第5話「母と息子」②
「……!……!」
「………!!」
……TVの音?
普段は静かな部屋に、話し声が混じっている。
時計を見ると10時過ぎ。
「……!……!」
「………!!」
「!……」
……違う。TVじゃない。
セナ君と、女性の話し声だ。
一気に目が覚める。何も着ていないことに気づき、急いで部屋着を羽織った。
そっとドアに耳を近づける。
「……だから、金なら渡してるだろ」
「それじゃ足りないのよ」
「こんな良い所に住んでるのにケチ」
……何の話?
「そもそもなんで来んだよ……」
「こんな日でもないと捕まらないじゃない」
今まで聞いたことのない低く尖った声。只事じゃない。
「……あの……セナ君……」
「!……奏……わり、起こしたな。何でもないから部屋に……」
私を隠すように、戻るよう促す。
「えー?お兄ちゃん、彼女?」
「……え?妹さん?」
もう一人は……お母さん?
「セナ君、お母さんならご挨拶しないと……」
「……いや……」
困った顔のセナ君を押し切り、ソファの二人に頭を下げた。
「こんな格好ですみません。音羽奏と言います。ご挨拶が遅れましたが、セナ君にはいつもお世話になっています」
「セナ、お金出せないのはこの子のせいなの?」
……え?
「あなたも見た目に釣られてるだけでしょ?よくこんな気味の悪い色の男といれるわね」
気味が悪い……?
まさか、セナ君のこと?
柔らかくて綺麗な髪、私を見つめる優しい瞳。
気味が悪いなんて、一度だって思ったことない。
「それともお金目当て?稼いでるものね」
あまりの言葉に絶句する私に、
「……奏……わり。今日は帰ってもらっていい?」
青白い顔で絞り出され、言葉を失う。
寝室に入ると「着替え取ってくるから」とセナ君はすぐに部屋を出てしまう。
……あんな酷いことを言う人が、本当にお母さん?
「適当に選んだけど、これでいいか?」
「……うん。セナ君が買ってくれた服、どれも好きだよ?」
困ったように笑うその顔が、胸を締めつける。
着替え終える頃、リビングからピアノの音。
「……!!!あいつ……!」
「セナ君!待って……!」
追いかけると、
「美鈴!!触んな!!!」
「……セナ君!!私は大丈夫だから……」
「その子のなの?いいって言ってるじゃん」
必死でセナ君の腕を掴む。
「ねぇ、お兄ちゃん、美鈴にこのピアノちょうだい」
……いくら家族でも、勝手すぎる。
セナ君の肩から力が抜ける。
「同じの……買ってやるから、とりあえずそこ退け」
「ラッキー!」
「奏……マジでそろそろ……」
「……うん……」
玄関まで送ってくれたセナ君が、いつもより小さく見えた。
「また……こっちから連絡するから」
「うん。待ってるね」
頭を撫でられることも、キスもなく、玄関を出る。
ほんの数時間前まで初詣で腕を組んでいたのに……
でも今は、何よりもセナ君が心配だった。
マンションを出ると、元旦だからか街はしんと静まり返っていた。
冷たい空気が頬を刺す。駅へ向かう足取りは、なんだか少し重い。
……ほんの数時間前まで、初詣に行って。腕に抱かれて幸せだったのに。
なのに今は、胸の中にモヤのような不安が広がっている。
セナ君と知り合って二年以上。
もしかして、私の知らないところで、ずっとこんな思いを抱えてきたの……?
この半年はあんなに一緒にいたのに、何も気づけなかった自分が情けなかった。
「……そんなに、隠したかったの……?」
来た道を振り返る。
セナ君は『また連絡する』って言ってくれた。嘘じゃない、そう信じている。
でも……あの優しくて強い人を、一人にしてしまうのはやっぱり怖かった。
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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