第3話「イブと報告」②
ベッドに寝転びながら、他愛もない会話。
「そういえば……新曲はいつ発売なの?」
「……12月かな」
「そうなんだ。楽しみ」
「ん……でも、きびしーかも」
うつ伏せになったセナ君が寝返りを打ち、少し遠くを見ながら話を続ける。
「お前の曲、物語を感じさせるドラマチックな曲が多かったから……
それに比べたら、ちょっとインパクトに欠ける」
「……そっか」
私の曲じゃない。
こんなことは今後きっとたくさんある。
当然のことなのに、胸の奥が少しざわついてしまう。
「別に曲が悪いってわけじゃないけどな?
ていうかオレが下手なんだよ、きっと。歌ってても全然感情乗ってこねーし」
「そんなことないと思うよ。セナ君の歌、好きだもん」
そう返しても、彼は口を尖らせたまま天井を見て動かない。
セナ君の胸にそっと手を添え、寄り添うように身体を預ける。
「……お前の曲、また歌いてーな」
「……受験終わったら、また書くよ」
「うん」
ほんの少し拗ねた子どもみたいな声。
それでも、耳に届く心音はとても心地良くて。
また私の中で、新しいメロディーが生まれた気がした。
12月……新曲のリリース日当日。
結果は、セナ君の言った通りだった。
フィジカルの売り上げは、この2年間で最低。
SNSでも『雰囲気が変わった』『物足りない』なんて声がぽつぽつ。
ドラマとのタイアップもついていたのに。信さんは相当落ち込んでいたらしい。
だけど……
セナ君は、どこか冷静に受け止めていた。
発売したばかりなのに、歌番組に出ても違う曲とのメドレーだったり、そもそも別の楽曲を披露したり……
それでも全力でパフォーマンスするみんなは、やっぱり格好良くて。
そんな姿を見るたび、アレンジをもっとこうしたら……ああだったら。と考えてしまう。
でも私は、見ることしかできなくて、何もできない自分が、とても歯がゆかった。
みんなは年末の仕事が詰まり始め、私も学年末テストに受験の追い込みが本格化する。
毎週の1曲課題提出、聴音練習、和声や対位法、楽曲分析……
更に予備校での模試も追加された。
セナ君も連日0時を過ぎても帰れない日が続く。
そんな中でも、隙を見つけては電話やLINEをくれる。
その優しさだけで、頑張れる気がした。
『あーー、すげー会いてぇんだけど……』
「ね……」
『……クリスマス、来れそ?』
クリスマスイブは、友達とのお泊まり会が恒例。
今年も『そこだけはやろうね』と、みんなで話していた。
……でも、初めての、恋人がいるクリスマス。
「イブは今年も友達と、お泊まり会したいなって。ダメかな?」
『……いーけど」
やっぱり、彼氏を優先するべきかな。
一緒に過ごしたい気持ちは、もちろんある。
『オレも行きてーーーーー』
「えぇっ!?ダメだよ!?」
『……どうしても?全力でサンタやるけど?』
もう。なんでそんなに私の友達に混ざりたがるの……
そもそも女の子だけの集まりだし……
「だって……みんな私より可愛いし……」
街中には可愛い子がたくさんいて、その中でもさらにとびきり可愛い子や綺麗な人と、セナ君は毎日会っている。
こうやって会えない日も、本当は不安になったりもする。
「みんなもセナ君を見たら、絶対好きになっちゃう……」
いまだに、なんで私なんかを好きでいてくれるのかよくわからない。
だから、せめてプライベートの顔は、私だけに見せてほしい……
そう思う自分が、我ながら幼稚だと思うけど、『アイドルのセナ君』のほんの一部だけ、独り占めさせてほしいと願ってしまう。
『……それ、ヤキモチ妬いてくれてんの?』
「……そうかも」
これが……ヤキモチ。
セナ君を好きになって、誰かにときめくのも、誰かを独占したいと思ったのも初めて。
今日だって、明日だって、きっとセナ君はどんどん格好良くなる。
そう思うと私には、全然余裕なんてない。
『じゃ、クリスマスは来いよ。ヤキモチなんて必要ないってわからせてやるから』
「うん……楽しみにしてる」
『お、余裕だな。覚悟しろよ』
さっきまでの声と違う、少し艶っぽさを含んだ声色。
覚悟なんて、できてるようで、できてない。
会うたび、私の心は掻き乱されっぱなしなのだから。
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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