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プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第14章「舞台女優・神崎玲奈(31歳)」
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第3話「女優としてのプライド」

都心のホテルラウンジ。午後の穏やかな陽光がカーテン越しに差し込み、上品な静けさが漂っていた。


テーブルの向かいに座る神崎玲奈の表情は、どこか沈んでいた。前回のカウンセリングで演技指導の可能性を見出し、新たな一歩を踏み出す決意を固めたはずだった。しかし、今日の彼女からは自信が揺らいでいるような雰囲気が感じられた。


「美月さん……正直、今少し迷っています。」


香坂美月は静かに紅茶を口に含みながら、玲奈の言葉を待った。


「先週、演技指導のワークショップを企画しようと考えて、知人の俳優や演出家に話を聞いてみました。」


「どのような反応でしたか?」


玲奈は小さく息を吐き、カップの縁を指でなぞった。


「予想以上に前向きな反応が多かったんです。 若手俳優の中には、演技指導を受けたくても機会がなくて困っている人が多い。ワークショップの需要は確かにあると感じました。」


「それは素晴らしいですね。」


「……でも、それとは別に、私自身が改めて感じたことがあって。」


玲奈は少し視線を落とし、ゆっくりと続けた。


「久しぶりに舞台のオーディションを受けたんです。」


美月は驚きながらも、静かに頷いた。


「それは、どうでしたか?」


「……惨敗でした。」


玲奈は自嘲気味に笑った。


「オーディションの場に立った瞬間、自分の演技に自信が持てなくなってしまって。以前なら自然にできていたことが、ぎこちなく感じたんです。結果は不合格。審査員のコメントは、『技術的には申し分ないが、新鮮さが足りない』でした。」


美月はメモを取りながら、慎重に言葉を選んだ。


「玲奈さんは、そのコメントをどう受け止めましたか?」


玲奈は少し考え込み、唇を噛んだ後、小さく笑った。


「年齢の問題なのかな、と思いました。20代の頃は、無邪気さやフレッシュなエネルギーで役を勝ち取ることができた。でも、今はもうそういう役には求められない。若手に交じると、自分の演技がどこか古く感じられるんです。」


「年齢を重ねたことで、以前とは違う評価軸が生まれた、ということですね。」


「そうですね。でも、それが悔しくて……。演技指導を始めることを考えていたけれど、私はまだ女優として本気で勝負したいのかもしれない って思ってしまいました。」


美月は玲奈の言葉を慎重に噛みしめながら、静かに問いかけた。


「つまり、演技指導の道を進むことが、女優としてのキャリアを諦めることにつながるのではないか、という不安がある?」


「そうなんです。指導者になるということは、自分が『演じる側』ではなく『教える側』に回ることを意味するのではないか って……。」


美月は少し考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「玲奈さん、演技指導をすることが、女優としての活動にマイナスになると本当に思いますか?」


玲奈は美月を見つめながら、少し戸惑ったように黙り込んだ。


「たとえば、ハリウッドでは現役の俳優が演技指導をしながら、自身のスキルを磨いています。演技を深く理解し、他者に伝えることで、より豊かな表現ができるようになるからです。」


玲奈は少し驚いたように眉を上げた。


「確かに、海外ではそういうケースが多いですね……。」


「演技指導をすることは、演技の最前線から退くことではなく、むしろ演技の幅を広げること に繋がるのではないでしょうか?」


玲奈はしばらく考えた後、小さく頷いた。


「……そうかもしれません。でも、私が本当に悩んでいるのは、演技の世界での自分の立ち位置を見失っていることなのかもしれません。」


美月はノートにメモを取りながら、玲奈の言葉を整理した。


「では、まずは演技指導を一つの選択肢として考えながらも、女優としてのキャリアを続ける方法を模索する というのはどうでしょう?」


「具体的には?」


「たとえば、今まで演じてきた役柄とは異なる、新たな挑戦をしてみる。年齢を重ねたからこそ演じられる役が必ずあるはずです。」


玲奈は少し考え込みながら、ゆっくりと頷いた。


「確かに……これまで若い女性の役が多かったけれど、大人の女性の役にシフトする時期なのかもしれませんね。」


「そうですね。演技指導と並行して、新たな役柄に挑戦することで、女優としてのキャリアも再構築できるかもしれません。」


玲奈はカップを手に取り、一口紅茶を飲んだ後、ふっと微笑んだ。


「少しだけ、気持ちが軽くなった気がします。」


美月は穏やかに微笑んだ。


「玲奈さんは、女優としても、指導者としても、まだまだ可能性に満ちています。選択肢を一つに絞る必要はありませんよ。」


玲奈は静かに頷いた。


「ありがとうございます、美月さん。次回までに、新しい役柄の研究と、ワークショップの企画を進めてみます。」


「素晴らしいですね。どちらも玲奈さんの未来につながる大切なステップです。」


玲奈はもう一度頷き、カップを置いた。


「女優として、もっと広い世界を見てみます。」


こうして、玲奈は演技指導と女優業の両立に向けて、新たな挑戦を始めることを決意した。

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