第1話「期待と変装」①
「おかえりなさい」
「ただいま」
私が金曜日に白岩先生のレッスン後、セナ君のおうちにお邪魔して、ピアノの練習をしつつ帰宅を待ち、そのまま一緒に週末を過ごすことが増えた。
週末と言っても、セナ君は土日も仕事があるから、一緒に過ごせる時間はほんの数時間だけれど。
それでも、金曜の夜から始まる短い週末は、私にとって何よりの楽しみ。
自分の家ももちろん居心地はいいけれど、セナ君のおうちのモダンな雰囲気も、とても落ち着く。
ソファの座り心地や、落ち着いた照明、窓からの景色まで、すべてが私を心地よく包み込んでくれる。
根を詰めてピアノや課題に取り組むより、適度に休憩や楽しみを設けて、メリハリをつけて勉強する方が、私には合っているみたい。
ただ……心配なのが、一緒にいる時間が増える分、スキンシップも増えてしまって……
セナ君の睡眠時間が、確実に削られていそうで。
「ライブで4時間踊って歌ってるのに比べたらヨユー」
少しでも私との時間を取ろうとしてくれてる気持ちは嬉しいけれど、やっぱり体調は心配になるけれど、セナ君はお構いなし。
「でもさ、奏と会った次の日はメイクノリ良いって言われんだけど」
私に抱きついたまま、上目遣いでそう言ってくる。
「何でだろうな?」
……何で?何でそんな楽しそうに言うの?
セナ君はアイドルという職業柄、定期的にクリニックに行くようなことは言っていたけれど…
それと、私に何か因果関係があるなんてこと……
「あ!」
まさか……
「ひょっとして、セナ君、置いてある私の基礎化粧品使ってる??」
「……くっくっくっ……マジでお前、可愛いのな」
あ……さっきお風呂に入ったばかりなのに……またキスされちゃう。
ちょっとしたことでスイッチが入るタイミングも、最近はわかってきて……
困る気持ちがほんの少し、でもそれ以上に嬉しい気持ちが勝ってしまう。
こうして、いつも夜の時間はあっという間に過ぎてしまう。
「奏、オレそろそろ出るから」
……え、もう行っちゃうの?
眼を開けることができずに、もぞもぞ動く私に優しい大きな手が、頭を撫でてくれる。
「帰り、遅いかもしれないから寝てていいからな」
……セナ君、4時間も寝てないんじゃ……
それなのに帰りも遅いなんて。
部屋から出ていこうとする背中を、慌てて追いかける。
「あ……あの……」
思わず服の裾を掴むけど、玄関に置いてある鏡に映る自分が、寝癖だらけの自分に気が付いてしまい、ヘアセットも完璧な目の前の格好良いセナ君を直視できなくなってしまう。
「どした?」
「……起きて待ってるから、お仕事頑張ってね」
そう言って、背伸びして行ってらっしゃいのキスをしようとしたけれど……
夜まで会えないと思うと、どうしてもキスしたくなってしまって……
つま先で立ってみたけれど、届くのはせいぜいセナ君の首筋くらい。
「……届かないから、かがんで欲しいかも」
きっと今、私の顔は真っ赤に違いない。
ほんの少しの間が開くと、ふわりとしたセナ君の香水の匂いが鼻をかすめるように、セナ君の方からキスをしてくれる。
「いい子でお留守番しててな」
お留守番って……私、もう18歳になったのに、いつまでも子ども扱いなんて。
それでも、セナ君が残してくれた残り香に包まれるように、玄関からしばらく動けなくなってしまった。
もぅぅぅ……なんで、朝からあんな破壊力なの……
起きたらご飯を食べて、課題をして……
なんて考えながらも、4時間しか寝ていないのは辛くて、もぞもぞとベッドに戻る。
課題もやって、ピアノもやらないと。
今日やることを考えながら、セナ君の匂いが残ってる布団に包まりながら、うつらうつらとまた夢の中に沈んでいく。
※本作はシリーズ作品です。
1巻から通して読んでいただくことで、登場人物たちの心情や関係性の変化がより伝わる構成になっています。
よろしければ、シリーズ一覧もあわせてご覧ください。
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