第4話「クリスマスと初詣」③
大晦日の朝
目を開けたとき、隣はもう空っぽで、シーツには微かに温もりと香りが残っていた。
一緒に眠りについたはずなのに……いつ起きたの?と思うほど短い睡眠時間。
なのに、テレビの向こうのセナ君は完璧な笑顔で、疲れなんて欠片も見せない。
バラエティに歌番組、生配信、そしてカウコン。
その合間に「ちゃんと起きた?」「昨夜の続きはまた帰ってからな」なんてLINEが届くたび、画面の彼が急に近く感じる。
一緒にいなくても、ずっと隣で過ごしているような錯覚さえした。
……夜。
大型モニターに「Special Cover Medley」の文字が踊る。
客席がざわめき、次の瞬間、イントロが鳴り響いた。
……『Ignition』。
あの曲を、スターライトパレードが歌うの!?
ステージ中央に立つセナ君が、片手でマイクを回しながらゆっくりと前へ歩き出す。
低く吐き出すようなAメロ一声目で、空気が一変した。
あの日、G∀MEが見せつけてきた完成度を、軽々と超える熱と勢い。
怜央さんのラップが鋭く切り込み、信さんのコーラスが厚みを加える。
真央君と遊里君は最前列で刃物のように揃ったターンを決め、翔平さんは視線ひとつで客席を沸かせる。
炎柱が立ち昇るたび、銀のスパンコールが光を跳ね返した。
セナ君と怜央さんがすれ違いざまに拳を軽くぶつけ合い、次の瞬間、完璧なシンクロジャンプ。
鳥肌が立つ。息までピッタリなんて、何者なの。
ラスサビ前、全員が花道に散って観客へ向かう。
カメラがセナ君を抜いた瞬間、鋭い視線がレンズを貫いた。
一瞬で心臓を撃ち抜かれて、息をするのも忘れる。
「イグニッション!!」
全員の声が重なったラストのシャウトで、ステージが真っ白にフラッシュした。
歓声が天井を突き抜ける。
……圧巻の4分間だった。
その熱狂のまま、巨大スクリーンにカウントダウン用の時計が映し出される。
「まもなく……新しい年です!」
画面いっぱいに映る、大勢のアイドルが一斉に笑顔に切り替わる。
「10!」
「9!」
数字が進むたび、ステージも客席もペンライトが色とりどりに輝く。
セナ君は真央君の肩に腕を回し、怜央さんと翔平さんはカメラにピース。信さんと蓮君は手を振り続けていた。
「3!」
「2!」
「1……!!」
「ハッピーニューイヤー!!」
銀テープと紙吹雪が舞い上がり、照明を浴びて輝く。
さっきまでの火花が、今は祝福の光になって降り注いでいた。
……すごい。
「やばっ……!」
でも、余韻に浸っている時間はないことに気が付く。
リモコンでテレビを消し、スマホと小さなバッグを掴んでタクシーを呼んだ。
外は年越しの空気で少しだけ浮き立っている。
道路沿いの店からは笑い声、遠くで除夜の鐘……
でも頭の中は、さっきまで燃えていた『Ignition』と、これから向かう着物の着付けのことでいっぱいだった。
タクシーが神社の大きな鳥居の前に差しかかると、道路脇にスタッフらしき男性が立っている。
運転手さんが窓を開け、男性が名簿を手に近づき、何かを確認してくれる。
「……音羽奏様ですね。お待ちしておりました」
インカムに手を当て、「音羽様到着しました」と告げる声がかすかに聞こえた。
そのまま車は参道に入り、普段なら歩くはずの石畳をゆっくり進んでいく。
本殿の近くで停まると、別のスタッフが駆け寄ってきた。
「こちらです、どうぞ」
降りた瞬間から、夜の冷たい空気と、厳かな静けさに包まれた。
「奏!」
タクシーから降りた私に気がついたセナ君が駆け寄ってくる。
今日一日、ずっとTVに出ずっぱりだったはずなのに、全然疲れた様子を見せない。
ロングコートとマフラーがとても似合っていて、何度だって見惚れてしまう。
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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