絶対星政
この作品は、細かい心理描写等よりも、世界観や能力の設定に重きをおいています。
そのため、努力や成長を見守り感動したい方などには向いていません。
ストレスのかからない主人公最強系を読みたい方などはぜひ一度読んでみてください。
目の前には今にもぶつかりそうな車、運転手は寝ている。
普通の人ならば助からないと悟り身を硬直させるしかない状況。
だが俺は違う、ぶつかる寸前に車のフロントに身を乗り出し転がり衝撃を逃
がす、そしてアスファルトが迫ってくるときには体勢を立て直し手と膝をクッションにし無事に着地した。
「ふぅ…」
さすがに緊張からの解放でため息が漏れるが体はほぼ無傷だ。
そうしているうちに運転手が車から慌てた様子で降りてきた。
『大丈夫ですか⁉⁉』
「大丈夫だ。 だが俺以外なら死んでいたぞ」
『本当に申し訳ございません。』
「今回はもういい」
そのような話をしていると、道を挟んだ向かい側にいる人から怒声が聞こえてきた。
いや、それは怒声というより悲鳴に近かった。
思わず声のした方に振り向くと、 女の子が明らかに堅気ではないタイプの人ともめていた。
「あいつ…」
俺は道を渡りそのもめている人たちのところに近づいて行った。
「おい、お前何してる?」
『あっ、お兄ちゃんだ。やっほー』
「はぁ… で?」
『普通にナンパされたから、遊んでた』
「はぁ…」
『そんなため息ばっかりついてたら禿げるよ。そこのおじさんみたいに』
「俺は、そこのおっさんみたいに不潔じゃないから大丈夫だ」
〚おいてめぇら‼〛
そんな話をしていたのがよくなかったのか、やの付くおっさんが怒鳴り散らしてきた。
「あぁ、すまんな妹が迷惑をかけたみたいだ。じゃ」
「行くぞ」
『うん! じゃあねおじさん』
そう声をかけその場を立ち去ろうとしたとき。
〚てめぇらなめてんじゃねーぞ‼〛
その声とともに殴りかかってきたおっさん。さすがに喧嘩だけは場数を踏んでいるのか、躊躇のないそのパンチを、俺は片腕で捌き、相手の腕を上の方向にはね上げさせる。
そしてもう片方の手で顎に掌底を入れる。そのまま相手の腕をとり適当に投げ飛ばしておく。
『ヤダこわーい』
そんなことを抜かす妹にはデコピンをお見舞いしつつこの場を去ろうとする。
ふと、おっさんのほうに一瞬だけ視線を向ける。
そこには、手のひらにすっぽりと収まる、黒く細長い金属の塊。
滑らかな胴体にはわずかな光を反射する艶があり、
上部にはまっすぐ前を見据える小さな目のような突起が並ぶ。
その銃口が妹の方を向いていた。
「っチ!」
とっさに妹を胸に抱きかかえる。
バンッ!
その音が聞こえた瞬間、胸に激しい痛みが走った。
おっさんの方を振り返ると勝ち誇ったようなニタニタとした笑みを浮かべていた。
そのおっさんに素早く近づき、倒れているおっさんの首を踏み砕く。
おっさんは驚愕と困惑の二つの感情が合わさったような表情を浮かべ、その生涯の幕を閉じた。
「はぁ…はぁ…」
壁にもたれかかりそのままズルズルと座り込む、さすがに疲れた。
そこに妹が歩いてきた。
『さすがに死んじゃう?』
「見てわからないか? 致命傷だ。」
『ふふっ だよね…』
『言い残す言葉は?』
「…おれの部屋の本棚の奥に三番金庫のかぎがある。これからの家のごたごたで使え。」
『⁉⁉⁉』
妹は驚いた表情を浮かべつぶやいた。
『それって…』
「あとは任せたぞ」
『任せて、お兄ちゃん!』
「あぁ、じゃあな」
そして俺は目を閉じ意識を薄れさせていった。
『ズッ…』
意識を手放す瞬間そんな音が聞こえた気がした。
ふと目が覚める。
(ここは…どこだ?)
