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プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第2章「ITエンジニア・佐伯拓也(28歳)」
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第3話「現在地と未来の可能性」

都心のホテルラウンジは、落ち着いた午後の空気に包まれていた。テーブルの上には、白いカップと佐伯拓也が持参したノートが開かれている。香坂美月は、静かにカップを置きながら、彼の表情を観察した。


「こんにちは、佐伯さん。前回から少し時間が経ちましたね。」


「こんにちは、美月さん。」


佐伯は軽く頭を下げ、少し緊張した面持ちでノートをめくった。


「転職市場のリサーチと、希望する企業のリストアップをしてみたんですが……」


美月は静かに頷き、彼の言葉を待った。


「調べてみると、思った以上に『テックリード候補』としてのポジションがあることが分かりました。でも、いざ転職を考えると、本当に今の会社を辞めていいのか、また迷いが出てきてしまって……。」


彼は苦笑しながら、コーヒーを一口飲んだ。


「転職の可能性を知ったことで、逆に『このまま現職で頑張るべきなのでは?』という考えも浮かんできてしまって。」


美月は少し微笑みながら、佐伯の目を見つめた。


「それは、ごく自然なことですよ。転職を考えるとき、多くの人が一度は同じ迷いを経験します。佐伯さんの場合、迷いの原因は何だと思いますか?」


佐伯はしばらく考え込み、ゆっくりと答えた。


「多分……転職が成功する保証がないから、です。もし新しい環境が自分に合わなかったら、今より悪くなってしまうかもしれない。そう思うと、なかなか決断できなくて。」


美月は頷きながら、ナプキンの端にペンを走らせた。


「では、一緒に整理してみましょう。転職に対する不安と、現職に留まる場合のリスク、どちらが大きいのかを比較してみるのはどうでしょう?」


佐伯は少し驚いた表情で、美月が書いたメモを見つめた。


1. 転職しない場合のリスク

•会社の環境が変わらず、成長の機会が限定される可能性がある

•3年後、5年後にキャリアの選択肢が狭まるかもしれない

•今のままでは、マネジメントの経験を積めない可能性が高い


2. 転職する場合のリスク

•新しい環境に適応できるか分からない

•転職先の企業文化が自分に合わないかもしれない

•求められるスキルが高く、最初は苦労する可能性がある


佐伯はメモをじっと見つめ、少しずつ口を開いた。


「なるほど……こうやって整理すると、どちらにもリスクはあるけど、『転職しないリスク』も意外と大きいですね。」


「そうですね。特に、佐伯さんのキャリアの軸は『成長できる環境に身を置くこと』でしたよね?」


「はい。それを考えると、やはり今のままでは難しい気がします。」


美月は微笑みながら、続けた。


「では、次に『転職の成功率を上げるための準備』について考えてみましょう。転職がリスクなのは、情報が不十分だからかもしれません。どんな企業なら佐伯さんに合うのか、もう少し明確にすることで、不安を減らせるかもしれませんよ。」


佐伯は納得したように頷き、ノートをめくった。


「実は、転職サイトを見ながら、いくつか気になる企業をピックアップしてみました。」


彼はノートのリストを指し示した。


「A社:成長中のスタートアップで、テックリード候補のポジションあり。」

「B社:大手企業で、エンジニアのマネジメント研修制度が充実している。」

「C社:外資系で、開発とマネジメントを兼務できるポジション。」


美月はメモを見ながら、ゆっくりと頷いた。


「どの企業も魅力的ですね。佐伯さんがこの中で最も興味を持っているのは?」


佐伯は少し考えてから、A社を指差した。


「A社です。スタートアップで成長できそうだし、裁量も大きそうなので。」


「では、次のアクションとして、このA社についてより詳しく調べ、実際にカジュアル面談を受けてみるのはどうでしょう?」


「カジュアル面談……ですか?」


「はい。最近の転職市場では、いきなり本選考に進むのではなく、気になる企業とカジュアルな面談をして、雰囲気を確認することが一般的です。佐伯さんが転職に対する不安を解消するためにも、まずは実際の社員に話を聞くのが良いと思います。」


佐伯はしばらく考え、やがて深く頷いた。


「確かに、それならリスクを抑えつつ情報を得られますね。やってみます。」


美月は微笑みながら、最後にもう一つアドバイスを加えた。


「転職活動は、最終的には『自分がどの環境で成長できるのか』を見極めるプロセスです。企業の情報を集めることに加えて、面談を通じて『自分が働くイメージ』を持てるかどうかも大事にしてください。」


佐伯は深く息を吸い、前向きな表情で頷いた。


「ありがとうございます。次回までに、A社にコンタクトを取って、カジュアル面談を設定してみます。」


「それは素晴らしいですね。次回、その結果を一緒に整理しましょう。」


佐伯はカップを持ち上げ、ゆっくりとコーヒーを口に運んだ。


「なんだか、少しずつ道が見えてきました。」


「そうですね。一歩ずつ、着実に進めていきましょう。」


美月は穏やかに微笑みながら、静かにカップを置いた。


佐伯は、確かな手応えを感じながら、新たな一歩を踏み出す決意を固めた。

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