敵は明確な方が対処が楽でしょう?
帝都の別邸で、私と婚約者はのんびりとお茶を飲んでいる。
ここのところはちょっと頑張っていたので二人とも微妙に疲れているけれど、収穫はあったのでトントンといったところかしら。
「それで」
婚約者、リハルトが口を開く。
「君に言い寄ってきたのはどの家だった?」
「せっかちなお方ね。書面で纏めておきましたわ、後でご覧になって?
折角久しぶりに二人になれたのに、他の殿方の名前を私から聞きたい?」
そう言うと確かに、と笑った。
「あなたのほうこそ、撒き餌の結果は如何?
さぞかし豊作だったと思うのだけれど」
「それもまた書面だね。
何分大量過ぎて、都度都度書いていた癖にもう思い出せなくって」
私たちは公爵家同士で結婚する間柄。
リハルトの家は先代、つまり祖父母の世代に降嫁なされた姫君がいらっしゃった。
私の家は五世代ほど遡らないといけない。
皇族の血筋を外部で残しておくための装置なので、血はあまり薄まらないほうがいいとして結ばれた婚約なのだ。
けれど大人たちの思惑とは別で、私たちは良好な関係をきっちり作り上げていて、特別な想いも持ち合わせている。
だからこそ、邪魔されないように対策が必要だった。
皇族の血を欲するだけ、あるいは見栄えの良さのためだけに這い寄る有象無象を蹴散らすための。
私たちはこの二年間、貴族学園に通っていた。
コネクション作りや、顔見せ、学業としては望む授業を好きなだけ好きなように受けられる、成人前の総仕上げ。
そこで私たちは、女性とみればすぐ口説いてしまうような男性と、そんな婚約者に悩む女性を演じた。
裏では普段通りに手紙のやり取りや贈り物をしていたし、親たちには卒業式でネタバラシをするから見守っていて欲しいと説明もしていたけれど。
生徒の多くは私たちがそうして敵を炙り出そうとしていたことに気付いていなかった。
賢い人たちは分かっているけど程ほどに、とばかりに目配せをして距離を取ってくれていて、何なら敵だろう人物を手紙で教えてくれもした。
その中で、特に酷かった――私の立場になり替わろうとした令嬢と、リハルトの後釜に座ろうとした令息を炙り出すことに大成功し、私たちは卒業式のあとの卒業生だけのパーティーで全てを告白した。
そのうえで、私たちこの通り仲良しなので、恙無く結婚しますと宣言もしたわ。
その時の、内心敵と見做していた方々のぽかんとした顔の面白かったこと!
きちんとした社交のための人脈作りは別として平行していたし、その方々は分かってくださっていたから問題がない。
卒業後に説明のお手紙を改めて送ってみたら、そういう事だと思っていた、今後ともよろしく、と返ってきた。
もちろん建前の部分もあるとは思うけれど、今後の社交で取り戻せばいいだけの話。
それに、あちらとしても浮付いた家が分かってメリットだったと思うのよね。
だから一方的に借りを作ったとは思っていない。
忙しいのはこれからね。
こちらを舐めていた家とは付き合いを薄くするように調整するのも大仕事だわ。
せっかくリハルトと堂々と一緒にいられるようになったのに、ロマンスの欠片もない。
でも今忙しいほうが新婚生活には良いかしら?なんてね。
「君には苦労をかけたし、これからもかけてしまうけど。
二人で頑張っていこうね」
「当たり前よ。私たち、夫婦になるのだもの」
そうしてふっと二人で笑いあって、過ごすこの時間が一番何よりも尊い。
私はそんな風に思った。
大人たちから見ればこの二人も大概なんだけど子供が考えた精いっぱいと思って目を瞑ってる部分ある。
騙された子供たちもお前がしっかりしてればさぁ…みたいな扱い受けるけどやったことはやったことだから。