そんな疑問が頭に浮かぶが声を出そうとしても音が声として発声できない。
そこで気が付く、赤子になっている。さすがに疑問によって思考が止まる。
しかし慌てても仕方がない、まだ、ただの夢の可能性もある。死人が夢を見るとは思えないが可能性は残っている。
夢ならばそれでいい。だがもし転生しているのだとしたら生きなければいけない。
そこまで考えてふと思い出す。
(ここは地球か?)
前世の環境的に、オタク文化もなかなかに履修済みなのでそんな疑問が浮かんでくる。
とりあえずステータスと念じてみるか。そう思った瞬間。
ブゥオン
半透明のディスプレイが現れた。そこには
名前 ステラ
性別 男
年齢 0歳
職業 なし
身体性能 H
異能力 操作
(なるほど確定か…)
しかしそうなると確認しなければならないことがある。
まずは自身の社会的地位、魔力の有無、この世界の技術力だ。
この3つがわかれば付随して治安の良さや今後の人生設計にも役立つだろう。
(とりあえずは、魔力の有無からだな)
魔力が確認さえできたらこの世界は地球での、アニメやゲームの常識がある程度当てはまると確定させることができる。
(とりあえず瞑想だな。)
異世界での魔力もしくは魔法の使い方は、大体が自身の、身体の中の血液のような形で流れているか、体の中心で固まっているものを、なんとかして操作して使用することがほとんどだ。
そしてこの世界ではどうやら後者のようだ。
この中心にあるものがそうだろう場所的には鳩尾付近だろうか。
ちなみになぜわかったかというと、体を動かしたときにほんの少しだが、動きをアシストしているような力を感じたからだ。
とりあえず、この世界での魔力はただ存在するだけでも作用するエネルギーのようなものだと仮定しておこう。
その魔力を動かそうと意識すると存外、簡単に動かすことができた。
大体の創作物では、最初の動かせるようになるまでに結構な時間がかかる場合が一般的だったので少し驚いた。
(この世界ではこれが一般的なのかそれとも………… 異能力か?)
ステータスに乗っていた異能力の〈操作〉と言う文字、これが作用している可能性もある。
(もしそうならこの世界では異能力が重要な個性の可能性があるか…操作の異能力で何ができるか試してみるか。)
そして、1時間ほど試してみてわかったことは次のとおりだった。
・物質を操作することができる。
・自身と空間の魔力を操作できる。
・生物を操作することができる。
物質の操作は、質量によって疲労の度合いが変わるので、赤子である今の体では多様はできない。
魔力の操作は現状自身の魔力回復速度を早くする以外の使い道はあまりなく、せいぜいがすこし身体能力が上昇した気がする程度。
生物の操作は目に見えるところにいた小さな害虫を動かそうとしたらできた。しかし赤子であるはずの自分の指より小さい虫でも操作するのには大量の魔力を使用したので、現状は、人なんかには絶対に効果がないことがわかった。
総じて将来性に期待だが便利な異能力だと思う。
(次は環境の把握だが……操作の異能力を使って何とかならないか…)
(窓は…ある、反射するものは…無し、動く事は…できない、自分自身を操作することは…できるな………浮くか)
自分自身を浮かせて窓の外を覗くと、多種多様な人種、馬車が走る町並み、物理法則を明らかに無視している道具の数々、異世界そのものの景色だった。
しばらくの間その現実離れした光景に見入っていたが、本来の目的である治安の確認を行うことにする。
目につくところでは、技術的な発展は感じないが、活気があって賑わっていた。比較的治安も良さそうだ。そのまま少しの間観察を続けた。
(ん?あれは…)
目を向けると周りの人物より、明らかにみすぼらしい格好をした少年が必死の形相を浮かべて走っていた。それを追いかける数人の男たち、速さ自体は両者に差はあまりない、どころかまともな食事が取れているとは思えない少年のほうが少し早いくらいだ。しかし少年の方は走りづらそうだ。
走りにくそうにしている理由を観察していると、周りの人々が邪魔をしていることに気づく、それも通行をあからさまに遮るのではなく、ギリギリぶつからないくらいの場所に立ち、避けたらまた別の人が同じように邪魔をする。
