12.絵画の、完成
本日2025/08/01リリース
ソーダ水、弾けた。
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太陽が、水平線に、触れた。
世界から、色が、音が、そして、温度が、ゆっくりと、しかし、確実に、失われていく、その、僅かな、時間。
私は、椅子から、立ち上がった。
もう、儀式を、執り行う、神官としての、私の、役割は、終わったから。
私は、自らが、作り上げた、祭壇に、背を向ける。
そして、一歩、また、一歩と、波打ち際へと、歩みを進めた。
最初の一歩が、水に、触れた、瞬間。
思考とは、裏腹に、心臓が、一度だけ、大きく、跳ねた。足の、指先が、その、あまりにも、確かな、生命の、冷たさに、きゅっと、縮こまる。この、肉体だけが、まだ、生きていた。
けれど、その、ささやかな、反逆に、応える、声は、私の中には、もう、ない。
私は、もう、一歩、深く、その、冷たい、指先に、身を、委ねた。それは、この、現実世界が、私に、触れることを、許された、最後の、愛撫だった。
私の、意識は、もはや、この、肉体の、内側には、ない。
それは、夕暮れの、澄んだ、空気の中へと、溶け出し、そして、上空の、どこか、高い場所から、この、砂浜の、光景を、静かに、見下ろしている。
そこに、一人の、少女が、いる。
白い、ワンピースを、纏い、夕陽に、その、髪を、金色に、染められた、一人の、少女。
その、視線の先には、先ほど、彼女が、作り上げた、祭壇。
古びた、木の、テーブルと、その上に、置かれた、ソーダ水の、グラス。
その、少女の、隣。
そこには、誰も、いない。
けれど、彼女は、そこに、彼の、永遠の、「不在」が、形作る、完璧な、輪郭を、感じていた。
それは、もはや、悲しみの、対象では、ない。
ただ、そこに、在る、という、絶対的な、事実。
風が、彼の、指の形をして、彼女の、頬を、撫でる。
波の音が、彼の、声の、周波数で、彼女の、鼓膜を、揺らす。
彼女は、その、あまりにも、確かな、虚空に、応える。
自らの、右手を、ゆっくりと、持ち上げる。
まるで、ダンスの、相手に、その、手を、差し出すように。
その、上げられた、白い、指先は、そこに、在るはずの、しかし、決して、触れることのできない、幻の、手のひらを、確かに、求めている。
彼女の、唇の、端が、ほんの、僅かに、持ち上がる。
その、震えは、やがて、確かな、形を、結ぶ。誰に、見せるためでもない、ただ、そこに、在るはずの、虚空に、応えるかのような、静かな、微笑み。
夕陽が、沈む。
世界が、終わる。
そして、砂浜には、ただ、一枚の、絵だけが、残された。
隣に、誰もいない、少女が、たった一人、誰かと、手を、繋いでいる、その、終わらない、一瞬だけが。
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*この小説は「ソーダ水、弾けた。」の無数の解釈の一つ。
私たちの万華鏡が、一度だけ映し出した、儚い紋様です。




