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南洋の真珠

作者: 網笠せい

 南のあたたかな海には、色とりどりの珊瑚礁や輝く鱗をもつ魚たちが多く棲んでいます。天気のいい日には空からの光が水面を通して差し込み、海の中に青緑色のまだら模様を作り上げます。そのなかをくぐるように、海の生き物たちが回遊していきます。

 薄暗い岩礁の隙間に、目立たない大きな白蝶貝という貝がひとつありました。名前と違って、ごつごつした白灰色の表面に海藻がついた、美しい南の海にはそぐわない貝です。


 ある日嵐が来て海の中は大いに荒れ、海底の砂がまきあがり、一寸先も見えないほどに濁りました。海の中はかき混ぜられたようになって、ぐるぐると目がまわるありさまです。普段は尾ひれを煙のようにくゆらせて泳いでいる魚も、海流に乗って悠々と泳ぐ亀も、珊瑚礁に隠れて息を潜めています。


 白蝶貝も懸命に嵐の過ぎるのを待っていましたが、海底からまきあがったつぶてを浴びて砂の中にすっかり埋まってしまいました。嵐が去ったとき、白蝶貝はつぶてを飲み込んでしまったことに気がついて目を白黒させながら吐き出そうとしました。けれどもうまくいきません。

 最初は白蝶貝も気にしていましたが、彼女は特別のんきな性格だったので、そのうち飲み込んだつぶてのことなど忘れて、のほほんと毎日を暮らしました。


 あるとき、何かの拍子に白蝶貝の開いた口から、ころりと真珠がこぼれ落ちました。

 つぶては白蝶貝の中で白く輝く真珠となったようです。「はて、こんなものあったかしら」と白蝶貝は真珠のことなど気にも留めず、のほほんとエサを探して泳いでいきます。

 色鮮やかな南の海の中を、白い真珠は人知れず海流に乗って転がっていきました。


おわり


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