協力しているのかと疑いたくなるくらい自然に少しずつ邪魔をし、それを周りもそれが当たり前で何も疑問に感じていないように見える。
そうこうしているうちに通行人に足を引っ掛けられ、転倒した少年を、追いかけていた男たちが囲む。
(おおかた、食べ物に困った貧民の子供が商店から盗みを働いたのか)
可愛そうだとは思うものの、今の自分にできることは流石にない(操作の異能力も届かなかった)し、そもそも正義の味方を気取っているわけでもないのでまた周囲の観察に戻ろうとしたときだった。
男たちに囲まれて見えなかった少年の周囲から、歓声が上がった。
男たちが興味をなくし去っていき、少年が見えるようになると…。
(治安が良いと言ったのは訂正しないといけないな)
そこには四肢や首がねじれている少年だったものが転がっていた。
(まさかあんなに簡単に命が消費される世界だとは……)
そんな事を考えていたら廊下から足音が聞こえてきた。俺は急いでベッドに戻り、何事もなかったかのように赤ん坊然とした体勢になり何者かが部屋に入ってくるのを待った。
ガチャ
そこに入ってきたのはまだ10代にも見えるような少女だった。
「ステラ、お腹すいたでしょ、ご飯よ。」
そう言ってその少女がおもむろに服をはだけさせ乳房押し付ける。
(そりゃそうだよな…)
しゃぶりつけということなのだろうが、もとが成人済みの男だったこともあり流石に抵抗がある。
しかし、お腹が減っている感覚があるのも確かなので今後のことも考え構わず吸い始める。赤ん坊になって性欲がなくなっている影響か、思ったより抵抗感を感じずに腹を満たすことができた。
これ以上お世話されるのは流石に羞恥心が勝るため、自主的にゲップをする。
「自分でゲップできて偉いわね〜」
そんなことを言ってくる母親らしき人物、どうやら結構な親バカのようだ。
そうこうしているうちに、赤ん坊の体だからか睡魔が襲ってきた。
「ステラ…おやすみ」
その言葉を聞き終える前に俺の意識は旅立った。
あれから早いもので一年が経過した。
ステータスの変化は年齢が1歳になり身体性能の欄がH→Gに変化した。
これは普通に歩けるようになったことで大幅な身体能力向上が認められたためだろう。
(しかし首も座ってないところから歩けるようなってやっと1段界の成長か…これはたった一段階の差でも天と地ほどの差があるな…)
今後、他人のステータスが見られるようになることがあるかはわからないが気をつけるとしよう。
今は書斎で本を読んでいる、この家は書斎と言えるくらいには、本が置いてある。
この異世界でも例に漏れず本はそこそこな高級品だと思われる。なぜかというと結構なお金持ちであるはずの我が家でも実用性がある本は少ないのだ。
ちなみに、なぜ裕福だと思ったのかというと、単純に家がでかいからだ。
まぁ、そのおかげでこの世界のことがある程度わかったので何も文句はない。
せっかくだからこの世界のことを説明しておこう。
まずこの世界は、4つの大きな大陸に分かれており、それぞれにその大陸を統一している大国がある。
北にあるのが魔導大国マギリット、東にあるのが戦士の国アトラス、西にあるのが技術大国テクノロジアだ。俺が住んでいるのはテクノロジアだ。
そして南…というより世界の半分と言っても過言ではない大陸があり、そこを、正式名称〈魔界的境界地域〉通称、ヘルボーダーという。
このヘルボーダーのことは、ほとんど何もわかっておらず、今は世界中の強者を募って調査を行っているらしい。
そしてステータスについてもわかったことがある。
まず職業についてだが、それまでの自身の行動から職業が勝手に変化するらしい。なので、狙ってなりたい職業になれるかはわからないらしい。
しかし、行動によって複数の職業の選択肢が表示されるので、ある程度目当ての職業を狙うこともできるそうだ。
そしてレベル…というより経験値を獲得する方法だが。基本的にはどんなことでも経験値は獲得できるらしい。
だが自分の職業に合った行動のほうが経験値量は多い。
また5歳になるまでレベルは上がらず、5歳までの行動によって最初の職業が複数ステータス画面に現れ、自身で選ぶ、そして25レベルごとに更に職業に変化があるらしい。
ここまで説明したのでわかったと思うが、この世界の住人はステータスも見れるし、何なら1人1人に異能力もある。
だが、ほとんどの人の異能力は単純な職業の強化系が殆どらしい。
