑ってる。
まるで普通の男子みたいな顔をして……
それがちょっとだけ、羨ましくて、その場に入れないことがちょっとだけ、寂しい気がしてしまう。
……行ってみたいな。2人で、こういう場所。
テレビを見ながら、そっとサラダのフォークを握り直す。
番組を観ていると、みんなとのLINEグループが動く。
豊田遊里「ボクもディズニー行きたかった!!!次のオフ行っちゃう!!」
え、遊里君そんなノリでディズニー行っちゃうの??
騒ぎになっちゃわないのかな……
『いいな。楽しそう』
柊真央『3人で行こか!?』
何気なく混ざった会話に、真央君も乗ってくる。
え、いいのかな?アイドル2人とディズニーなんて……
諏訪セナ『オレも行く』
「嘘でしょ!!?」
まさか、今テレビの中でディズニーに行っている人が、『オレも行く』なんて言い出したことに思わずに、声が出てしまう。
セナ君とディズニーに行けちゃうの??そんな普通のデートみたいな?
きちんと恋人同士になってからは、ファンの目も週刊誌の目も怖くて、レコーディングやお仕事以外で会うのはほぼセナ君の家が二人の暗黙のルールになっていた。
私も受験と課題に追われているけど……セナ君の忙しさはこんな比ではなくて。
今日だって、朝8時には出て帰宅は深夜近くなのに、そんな時間が取れるのかすら……
きっと私を喜ばすための言葉かもしれない。
期待し過ぎると、もし行けなくてがっかりしてしまったら、きっとセナ君は気にしてしまう。
そう考えてはみるけれど、キーボードに向かうと、つい聞き覚えのあるディズニー映画の曲を弾いてしまったりして……
やばい。私、ちょっと浮かれてるかも……
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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