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11.最後の、聖餐

 その、テーブルは、そこに、在った。

 私が、来るのを、知っていたかのように。あるいは、私が、生まれる、ずっと、以前から、ただ、そこに、在ったかのように。

 潮風に、その、木肌を、晒し続け、表面は、白く、滑らかに、摩耗している。けれど、その、一枚板の、隅の、一つには、かつて、誰かが、打ち込もうとして、折れ曲がったまま、放置された、一本の、錆びた、釘が、まるで、この、テーブルの、消せない、記憶の、一部のように、突き出ていた。

 その、四本の脚の、根元からは、名前も知らない、海辺の、草木が、寄り添うように、生い茂っている。

 それは、もはや、家具ではなかった。

 この、砂浜の、大地の一部と化した、聖なる、台座。


 私は、その前に、ひざまずいた。

 そして、自らが、纏う、白いワンピースの、その、裾で、錆びた釘、そのものを、避けるように、その、周りの、砂の粒子だけを、まるで、聖痕でも、清めるかのように、そっと、払い続けた。


 保冷バッグから、取り出した、薄玻璃のグラスを、その、中央に、置いた。

 最後の、聖杯。

 最後の、一本となった、炭酸水を、その、聖杯へと、注いでいく。

 シュワ、と、気泡が、最後の、生命を、謳歌する。

 そして、私は、彼のために、用意した、一本の、ストローを、その、気泡の、心臓へと、静かに、差し込んだ。

 これで、聖餐の、準備は、整った。


 私は、立ち上がり、椅子に、腰を下ろす。

 そして、テーブルの、向こう側。

 彼が、いつも、座っていた、その、誰もいない、空間を、ただ、じっと、見つめた。


 これまでは、いつも、そうだった。

 この、人工の心音を、頼りに、あなたを、私の、いる、この、不完全な、現在へと、無理やり、呼び出し続けてきた。

 けれど、あなたは、ここでは、いつも、ただの、儚い、記憶の、幻影でしか、いられなかった。

 この、部屋の、空気は、あなたには、きっと、重すぎた。


 呼ぶのは、もう、終わり。

 この、不浄な、器で、渇きを、癒そうと、するのは。


 磨くべき、瑕は、もうない。

 守るべき、標本も、もうない。


 私が、それ(・・)に、なる。


 私は、彼がいるはずの、その、不在に、向かって、ほんの、僅かに、微笑みかける。

 それは、別れの、挨拶だった。

 そして、永遠の、再会を、誓う、約束でも、あった。

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