魔法の使い勝手が良くなったり、生産系の職業だったら器用さが上がったり。少しレアな異能力で、道具にちょっとした付与ができるようになったり程度のことで、俺の〈操作〉みたいな、現代日本人が想像するような異能力は少ないらしい。
そして異能力は、どれだけ経験値を獲得してレベルを上げても成長はせず使い込むしか無い。
では、頑張れば異能力の熟練度が大人に勝ることができるのかというと、それも違う。
職業のレベルが上がれば基本的には身体性能も上昇していく。
この身体性能は、いわゆるゲームなどの、力、耐久、素早さ、器用さ、だけではなく、感覚や、頭の回転速度、目の良さ、免疫力、学習速度、記憶力などの文字通り、【身体性能】すべての総合点みたいなものらしい。
なのでレベルが高いほうが異能力も使いやすくなるし熟練度も上昇しやすいらしい。
また、レベル100、五回目の転職をしたものを「覚醒者」と呼び周りからは畏怖と尊敬の対象になる。理由を聞くと「あの方々は人間じゃない、生物としての’’格’’が違う」とだけ言われた。
そこまで振り返っているときに、足音が聞こえてきた。
「ステラ〜パパが来たぞ〜」
この家の主であり、俺の父親でもある、ルクシオだ。商人らしく少しふっくらとはしているが、不健康には見えず、ギリギリ中肉中背と言えなくもない体つきだ。顔つきは優しさを全面に出したような顔つきで、糸目で胡散臭く見える目元を、今は頑張って開けて、俺に笑いかけている。
「あ~よしよし♡」
そう言って頬をスリスリしてくる。前世で成人していた身からすると、全くうれしくもない行為だが、父が幸せそうなので良しとする。
「ふぅ…ステラ成分も補充できたことだし仕事に戻るか」
そう1人で呟いて部屋から出ていった。
(平和だな…)
この一年間何をしていたのかというと、情報収集の他に、自身の異能力の理解を深めることに時間を費やした。
そして、それまでの情報収集と、世間の異能力の常識を照らし合わせると、俺の異能力は、汎用性がとてつもなく高く、将来性にも大いに期待が持てる所謂【当たり】だと結論付けた。
だが、これは俺がもともと、日本で生まれ育ち高度な教育を受けたからこそだ。
おそらく、家の内装から明かりを火に依存しているような技術力では、科学なども発達していないと考えられる。
その程度の知識しかないような人が〈操作〉の対象にできるのは、精々が目に見えるものに限られる。
例えば…
ボォォォ!!
このように空気中の酸素のみを操作して1か所に集め、摩擦で火を付けるなどということもできないだろう。まぁ、この世界には魔法が存在するので多少魔力を使えば火くらい起こせるのだが。
それでも他にも色々と悪用できそうな能力だ。今後も熟練度も上げていこうと思う。
さて、この世界は5歳までの行動で、今後の生活の方向性が決まると言っても過言ではない。
特に戦闘職を目指すのであれば、転職を一つたりとも逃すことはできない。
まず、戦闘職を目指すことだけは決まっている。この世界では職業が重要だが、生産職と商人は職業がなくてもできるが、戦闘職だけは実質不可能だ。
実質というのは、この世界で戦闘職が金銭を獲得できる方法、モンスターとの戦闘行為、傭兵、兵士、騎士、などで生活するだけの金銭を得るためには、戦闘職以外は効率が悪い。唯一、武器鍛冶師だけはできないことはないが、そんなことをするくらいなら初心者用の武器でも作っていたほうがよほど安全に稼げる程度でしか無い。
そんな理由から、とりあえず俺は戦闘職を目指すつもりだ。
それから3年と少し。俺は………牢屋に入れられていた。
それは突然のことだった。
いきなり窓が割られ、顔を隠した賊が侵入してきた。
二人組のその賊は、迷うことなく俺の部屋に侵入し、他には目もくれずに、俺を持ち上げ脱出をはかろうとしたのだが、途中で駆けつけた家が雇っている護衛が、阻止しようと攻撃したことで俺を抱えていない方の賊の片割れが足を止めて応戦する。
そこで救援の護衛が足止めを食らっているうちに俺を抱えて脱出をしようとしていた賊が家の塀飛び越えようとしていた。
その時、
「お母さん!!」
母が塀と賊の間に立ちはだかる。しかし賊がナイフを俺の首筋に突きつけていることを確認すると、賊を睨みつけながら話での対話を試みる。
[その子を放しなさい!!]
