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プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第2章「ITエンジニア・佐伯拓也(28歳)」
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第2話「見えてきたキャリアの輪郭」

都内の高級ホテルラウンジ。窓から差し込む柔らかな陽光が、テーブルの上に広がるカップとノートを照らしている。静かなクラシック音楽が流れる中、香坂美月はカップに手を伸ばしながら、目の前に座る佐伯拓也の表情を観察していた。


「今日はお会いするのが楽しみでした。」


美月が微笑みながら言うと、佐伯は少しだけ苦笑し、ゆっくりと息を吐いた。


「楽しみというより、正直、ちょっと緊張していました。」


「緊張?何かありましたか?」


佐伯はカップを手に取りながら、少し視線を落とした。


「前回、『テックリード的な役割を会社で模索してみる』という課題を決めましたよね。上司に相談しようと思ったんですが……結局、うまく話せなかったんです。」


美月は静かに頷き、彼が続けるのを待った。


「何度か話す機会はあったんですが、なかなか切り出せなくて。いざ話そうとすると、『今の会社で本当に成長できるのか』という疑問が浮かんできてしまって……。」


佐伯は眉を寄せながら、少し自嘲気味に笑った。


「自分でも驚いたんですが、もしかしたら転職したほうがいいのではないか、という考えが頭に浮かんできてしまったんです。」


美月はその言葉を聞き、佐伯の表情をじっと見つめた。


「なるほど。その疑問が浮かんだのは、大切な気づきですね。では、なぜ『今の会社で成長できるのか』という疑問が湧いたのか、一緒に整理してみましょう。」


佐伯は少し考え込みながら頷いた。


「多分……これまであまり意識していなかったんですが、うちの会社って、マネジメント系のキャリアパスがあまり明確じゃないんです。『テックリード』っていうポジション自体、会社としては明確に定義されていなくて、曖昧なままなんですよね。」


「つまり、キャリアパスの選択肢が会社内で見えにくい、ということですね。」


「そうです。もし自分が今の会社で成長していくとしても、明確なゴールが描けない気がして……。」


美月はゆっくりと頷いた。


「それは重要なポイントですね。では、佐伯さんが『転職』と『現職での成長』のどちらを選ぶべきか、フレームワークを使って整理してみませんか?」


「フレームワーク、ですか?」


「はい。転職を考える際には、大きく三つの視点で比較することが大切です。」


美月はテーブルの端に置かれたナプキンに、ペンで三つの項目を書いた。

1.現在の環境で得られる成長機会

2.転職によって得られる新たな可能性

3.自分のキャリアの軸


「この三つの視点で整理すると、より客観的に自分の選択肢を見つめることができます。」


佐伯はそのメモを見つめながら、少し考え込んだ。


「なるほど……。じゃあ、まず『現在の環境で得られる成長機会』から整理してみます。」


美月は頷き、佐伯の言葉を待った。


「今の会社で働き続ける場合、技術的なスキルはまだ磨けると思います。でも、マネジメントスキルを学ぶ機会はほとんどないですね。上司にも相談しづらいし、そもそも会社の体制として、そういう成長を支援する仕組みが整っていません。」


「なるほど。では、もし転職をした場合、どのような新たな可能性が得られそうですか?」


「うーん……まだ具体的に考えたことはないですが、転職市場を調べたところ、今の自分の経験でも『テックリード候補』として採用してくれる企業はありそうです。そういう企業なら、最初からマネジメントの機会を持てるかもしれません。」


美月は少し微笑んだ。


「では、最後に『自分のキャリアの軸』について考えてみましょう。佐伯さんにとって、何が一番重要なポイントですか?」


佐伯は真剣な表情になり、少し考え込んだ。


「……やっぱり、自分が成長できる環境で働きたいですね。ただ漫然と仕事をするのではなく、新しい挑戦をしながらスキルを磨いていける環境。」


美月は頷いた。


「そう考えると、現職よりも転職の方が、佐伯さんのキャリアの軸に合っているように思えますね。」


佐伯は深く息を吐いた。


「そうですね……。今回、ちゃんと整理してみて、転職を前提に動いたほうがいい気がしてきました。」


美月は柔らかく微笑んだ。


「では、次のステップとして、転職活動をどのように進めるかを具体的に考えていきましょう。たとえば、転職市場のリサーチをもう少し深めることや、希望する企業のリストを作成することが、最初のアクションになります。」


佐伯はメモを取りながら、しっかりと頷いた。


「分かりました。まずは、転職市場の状況をさらに調べて、自分に合った企業のリストを作ってみます。」


「素晴らしいですね。次回のセッションでは、そのリストを見ながら、応募戦略について考えましょう。」


佐伯はカップを持ち上げ、口元に運びながら、少し笑った。


「なんだか、道筋が見えてきた気がします。」


「それは良かったです。キャリアの決断は簡単ではありませんが、しっかり整理することで、自信を持って選択できるようになりますよ。」


佐伯は力強く頷いた。


「ありがとうございます。次回までに、しっかり準備を進めてきます。」


美月は微笑みながら、静かにカップを置いた。


佐伯は、新たな一歩を踏み出す決意を固めたようだった。

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