〔この状況でわざわざ話し合いなんかに応じるかよ!。 どけ!!〕
そんな一言だけのやり取りの後、賊はそのまま塀を越えていく。
その間、俺は特に反抗はしなかった。理由としては単純に地力が違いすぎるからだ。
俺の異能力は確かに汎用性が高く強力だが、今の俺が全力で操作の異能力を使ったところで、おそらく戦闘職に就いていると思われる賊の、素の身体性能すら突破できないと思えた。この状況で通用するか不確かな戦力だけで反抗するべきではない。
基本的に相当な戦力差が離れていない限り、人質が取られた時点で取られた方の負けだ。
例外としては、人質に取ったものが価値の低いものだったり、賊と人質の戦闘技術が大きく離れているような状況でないと、対処はできない。
つまり、相手が間抜けなことに賭けるか、人質自身が対処することを祈る他は、賊の気を引き、隙を生み出させるようにサポートするしか無い。
地球ほど文明が発達している世界ですら、この現実は変わらなかった。異世界なら、なおのことだろう。
前世ならともかく、今の俺はただの4歳の子供だ。しかもこの世界は前世よりも身体能力の差が激しい。残念ながら今の俺にどうにかすることはできない。
そんな事を考えていると、それまで俺を抱えて走っていた賊がそこそこ大きな建物の中に入って行った。
そこは所々修繕の後があるが、使われている素材自体は上等なのかどことなく高級感がある見た目をしている。
もしかしたら、資産家か権力者が使っているのかもしれない。
〔ボス、拐ってきやした〕
ボスと言われたそいつは、顔中傷だらけの筋骨隆々のハゲ親父だった。
【そいつが依頼されたガキか…】
そういうと顔をしかめながら俺の顔を覗き込んできた。普通のこどもなら泣き出してしまいそうな怖い顔だ。地球にいたら、まずカタギには思われないだろう。
【こいつ状況わかってんのか? 不気味なガキだな…】
俺が周囲の観察をしていると、ボスと呼ばれていた人物が俺に不信感を抱き始めた。ここはとりあえず泣いておこう。
「うぅぅぁぁーんっ」
【理解が遅いだけだったか…】
そういうと興味をなくしたように部下と話し始めた。
【すぐに’’上に’’伝えろ】
〔へい〕
【それとガキを牢屋にでも入れておけ】
〔了解でさぁ〕
そう返事をすると、部下は俺を乱暴に担ぎ上げて部屋から出ていった。
それほど長くない通路を歩き、地下に降りていった先は、薄暗くジメジメした空間に鉄格子がぽつんとあるだけの、牢屋というにはいくらか広すぎる殺風景な場所連れて行かれた。
〔ここにいろ、死なないようにはしてやる〕
「おじさん、ここどこ?お母さんは?お父さんは?ねぇ!」
〔うるせーな、黙って大人しくしてろ!!〕
ガぁんッッッッッッッー
そういうと鉄格子を殴りつけ部屋を出ていった。
さて、ようやく監視の目からは離れた訳だがどうするか…。
とりあえず寝るか、明日になったら解決するかもしれないからな。
そして翌日、俺は賊のアジトから脱出していた。
これは救援が来たからではない。ではどうやってかというと、異能力だ。
運のいいことに今日が5歳の誕生日だった。そして最初の職業についた。
ちなみに俺の職業には、魔法系が多かった。
その中かから、俺は魔力タンクといいう職業についた。
ここで軽く職業について説明すると、職業に就くと、前も説明したように。
経験値が職業によって獲得しやすくなることの他に、ステータスに補正が入ったり、今後のスキルの習熟度に関わってきたり(スキルと言ってもステータスに表示されるようなものではなく、現代日本の技能の習熟のようなものに近いが異世界ならではの魔力関係の技能もあるので、一概に似ているとも言えない)する。
では、俺の選択した魔力タンクとはどういう職業なのかというと、ステータスの魔力だけが大幅に伸びる職業だ。
これだけ聞くとすごいように聞こえるが実際にはデメリットが大きすぎて殆どの選ばない職業でもある。
デメリットは、大きく分けて2つあり、マシな方が、ステータスの身体能力、筋力や持久力などの能力の成長率が永久に少し下がる。
まぁこれは魔法系の職業を選んでいるので前世のゲーム知識がある身からすると受け入れやすい。
問題はもう一つの方で、なんとこの職業、魔法が使えなくなるのだ。
魔法系職業で、武術系スキルに補正もかかっていない状況で、身体能力が落ち、更には魔法も使えなくなる。戦闘職を目指すものなら、まず選ばないような職業である。
ではなぜ俺がこの職業を選んだのかというと、唯一のメリットである魔力量の上昇率が異常だったからだ。
他の初期魔法系職業が平均、もとの魔力量の3倍〜10倍なのに対してこの職業は脅威の100倍。
しかも、俺の場合、魔法のようなことはだいたい異能力で真似できる。
なので増えた魔力を生き物を操作しようとしたときの消費する魔力に当てることができる。
ちなみに100倍というのは魔力量が増えにくい職業なら3回目の転職75レベルと同じくらいで、魔力が増えやすい職業でレベル50くらいと一緒だ。
今回の賊のアジトには、魔法系職業は居なかった。なので異能力で動きを封じ脱出することができた。
試してみてわかったのは、自身の魔力の十分の一くらいの魔力量ならなんとか操れるということだ、なので相手が魔力が増えにくい物理職なら多少の格上でも制圧することができる。ついでに賊のボスが言っていた’’上’’とのつながりの証拠をも持ち帰ったことにより現在、自宅内は大騒ぎだ。
書類の内容的に、商売敵の商人なのは確定として貴族に繋がりそうな証拠も出てきて現在は、貴族の対処を誰にお願いするかの家族会議が開かれている。
誰にお願いするというのは、衛兵に任せるのか、関わりのある貴族に任せるのか、はたまた王様に裁いてもらうため、人脈を駆使して直訴するのかだ。
どれを選んでもメリット、デメリットが有る。
まず、衛兵だが、これは現代風にいうなら警察だ。
そう聞くとここでいいような気もしてくる。
しかし今回の貴族というのは、現代風にいうなら、上級国民と言われている人たちだ。それも江戸時代の特権階級のような、力を持っている上級国民だ。
それも合っておそらく厳重注意をしてもらえたら上出来だろう。
次に関わりのある貴族に相談だが、できるならこれが一番安牌だ。
敵派閥の貴族なら喜んで手を貸してくれるだろう。
しかし問題になってくるのが、誰が味方なのか断言できないことだ。
なにせ家は、儲けてはいるがただの商人だ。知り合いと言えるような貴族はいるが、あくまで仕事上の付き合い。貴族同士のゴタゴタなどは今まで全く関与していなかった。
なので、もし今回の件に関わっている貴族に知らずに近づけばまた危険にさらされるかもしれない。
なので慎重になっている。
最後に王様、もしくは王族への直訴だが、これは単純に労力がかかるのと、借りを方方に作ってしまう。しかもそこまでして王族が動いてくれる保証もない。というリスクが非常に高い選択肢になってしまう。
そうやって家族で頭を悩ましていたので声を掛ける。
「一旦お願いするのは後回しにして、まずは取引のある貴族様と会って仲良くなればいいじゃないかな?」
そう声をかけると、母さんと父さんは驚いた顔をした。
そして、難しい顔をして考え込み俺に聞き返してきた。
父「それは、そのままの意味かい?ステラ」
僕「そのままの意味ってどういうこと?父さん。」
父「何でも無いぞステラ。お前は優しいな〜」
ナデナデ
そうして頭を撫でられる。
僕「でもお父さん。なるべく早く仲良くなったほうがいいんじゃないかな?」
そいういうと俺は無邪気に笑いながら部屋から出ていった。
母「ねぇあなた…」
父「ああ…」
母、父「うちの子は天才ね!!」
このように次、同じようなことが起こったときに対処できるように人脈を広げる。
同時に、信頼できる貴族が見つかれば、それはそれで今回のことが有利に進むような損のない提案をしたところで今後の活動方針だ。
さて、今後の方針だがこの世界で気づいたことがある。
この世界は歪だ。
まず第一に人の命が軽すぎる。まともな為政者なら、人口自体はある程度増えてくれたほうが楽だということ自体、気づくだろう。
それなのにたまたま窓から外を覗いただけで死人を見るし、護衛がいるような商家に賊が侵入してくるほどの治安の悪さだ。
情報が少なすぎて結論は出せないが、まず間違いなくまともな政治はされていないだろう。
そして次が技術力の低さだ。
俺が住んでいる国は’’技術大国’’テクノロジアだ。その国でも未だに明かりは、火を使っており、水は魔法的な技術が使われているポンプで井戸の水を汲み上げている。
’’技術大国’’と謳われているテクノロジアでこれなら他の国はどれだけ不便なのか想像もつかない。
最後が、宗教が存在しないことだ。
現代の地球では宗教がない国のほうが少ないくらいだったはずなのに、この世界では聞いたことがない。
ここまで、この世界の歪なところを説明したが、俺は共通点があると考えている。
それが「覚醒者」呼ばれている存在だ。
最初に説明しておくと現在、覚醒者は戦闘職しか存在しない。
過去には存在したらしいが、覚醒者になれる条件的に戦闘職以外はなりにくい’世界’になっている。
詳しい条件などは今度にするとして。
俺がどうして覚醒者が関係していると考えたかというと、覚醒者というのは、現代地球風に言い換えると、AIを積んだ核兵器のようなものが普通にそのへんを移動しているということだ。
このような人類が存在すれば、宗教的信仰は覚醒者が担うことになり、戦争で兵器をわざわざ作るより人材育成を強化したほうが手っ取り早く簡単に成果が出るし、戦争のために人材を育成しているのが当たり前になれば、おのずと命の価値も低くなる。
しかし悪いことばかりではなく、いいこともある。
それは、権力を手にすることが簡単だということだ。
なぜなら覚醒者になれば権力者どころか信仰の対象になれる世界だ。こんな単純な世界はない。
いや、正確に言うと現代地球でも暴力=権力の構図は成り立つ。
人によっては財力こそが権力だと言う人もいるかもしてないが、物の価値を決めているのは国だ。
俺達がむやみに物を盗んだり、人を騙したり殺したりしないのは法律に守られており、その法律を違反したときに武力組織が介入してくからに他ならない。
国同士の取引だって、金と土地がある国=軍事開発ができる国が一目置かれている。
そして、現代地球は個人で武力を持つことは殆どできなかったからある程度の秩序が保たれていた。
しかしこの世界では個人の動き一つで国がなくなる。そうなると国という言葉の価値から、今までの常識を見直さなければならない。
ここまでのことをまとめると、今後の方針を考えると見えてくるものがある。
「とりあえず、レベル上げるか」
とりあえずレベルを上げようとは思ったが、普通にレベルを上げようとしたら、親から止められるだろう。なのでレベルの上がるメカニズムを解明しようと思う。
俺はまだレベル0の五歳なので外に出ることはできない。
なのでとりあえず周りに注意しながら普段の生活をしていく。
「とりあえず筋トレかな」
もう家にある本は全部読み終わったので最近は筋トレをしている。
そして各種筋トレを始めて1時間が立ったとき体に変化が起こった。
「これは……」
確認するとレベルが0から1に上がっていた。
しかしそれ以上に驚いたのは、レベルアップする前、体の中に、周囲の空気中に漂っていた魔力を吸収したことだ。
「そういうことなら、効率的なレベルアップができるかもしれないな」
俺はもう一度確かめたい事があったので筋トレを続けた。
そして2時間後。
「ふぅ…できた」
俺は長時間の筋トレと無事に自身の仮説が合っていたことの安堵で思わず息を吐いた。
「あとはどうやって他人に対しても同じことをするかだが…」
俺が考えていることは、いかにして他人の経験値を効率的に奪うかだ。
俺がその場に居ればレベルアップした瞬間に魔力を拝借することができる。
しかし、それだとわざわざ他人から経験値を拝借する意味が薄い。
できれば異能力だけのコストでできればいいが、今、一番現実的なのは俺の異能力を自動で発動してくれるような道具を作り出すことだろう。
「仕方がない、俺が久方ぶりの生産職の覚醒者を目指すか。」
そして俺は父親に頼み錬金術道具を用意してもらい異能力を道具に付与する方法を研究し始めた。
そして5年後……
「やっとできたか…」
俺は異能力を付与した道具の開発に成功した。
まだまだ異能力の中でも熟練度がそれほど必要ない初歩的なものしか付与できないが、それでも俺の求めていた使い方には十分だ。
本当はもっと早くから、魔物を倒してレベルを上げたかった。
しかし、そもそも俺はまだ十歳だ、この世界の治安レベルでまともな神経をしている親なら子供を自由に外出させることなどさせないだろうし、俺は過去に拐われている事もあって、ますます親バカが加速している俺の親からしたら一人で出歩けるのはいつになるのかわからない。
そういう事情もあり、俺は先に今後のレベルアップの加速とお金儲けの両方を実現することができる。技術開発に力を注いだ。
そんな俺のステータスはこうなっている。
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名前 :ステラ
性別 :男
年齢 :10歳
レベル:28
職業 :魔力タンク、錬金術師
身体性能:F
異能力:操作
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前見たときよりレベルが増えているのは5歳を過ぎたからだろう。
身体性能はもう少し上がっているかとも思ったが研究に没頭していて身体能力にマイナス補正がかかっている10歳にしてはマシな方だろう。
「さて準備は整った、最後は人手がいるな」
俺は父親に頼んで冒険者ギルドに依頼を出してもらった。
ーーー錬金道具の実験ーーー
内容 ブローチ型錬金道具を装備しながらの魔物討伐。
募集人数 無制限
報酬 魔物の討伐ランクと討伐数によって変動
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自「ありがとう、父さん」
父「かわいい息子の頼みを断るわけ無いだろ?」
父「それにこれが成功すれば想像もできない利益が出るだろうからな」
自「それだけじゃないよ父さん」
父「ん?何がだ?」
自「これで僕のレベルが高速で上がるでしょ?」
父「そうだな、それ自体が自衛につながるから嬉しいぞ」
自「そうじゃなくて、冒険者数十人分の経験値を一人で受け取り続けたら、なれると思わない?」
父「なれるって何に……ッそういうことか!?」
自「どう?父さんは王様とか興味ある?」
父「なれるとしてもなりたくないな、金と多少の権力さえあればあとは面倒だ」
自「そう…」
父「ステラは興味があるのか?」
自「父さんは国ってなんのためにあると思う?」
父「それは…一人ではできないことをするためじゃないか?」
自「だとしたら、圧倒的な【個】の力があれば国なんていう組織は面倒なだけじゃない?」
父「そう…かもしれないな… だとしたらステラはなにかしたいことはないのかい?」
自「強いて言うなら暇つぶしかな」
父「ステラは達観してるな…」
自「そうかな?…」
さてじゃあ、始めるか
俺が楽しむためだけの世界造りを…
好評だったら加筆と修正をして連載するかもしれません。